10話 卑怯は愚者が吠えるが役に立つ
「ふっ!」
キースが後ろに飛び下がる。
「そういえば、名を聞いてなかったな。名を聞こう」
「俺はユウキ。そこにいる残念な女はルノア」
「ユウキか。…なるほどな。やはり…まあ、今は良い。いくぞ!ユウキ!」
「えーこないで。やる気でないんだが」
とことん面倒くさそうに言うユウキ。だが、その言葉とは裏腹に彼の目は鋭く、キースの一挙一動を見逃さまいと見ていた。
「はあっ!」
キースが踏み込み、勢いをつけ一気にユウキに迫る。そして、連続でユウキに殴りかかるが、ユウキはそれをすべて剣でさばいていた。
「はっ。やるな!!」
「じゃあ、この辺でやめてもらえませんかね。その攻撃をやめてくんない?」
そう淡々と言いつつユウキは自然な流れでキースを斬ろうとする。
「!っぶねえ!」
キースがそれに気付き、後ろに下がる。
「すげえな。あそこから自然と攻撃へ持っていくとは。だが、一瞬だけ、ものすごい殺気を感じちまう。強すぎて、思わず下がっちまうくらいに。…お前みたいなやつは初めてだ。戦いの間、お前はずっと無表情だ。まるで虫を踏み潰すかのように、何も思ってないような表情だ」
「ひどいな。俺をそんな冷酷な奴みたいに言いやがって」
「はいはいー!私、ユウキにおとりにされて、見捨てられそうでしたー!」
不意にルノアが口を出してくる。
「…お、お前…」
「黙れ。…ルノア、後で泣かす」
「ひっ!?」
ルノアの顔が恐怖の色で染まる。
「うらぁ‼」
キースが蹴りを入れてくる。ユウキはそれをかわす。だが、これでもかとくらいキースは蹴りや突きを繰り出す。
(まずいな…このままだと、いずれやられてしまうだろう。相手は魔王。手加減してるとはいえ…このままいけば、先に俺の体力が尽きる)
「どうした!?防ぐだけじゃ勝てねぇぞ!」
キースは大きく振りかぶり蹴りを入れようとする。だが、そこに一瞬の隙が出来る。
「"グラトリーム"‼」
ユウキはグラトリームを発動し、キースを引き込まんと異空間を発生させる。もちろんキースを空間に引き込むことはできない。だが、それでいいのだ。グラトリームの引力に一瞬だけ、キースが体勢を崩す。ユウキはその隙を見逃さなかった。すかさず剣を振り下ろす。
「はあっ!!!!」
だが、甘かった。
「甘い‼」
キースは一瞬で態勢を整え、ユウキを蹴り飛ばす。ユウキは壁に激突した。
「があっ‼」
「ユウキ‼」
ルノアが叫ぶ。だが、ユウキは立ち上がらない。
「やば…やりすぎたか…?セバス‼回復薬を!」
「はっ。ここに」
キースがセバスを呼ぶと同時に、彼はキースの背後に立っていた。そして、キースはその骸骨の手から回復薬をひったくるように取ると、走ってユウキのもとへ行った。ユウキの顔を見ると白目をむいて倒れていた。
「…ちょい、やりすぎたかなぁ」
キースはそう言い、頭を掻く。そして、ユウキに回復薬を与えようと、かがみかけた時だった。
ガバッ!ユウキが突然、起き上がる。その表情は先程と違い、睨み殺そうと言わんばかりの鋭い表情だった。
「っ!?」
キースは驚き、バランスを崩す。何が起きているのか、理解が追い付かない。ユウキはその隙を見逃さなかった。ユウキは二度も失敗するような真似はしない。
「はっ‼」
ユウキはキースを足払いする。キースはそのままバランスを崩してしまい、転倒する。
「っ…何が…」
「動くな」
キースが起き上がろうとしたが、阻止される。ユウキが剣をキースの首に突き立てていた。キースはユウキの表情をちらりと見た。とても冷たい無表情だった。
「俺の勝ちだ」
ユウキが有無を言わせない口調で言う。
「そうだな。…俺の負けだ」
決着はついた。ユウキは魔王に勝った。
「……ユウキ。あなた、ホント卑怯者ですね」
ユウキを迎えるなりルノアはそう罵る。ユウキは無言でルノアを殴る。キースが引いたような表情をしている。魔王でもこの光景は異常だと思うようだ。
「いったあ!でも、そうじゃないですか‼わざと、気絶したふりして不意打ちなんて!しかも、魔王さん、手に回復薬を持っていたんですよ‼」
ルノアが頭を押さえながら涙目でユウキに言う。「これじゃ、どっちが魔王かわからないです」と小声でつぶやいていた。
「仕方ないだろ。ああでもしなければ、この男には勝てなかった。手加減していても、魔王だ。俺が叶う相手ではない。ふっ…卑怯は愚者が吠えるが役に立つ」
「なにドヤってんですか。あと、愚者って…吠えるって… 馬鹿にしすぎでしょ」
「愚者に馬鹿といわれるほど悲しいことは無いな」
「私を愚者呼ばわりしないでください!」
