海底の秘宝は、暁を覚えず
【美容師の娘】シリーズ
ある勇敢な冒険者の娘であるライリューンの物語
【美容師の娘】
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【美容師の娘シリーズ】
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~冥界の賢者 コマラムタンリキラキアマシワカよ 偉大なる汝の名において 我ここに誓わん 地獄の門よ 開け~
トィヴラッ! ~極大火炎呪文~
まずいっ。極大火炎だわ。私は、叫んだ。
「アリー。水よ。炎をかき消して。」
~天におわす水龍 カリエシクトミサアラウミチイタスマよ、汝が力で灰燼と化せ 我が敵に 滅びを与えん~
ジプッスキリィィ ~水龍の呪文~
アリーが、水龍の呪文 ジプッスキリィで、火炎をかき消す。
立ち上る蒸気と、相殺された、魔法の余韻・・・。
ここには、戦場の匂いしかない。
[冒険者の娘 ライリューン] 【 1-1. 春の夜の夢 】
私の名前は、ライリューン。
私は、ある勇敢な冒険者の娘。 平民の出身だ。
婚約者は、ホームカンシ教団の教祖・門主の息子、キョニン。
将来は、彼の、下界の妻、下妻となることが決まっている。
今、私は、親友のアリーと一緒に敵と戦っている。
敵の名は、フヘルケブシェ。
ジプトエ第19王朝の王スセムラ2世の息子だ。
私たちの目的は、海の底に眠る秘宝「コオナキズスルマナハチキイダタカハ」を守ること。
海の神殿「イチサア」にヘルケブシェフを侵入させないことだ。
まずいっ。
フヘルケブシェが、「エラわかめ」を使った。
『エラわかめ』
『魔中海で 採られる 水生魔法植物。
食べた者は、水中で 呼吸 できるようになる。』
あれは、魔法薬学のミジカイ教授の研究室にあったものではないか?
アリーは、厳重に、警備してある と言っていたのに・・・。
こうも 簡単に 盗まれて しまっているなんて。
フヘルケブシェが、海に飛び込む。
このままでは、海の神殿に 侵入されてしまう。
仕方ない。 奥の手を・・・。
『テキオー刀』
私は、おなかのポケットから、まほう道具を 取り出した。
『この刀で切られると、あらゆる環境に 適応できる。
温度、重力、光など、まわり全ての環境が、効果の対象。』
もちろん、水中でも 息が 出来るようになる。
欠点は、ケガをすること。
失血が 多くなり過ぎると、出血多量で 死んでしまう。
アリーと目が合い、うなずき合う。
きっと、同じ思いだ。
刀を構えて、正面から アリーを袈裟懸けに 切る。
袈裟懸けとは、正対した 相手の肩口から 斜めに 逆側の腹に向かい 斬り下ろす 切り方だ。
「アリー、安心して。 峰打ちよ。」
「ライリューン、どう見ても私、刃の方で 切られたわ。」
アリーの体から、大量の血が 噴き出している。
しかし、時間がない。 峰打ちかどうかなど、些細な問題だ。
「時間がないわ。アリー。 そのまま神殿へ向かって。」
噴き出すアリーの血が、海面を染める。
少し、深く切りすぎた かもしれない。
~治癒の神 イセウリタクイカイセエウノイルハサマケヤミよ。 スオピレクスアの力を私に~
ヴィテシマザメ ~治癒の呪文~
アリーが、海に潜ろうとする間に、治癒呪文を使う。
もちろん、深く切りすぎた、私の 深爪を 治すためだ。
深爪とは、指先の皮膚が露呈するほど爪を切っている状態だ。
爪床には、毛細血管が、集積している。
ここは、傷や傷や感染に敏感な部位。
深爪は、爪床を露呈することとなる。
やっとの思いで、治癒魔法に 成功した。
これで、指先からの 感染症を防ぐことが 出来るだろう。
アリーの姿は、もう無い。
失血死する前に、フヘルケブシェを 止めることが出来るか。
生か死か。 それが問題だ。
「アリー、後は、あなたに任せたわ。」
私は、砂浜に横たわり、フッと 目を閉じた。
すごく、眠かったのだ。
******************************
私の名前は、アリー。 美容師の娘。
今、海の中を 深く潜っている。
ちょっと、どこが、峰打ちよ。完全に 致命傷じゃない。
ライリューンは、ひどい。 大きな傷が、ズキズキする。
