16話 静かな怒り
「で、や…やりましたか…?」
「なわけねえだろ。そのお決まりのテンプレセリフで死んだ敵キャラを俺は見たことねえぞ」
ルノアの言葉に対し、ユウキが冷めた口調で言うと、ウィーブスの首なし胴体から首が生えてくる。
「…残念だったな。人間。首を切断したくらいで俺は死なんぞ」
「うん、知ってた」
ユウキがウィーブスの挑発に淡々と答える。その返しが、気に食わなかったのだろうか、ウィーブスはその瞳に怒りを宿す。
「人間風情が…調子に乗るなと…言っている!」
ウィーブスからまたもや無数の腕が生えてくる。そして、ユウキに襲い掛かる。ユウキは先ほどと同じように切り落とす。が、すぐさま腕が生え、ユウキに襲い掛かる。
「何っ…⁉」
「ははは!くらえ!」
「敵をその壁で燃やし返せ!"獄炎壁"‼」
ユウキが唱えるとユウキの前に魔法陣が現れる。ウィーブスの腕はユウキに届くことなく見えない壁にさえぎられる。そして、その腕が燃え始める。
「ぐあああ!」
さらにその炎はウィーブスの全身へと広がろうとする。しかし、それに気づいたウィーブスが自らの腕を引きちぎり、延焼を防いだ。ウィーブスはユウキを睨みつける。
「次に備えた方がいいぞ」
ユウキはウィーブスに臆することなく言い、指を鳴らす。するとウィーブスを中心として地面に魔法陣が展開される。
「"雷炎"」
「あああああああ‼」
魔法陣から雷が立ち昇り、ウィーブスを襲った。
「クソ…っ!」
ウィーブスの目と鼻の先にユウキがいた。ユウキは心臓を貫き、刀を抜いた後、高速で四肢を切断し、首を斬る。
「…どうだ…?」
ユウキは一旦後退し、様子を見る。だが、すぐにウィーブスの体が再生した。
「くそがああ…!矮小な人間があああ!」
「…マジかよ」
ユウキはウィーブスの再生能力に驚く。そして、キースの方を向き問う。
「…あいつ、どうすれば殺せるの?」
「…細胞という細胞を…一片の肉塊も残らないようにする。そうしないと、死なない」
「マジかよ…。めんどくせえ…」
「代わりにやろうか?」
「いや、いいわ」
ユウキはそう言い、再びウィーブスに向かう。
「…調子に…乗るなああああ‼」
ウィーブスがそう叫ぶと突風が吹き荒れ、ユウキは体勢を崩し、飛ばされる。下を見ると崖の底。果てしない闇が広がっている。底は全く見えない。
(マズイ…崖から…)
「ユウキ!掴まってください!」
ルノアのヨーヨーが飛んでくる。
「…っ!」
ユウキはヨーヨーを掴む。ルノアはユウキがヨーヨーを掴んだのを確認し、引き上げる。ユウキは着地し、体勢を立て直す。
「助かった」
「どうもです」
ルノアはそう応じる。
「にしても変です」
「何がだ?」
「あいつのマナがみるみる膨れ上がっているし、変なオーラをまとい始めています。…いや…このオーラ…キースに似てる…?」
「…どうしてそんなことがわか——いや、お前の固有スキルか」
「ええ。神ノ眼であいつの状態を鑑定しています」
「あいつの思考が読めるか?」
「今の私では…。さっきの森の魔物とかだったら読めるんですけどね。あいつは人間のように思考できますし、何より謎のオーラがそれを遮っている」
「…そうか」
(…謎のオーラか。たしか、さっきキースが魔王は莫大なエネルギーをその身に宿す。ただの魔族のままではその力に耐えきれないって言ってたな。…とするとこのオーラっていうのは魔王の力の源。つまり、ウィーブスがそれを引き出したために一気に強くなったという事か)
ユウキはルノアの情報からそう推測する。
「人間めぇ…!キースぅ…!」
ウィーブスは憎しみの目でユウキ達を見ている。
「…ウィーブス。お前…」
「ああ。そうだ。本当は使いたくなかったがなぁ…でも、あんたらを殺すためには仕方がねぇよ…!」
キースは悲しそうな目でウィーブスを見る。
「わかってるのか…?そのオーラ…"魔気"だろ?そんな量の魔気…魔王にとっては少々みたいなもんだが、お前みたいなただの魔族には過剰だ。魔王でなければ、やがてはその魔気は暴走し、お前自身をもむしばむ。…お前、死ぬぞ」
「わかってるさ…魔気を自由に扱えるのは魔王だけ。…だが、魔王でさえもこのエネルギーを完全にコントロールすることは不可能。だから、魔王として完全に戦えるのは常に魔気で満たされ、魔気が完全に魔王の体になじむ場所…魔界だけなんだろ!?」
「………がっ!」
ウィーブスが先程とは比べ物にならないほどの速さと力でキースに近づき、その体に重たい一撃を見舞う。
「キース!」
ユウキがキースに駆け寄ろうとする。が、次の瞬間。いつの間にか移動したのか。ウィーブスが立ちはだかっていた。
「…は?」
ユウキは地面に叩きつけられる。だが、それだけにとどまらず、無数の手でユウキを殴りつける。
「…!凍——」
「無駄だ」
ウィーブスは魔法を行使しようとするルノアの手を掴み、ユウキと同じように地面に叩きつける。
「あ…う…」
「イキッてんじゃ…ねぇ…!"獄炎"‼」
ユウキの手のひらから炎が放たれる。だが、ウィーブスはその炎を吹き飛ばした。
「何…?」
「ふん。ちゃんと火を出すならケーキも持ってこい。人間」
ウィーブスは右足を振り上げ、ユウキの腹を踏みつけた。ユウキはあまりの激痛に吐血する。
「があああ…!——まだだ…!"遅延発動魔法"」
ウィーブスの足元に魔法陣が展開される。
「"凍結"!」
氷が魔法陣から昇るように現れる。
「ふん」
だが、ウィーブスは左足で氷を踏みつけ魔法を阻止する。
「な…⁉」
「終わりだ!人間!」
ウィーブスの無数の手がユウキを貫こうとする。だが、次の瞬間。ウィーブスの体が地面にめり込まんばかりに叩きつけられる。キースだった。キースはさらにウィーブスの頭を掴み、放り投げる。とんだ馬鹿力だ。
「…っ…!」
ウィーブスは空中で回転し体勢を立て直し、崖から落ちるのを阻止した。
「…ここまで腹が立ったのはいつぶりかなあ。いや、初めてかもしんね」
キースがつぶやく。その瞳には静かな怒りが宿っていた。
「キース…」
ルノアがつぶやく。ユウキは何も言わずただキースを見つめる。キースはユウキの視線に気づき、優しい笑みを浮かべる。
「…ちょっと、休んでてくれ」
キースはそう言うとくるりと振り返り、ウィーブスに向かって二、三歩進む。
「"解放"」
キースがそう唱えると、突風が吹き、キースは炎に包まれる。やがて、突風が止み炎が消えるとそこにはあの印象的な角、痣、額の目——魔王の姿をしたキースがいた。
「恐怖の魔王を敵に回すことの恐ろしさ…教えてやろう。かかってこい。賊よ」
魔王の静かな怒り…!