「……そんなことはどうでもいいが…おい、キース。約束通り、俺の聞くことには答えてもらえるんだよな?」
ユウキの問いにキースが頷く。
「ああ。お前らがどんな情報を欲しているかは知らないが、答えれるものは答えてやる。それに、この戦いの後にどっちみち、教えられることは教えようと思ったからな」
「どういうことだ?」
ユウキが聞くとキースは真面目な表情で語りだした。
「…そもそも、魔王というのは俺一人ではない。この世界には俺以外にも多くの魔王が存在するが…今は置いておこう。魔王というのは、役目のようなものだ。魔王の子がなる場合もあるし、魔王を殺した奴がなることもある」
「…!」
ユウキは語られ始めるこの世界の事実に驚きの表情を隠せない。
「俺は”恐怖の魔王”という名を冠した魔王だ。そして…先代魔王。…彼は今までの恐怖の魔王よりも残酷で恐怖を与えた最悪の奴だった。もっとも有名なのが始まりの町、スタテリアの冒険者ギルドのすぐそばに魔界を置いたことだ。おかげで、冒険者になろうってやつは全くいないし、今の魔王を倒そうというやつもいなかった。ただただ、恐怖で支配していた」
「魔界がこんなにも近いのはそういうわけだったのか…」
ユウキがつぶやくとキースは黙って頷く。
「…俺は、そんな現状に疑問を抱き、先代魔王を殺し恐怖の魔王の座についた。そして、俺は人間への支配を弱め、逆に人間が暮らしやすいよう様々な支援をし、人間と手を取る生き方を選択した。… だが、それを快く思わない先代を支持する一部の幹部連中は俺のもとを去り、各地で人間を蹂躙している。俺はそれを止めなければならない。だから……俺も連れて行ってくれないか!?俺をお前らの仲間にしてくれ‼」
キースが頭を下げる。
「顔を上げろよ。キース」
ユウキが優しく言う。キースは恐る恐る顔を上げる。
「そんなこといわれちゃ…答えはもう、決まっているも同然じゃねえかよ」
「ゆ、ユウキ…」
ユウキはふっと微笑み言う。
「お断りします」
すがすがしい笑顔で言う。
「はああああ!?いや、今のどう考えても、仲間にする流れだろ!?」
「いや、そんなこと言われてもなー。怪しすぎるし、魔王を仲間って…。聞いたことねえよ。絶対、デメリットの方が大きいだろ。そもそも俺たちが冒険者だとは限らないぞ?旅をするとなぜ言える?」
「え?違うのか?てっきり、冒険者かと…」
「まあ、あってるけど」
「やっぱ、そうじゃねえか!」
「…私も、今回はユウキに賛成ですね」
しばらく話を聞いていたルノアがめずらしくユウキに賛同する。
「キースは仮にも魔王です。さすがに魔王を仲間にするのは…警戒します。キースのことを詳しく知らないわけですし、そう簡単に信用するわけにはいかないですよ。…それにさっき、戦っていたわけですし」
「そうだな。こいつとはさっきまで戦っていた。つまりは敵だ。敵に塩を送るような真似はしない」
そこまで聞くとキースは不意に笑い始める。
「…なんだ。突然笑い始めて。気持ち悪い」
「ユウキ…俺が敵だといったな?」
「そうだが」
「なら…お前は愚か者だよ」
「…どういうことだ」
ユウキはキースの発言に眉をひそめる。
「簡単なことだ。…戦っていた敵が仲間になる。ありふれたテンプレじゃないか‼お前はこのテンプレをないがしろにするというのか!?ユウキ‼」
「なん…だと…」
ユウキはショックを受けたように言い、膝から崩れ落ち地面に手をつく。
「俺としたことが…なんて馬鹿なことを…」
「ユウキ!?何やってんですか!?気を確かに!」
「誰でも過ちはある…立て、ユウキ。立ち上がれ‼お前はそうやって、いつまでも地面に這いつくばっているのか!?」
「…!そうだ、俺は…!」
ユウキは何か思い出したようにし、立ち上がる。その表情はとても晴れやかなものだった。
「すまない…キース。俺は、大切なことを忘れていた。俺は…尊いテンプレすら無下にしようとしていた…自らの愚かさを恥じるばかりだ」
「尊いテンプレってなんですか!?」
「わかったならいいさ。お前は今、気付くことが出来たのだから。もう過去のお前じゃないんだ」
「あっれーおかしいなー。何でしょうーこの展開は」
ルノア、うるさい。
「歓迎しよう…魔王キース」
「ああ…こちらこそ頼む。ユウキ」
二人は固い握手を交わす。
「ユウキー!?」
ルノアの叫びが虚しく響く。
「さて…まだ聞きたいことはあるだろうが…やることがある」
キースは意味ありげな言い方をする。キースの額の目はいつの間にか閉じていた。
「やること?」
ユウキが聞き返すとキースはニヤリと笑い、言う。
「宴だ」
主人公のやってることが主人公じゃない…?