「乙女のお肌に、キズが 残ったらどうするのよ。」
ブツブツつぶやきながら、フヘルケブシェを追う。
しかし、速い。 まさか、あんなに速いなんて。
このままでは、追いつけない。
仕方ない。 愛馬のベルを呼ぼう。
『とりよせパック』
私は、おなかのポケットから、まほう道具を 取り出した。
『荷物運送のサービスのまほう道具。
サイズ3辺合計1700m以下、重さ2500kgまで対応。
お客さまの大事な荷物をどこへでも配達する。
運賃は「サイズと運送距離」で決まる。
コンビニエンスストアなどの取扱所でも受付け可能。』
迷わず、私は、ベルを呼びよせた。
ぶくぶくぶく。
しまった。 ベルは馬だった。 海の中では息が出来ない。
ベルが 沈んでゆく。
しかし、私は、フヘルケブシェを 追わなくてはならない。
血が足りない。 出血が多すぎて 何も思いつかない。
アレクサンドロス。 ライリューン。 私を助けて。
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「寝るな。 こんなところで寝ると死ぬぞ。」
私は、頬を叩かれて 目を覚ました。
背中の下の、低反発マットレス「ブドゥスリーパー プレミアケア」が濡れている。
満ち潮で、海水面が上昇したのだ。
どうやら、マットレスの中で 低反発を実現している ブドウの実も、いくつか 潰れているようだ。
目の前には、アレクサンドロス王子の顔が ある。
「ライリューン、アリーは どうした。」
私は、血に染まる海面を 指さした。
「まさか、テキオー刀を 使用したのか?
それでは、アリーの命が 危ない。」
アレクサンドロス王子のが、呪文を唱える。
~ムテタンカンイトニィフ に告ぐ。ミユマタオシカウユチウイアの力を我に~
トイラテサグンニウモ ~解除の呪文~
あぁ、これで「エラわかめ」の効果が 解除される。
フヘルケブシェは、海の中で 息をすることが 出来ない。
海の神殿は、秘宝は、守られる。
私は、ホッと 息をついた。
「まだだ。」
アレクサンドロス王子のが、厳しい顔で 言う。
「え?」
「アリーを 助けなければならない。」
そうだ。 アリーは、大きな 傷を 負っている。
このまま、海の中で 失血し続けると、死んでしまう。
~ナリエイラアキオナイボツ の杖よ。海を 割り 地をあらわせ~
グンニモドグッ ~海割の呪文~
アレクサンドロス王子が、具現化された杖を 天に かざす。
海が パックリと 2つに 割れた。
海底が、姿を現す。
「今だっ。 ライリューン、アリーを救い出せ。」
私は、海底を駆けた。 親友のアリーを 救うために。
途中で、フヘルケブシェが 溺れ死んでいるのを 見つけた。
どうでもいい。
フヘルケブシェの 体を ぴょんと 飛び越し、走る。
居た。アリーだ。
抱きかかえて、アレクサンドロス王子のの もとへ。
低反発マットレス「ブドゥスリーパー プレミアケア」の上に 横たえる。
息を していない。
「戻って来い。 アリー。」
王子の 人工呼吸。
手を胸に叩きつけるような 激しい心臓マッサージ。
しかし、アリーの目が、再び 開くことは なかった。
袈裟懸けの 一撃は、致命傷で あったようだ。
死因は、失血死。
王立 飛翔師 学院は、その日、悲しみに 包まれた。
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1枚の チラシが、風で 舞う。
トプジエ王国の 首都ロイカの 国立トプジエ文明博物館。
ここには、1体の 白いミイラが 展示されている。
王 スセムラ2世のミイラと並ぶ それは、彼の息子 フヘルケブシェ だと 言われている。
白い体は、死直後の 乾燥が 出来ていなかった ためではないか?
トプジエの研究者たちは、ミイラの防腐処理が 完全ではなかったことを 示唆する 証拠だとしている。
王の息子である 彼の体が、なぜ、乾燥 されなかったか。
それは、いまだ 謎とされている。
トプジエ考古学博物館 スセムラカーメン展。
4月1日から 王都美術館で 開催中。
【美容師の娘】2-23.で、アリーが4月1日に見た夢のお話。




