#41 新しい、冒険の予感。
ゲーム内ではクリッパー船と呼ばれてたっけ。
古い古い、大航海時代の快速船。
洞窟の中だけど。
船の浮かぶ水面の先は、外に繋がっている。
そこは、南軍港の更に西側に延びた、岸壁の突端。
──二つの月が並ぶ合の新月。
この星の潮位が最も下がる日だけ、岩窟の下に現れる、秘密の抜け穴。
本来は、海賊王の切り札で、海賊王の所有船、旗艦。
ゲームでは、この船はボクらを南の孤島に運んだ。
そこは、海賊王の宝が隠された、通称、海賊島。
そして。
彼が王として君臨し、治める島のひとつ。
彼は、海賊王の上司でもあるのだ。
ぶるり、と身震いする。
だって。
この先の航路は、ゲームでは未実装だった。
海賊島には渡ったことはある。
でも。
彼がここに居るなら、海賊島から本土に戻る、理由がない。
その先に進んでも、誰も止めることなんか……、ない。
海賊島の南には、何がある?
決まってる。
彼の本拠地。
ゲーム未実装、魔王軍の拠点。
──混沌の島。
つまり。
この先は、ボクのゲーム知識が通用しない世界。
目の前の光景と、その先に続く未来に圧倒されているボクの背後で。
仲間の面々の、足音が響く。
ボクの鋭敏な聴覚は、足音だけで誰だか判別できる。
先頭はティースさん。
まだ調子悪そうだけど。
そのティースさんは、リュカちゃんに支えられている。
外面はとっても突っ張っているけど、根は優しい子だなって思う。
ティースさんと並んでるときのリュカちゃんは、ほんとの姉妹みたいで。
もう遠慮なくどつき合いしてるのが、スケさんとリギムさん。
リギムさんはやっぱり、相変わらず、謎の人。
でも多分。
悪い人でもないというか、ボクらを監視する役なんだろう。
その辺は、密命を帯びてるスケさんと同じだ。
スケさんはかなりボクら寄りで、リギムさんはまだ、そうでもないだけ。
それなら。
これから、変えて行けばいいよねっ。
彼?
彼はそっと、ボクを地面に降ろしてくれた。
でもボクの目は、帆船に釘付け。
ふっ、と笑った気配。
その優しい笑い方も、好きだよ?
ぽん。
さり気なくボクの隣に立って、ボクの肩に手。
むっ。
馴れ馴れしいっ。
許しちゃうけどさっ。
──いくら鈍ちんのボクだって。
この気持ちが何だかは、もう分かってる。
それなら。
ボクは、もう誤魔化さない。
「さて、姫? 選択を……」
「するまでもないっ」
彼の言葉を遮って、一言。
ふふふ。
びっくりさせてやったぜっ。
「……へぇ? なかなか、覚悟が出来てるな」
「あなたと付き合っていれば、そりゃそうでしょ」
ちらり。
見上げたら、いつものかっこいい笑い方とは少し違う、何だか悪い顔。
でも、今なら分かる。
こっちが、彼の本性。
「いいのかな、そんなに簡単に。この先は」
「一発勝負に一撃必殺、一触即発の一蓮托生」
ちっちっち。
目の前に構えた指を振って、ドヤ顔しちゃうぞ。
いくらあなたが諦めさせようって頑張ったところで。
「──ボクは、冒険者だよ? 愚問だねっ」
「……ハッ。そうだった。そんな君だから」
ぐいっ。
腰を抱き寄せられる。
彼の顔が、とても近い。
でも。
その距離が。
今は、とても心地よいと思う。
「俺は」
「ボクも」
ちょっとだけ、背伸び。
だって、ちびのボクじゃ、届かないから。
「「惹かれたんだ」」
お互いに、口を塞ぐ。
この先は、言葉は要らない。
ストックが尽きましたので、とりあえずここで終幕としておきますー。
御好評、誠に有難う御座いましたっm(__)m




