(閑話)入学式での殿下の秘密の話(今更)
本日2話目の更新です。
短いけど。
「そういえば、殿下って入学式どうしてたんですか? 全く殿下の記憶ないんですけど」
学園内のカフェテラス。昼食時の、ちょっとした雑談とでもいうようにガイがぽつりと聞いてきた。
いつの話だ。今更すぎやしないかと思ったけど、ガイと話をするようになったのは最近のことだから仕方がないのか。一応、陛下から指名された学友の筈なんだけどさ。
「入学式には出ていない」
すっぱりはっきり言い切ってみた。ガイの顎ががくんと落ちて戻らない。うん、イケメンも形無しの阿呆面だな。
「そんなの許されるんですか?!」
許すも許さないも、逃げ出しておしまいだ。
「だってさ、僕に新入生代表やれとかいうんだよ。無理に決まってる」
「あ゛ー…」 一緒にいたジェフリーまで変な声だして額を片手で押さえた。
「あの頃はいとし子のことも知らなかったし、文字が伸び縮みすることも誰にも言ってなかったからね。僕には逃げ出すしかなかったんだよ」
ははは、と笑っていってみたけど、空気が沈んだものになってしまった。やだな、こういうの。食事が不味くなる。
中央校舎にある時計台の中で式が終わるまで見つかりませんようにと一人祈って時間をやりすごしてた、あの嫌な記憶。あんな時間を過ごさないで済むようになった今がどれだけ幸せか、そっちこそ伝えたい。
「そういう目に合わなくて済むようになって、ジェフリーには感謝しかないよ」
うんうんと肩を叩く。
「でも、僕は入学式逃げ出したお陰でひとつ知ったのさ。
時計台の中は、歯車が煩いから寝れないんだよ。思いのほか清掃が行き届いたのは高評価だけどね」
ぐっと親指を上に向けて突き出した。
「お勧めは、お天気がいいならやっぱり中庭の木立の下。雨の日は実技訓練棟の舞台下にある倉庫がお勧め。こっちには天井低いから入りにくいしほとんど誰もこない。でもその分、埃っぽいんだ。次点で屋上へでる扉の前。こうパテーションがいい角度になっていて隠れられるんだ。でも床が冷たいんだよねぇ」
クッション持ち込めばいいのかな。
「殿下、俺たちは授業をサボって昼寝なんてしないから」
「あ。そっか」てへ。失敗した。
「…殿下が授業をサボっている時は、そこにいけばいいということですね」
にっこりと笑ってジェフリーがいう。目が笑ってないよ、ジェフリー。怖い。
「あー。歴史の授業とか数学の授業とかさ、マナーで手紙や公式文書の書き方みたいな授業はさ、僕免除になってるから。探しにこないでよね」
細かい文字をじーーっと見ていないと受けられない授業は免除になっていた。本当は保健室とかいかないといけないっぽいんだけど、いかなくても怒られたりしないので、一回しか足を運んでいない。 あそこは怪我したり体調を崩した生徒がいくべきところで、僕はそうじゃないんだし。
「免除になってるなんて、知らなかった」
ガイが呆然とする。ジェフリーは知ってたっぽいな。
「公言するのも変な感じだしね」
「公言することで納得する生徒は公言しなくとも最初から文句もいわないでしょうが、納得しない生徒は王室の横暴だといってより騒ぎそうですからね」
なるほどね。そうかも。
「その辺はまぁ、適当に流しておいてよ」
ぱくりとサンドウィッチの最後のひとかけらを口に押し込んで、僕は慎重に考えた。
つい、調子に乗って僕の秘密基地をバラしてしまった。
今度またどこか別天地を探す旅にでよう。そうしようと僕は思った。