#04 初めての町。
始まりの島の港町は、活気がなかった。
寂れた漁村の設定が、ありありと表れている。
「当然か。ほんとに、若い男性が強制連行されたんだね」
「そうだね。この島は三代前に謀反を起こした騎士の末裔の島だから」
「今でも流刑地だし。土着民自体が、立場、すごく弱いんだよね……」
初期設定は映像化されて公式サイトで公開されている。
この映像は課金アイテムを買うと観れる特典だったが、後に公開された。
ボク?
もちろん初心者時代から重課金している廃人ですとも。
特典、たくさん貰ったクチです。
アイラブ、サルフィーア2。
……いや、当時からいじめられっ子で、ネトゲに逃げてたし。
それはともかく。
映像特典は神話世界の成り立ちと、チュートリアルまでを描いている。
これはアップデートごとに追加作成、公開されるゲーム特典でもある。
これが、とにかく制作費が凄いと評判だったのだ。
ボクも、映像に涙を流して感動したクチだ。
でも。
「制作費が凄いんじゃなくて、もしかして」
「無論、この世界のリアル映像ですとも。カメラアングルで苦労したよ」
全然苦労したようには見えない笑顔の彼が、ボクに笑いかけた。
人好きのする満面の笑みはやめて欲しい。
男のボクでも、心臓が高鳴ってしまうので。
「と、とにかく。宿に行こう? 初心者宿は、跳ねる暴れ馬亭、だっけ」
「そうだね。そこで宿を取って、食事にありつこうか」
勝手知ったる、初心者村。
見るもの全てが、懐かしく感じる。
そして、同時に違和感も。
「……風、強っ。砂、痛っ」
「そりゃ港町で、謀反人の流刑地で防壁の建設が認められてないから」
「ゲーム時代は風なんかあんまり感じなかったのに」
「高速移動するたびに風圧感じてたら、まともに動けないでしょ」
「むうぅ。で、さり気なく腕を回さないで欲しいんだけど」
「姫の小さな体では、飛ばされてしまうよ」
「そこまで軽くないし! もうっ。……ありがと」
「お気になさりますな、従者の務めですよ」
「……ほんっと、それで行くんだね」
無言の笑み。
ボクは彼のマントの下で腰を抱かれたまま、町の東側へ向かった。
「待て、貴様」
……向かえなかった。
え、何これ。
物凄い、いかつい顔の男衆が、ボクらの行方に立ち塞がっている。
角付き肩パッドしてないのが不思議なくらいの、ならず者テンプレ。
申し訳程度に鎧を着けてるけど、如何にも敗残兵から剥ぎ取った系。
つまり。
サビだらけで整備もされてなくて、使い物にならなさそう。
この程度の装備なプレイヤーなら、不遇支援職のボクでも、返り討ちだ。
──でも。
そうじゃない。
この男の人たちはNPCじゃなくて、生身の人間なんだ。
そう思うと、急に、怖さが込み上げてきた。
自慢じゃないけど、リアルで喧嘩なんかしたことない。
いじめられる系デフォの草食性男子。
それがボク。
いじめられっ子歴イコール、生きてる年齢。
彼女いない歴は察して下さい。
賢者とも魔法使いとも、呼んではいけないっ。
「見かけない面だな、てめえ?」
「いやいや、どこにでもよくある面だよ?」
「抜かしやがれ。よそ者が、この村に何の用だ?」
「通りすがりさ。ただ、宿に行きたいだけなんだけどね?」
「よそ者に食わせる飯なんざねえよ、何者だ、てめえ??」
さわさわ。
彼のマントに隠れたボクの、顔に優しく彼の手が触れる。
下を向いておけ、ってことだろうな。
確かに、こういう輩にボクの顔を見られていい展開になる気がしない。
何しろ、ボクは今、超絶のハイエルフ美少女。
きっと、襲われて攫われて酷い目に遭ってしまう、同人誌のように!
「いや、こういう者だよ」
ばさあっ。
「……え? あ? あれ? どゆこと?」
突然、取り払われたマントの覆い。
強制的に上を向かされたボクの目の前には、お目々真ん丸な大男たち。
「え……、エルフ、か!?」
「初めて見たぞ!?!?」
「ほんとだ、耳が長い!」
あの。
人を指差しちゃ、ダメなんですよ?
そして。
「いつまで顔、撫でてんの」
「姫の頬は、柔らかいなー」
ぺいっ。
乱暴に手を払い除けても、彼はひたすら微笑んでいた。
いや。
どうすんのさ、これから。