#39 壁の二枚は塞いだけれど。
600ポイント超えましたぁっ(驚愕)。
ご愛顧ありがとうございます、ラストまで今少しお付き合い頂けますと幸いですー。
そりゃ、ここで選択って言ったら、退くか進むか。
そんな感じなんだろうけどさ。
でも。
リアルなので、ゲームじゃないので。
ここまででも既に、ゲームの頃から大筋が全然、違ってる。
前提が違うんだから。
この先も、ボクの選択でストーリーがズレていくんだろう。
仕方がない、と思う。
と、同時に。
なんだか、無性に楽しくなってるボクも、確かに存在していた。
だって。
ゲームで何百回もクリアした初級イベント。
やり尽くしたと言っても過言じゃない、慣れきった作業クエスト。
それが、雰囲気そのままで、まるで別物に生まれ変わる。
それを、自分自身で選択してるんだから。
やり直しのない、一発勝負の連続。
あ。
これ、本当の冒険なんだ。
冒険者に、なったんだな。
そう、思えてしまう。
「どれを選んでも? 俺は、全力で貴方を護りますよ」
「そんなの、知ってる!」
即座に返して、満面の笑み。
彼が少し、嬉しそうにしてた。
なんでだか知らないけど、楽しいから、今はいいっ。
「階層を潰す! 足場を作るから、二人で上がって!!」
「御意」
「姫さんは、意外と人使い荒いっすね」
前衛の二人が、口調とは裏腹に凄く嬉しそう。
その返事を背中に聞いて、ボクは、先頭に立って窪みから飛び出した。
途端に、全方位から降り注ぐ矢の嵐。
「風ちゃん、矢避け!」
「《BeriaGwaew》!」
ウチの子たちはそれぞれが同時に、単独属性の精霊魔法を唱えられる。
ボクが扱えば二つを組み合わせて複合できるけど、敢えてそれはしない。
ボクがやるのは──。
「《土槍》!」
「はっはぁ! こりゃいい『階段』でさぁ、有り難てぇ!」
スケさんが器用に矢を避けながら、ひょいひょいと登って行く。
どこを?
今、ボクが壁に斜めに出した、土槍の列をだ。
ゲームの頃なら、壁は破壊不能で干渉不能だったけど。
リアルの今なら、出来るんじゃないかと思った。
で。
出来ちゃった。
壁に無数に生やした土の槍は、ボクの魔法だから脆くて弱い。
でも、スケさんくらいの熟練の盗賊なら、登れると思った。
実際。
壁の穴に取り付いたスケさんは、隠し扉を見破って奥に切り込んでる。
上層の出窓は複数あるけど、部屋はひとつ。
単独で切り込んだスケさんも、手練。
長時間は保たないだろうけど。
これで、壁の一面は防いだ。
で。
ボクの役は、まだ終わりじゃない。
「ッ! 上げて!!」
「今回は俺が貧乏くじですね」
壁を背にした彼に向かって、叫ぶ。
苦笑を浮かべた彼。
腰の前で組んだ両手に足を乗せると、軽々と上に投げ上げてくれた。
だって、仕方ない。
彼には遠距離攻撃手段もなければ、身も軽くないんだから!
「水ちゃんっ、板!」
「《HelegPân》!」
命令が嬉しい、って感じで空中に氷の板を置いてくれる水ちゃん。
ボクも、思ったことをそのまますぐに実行してくれる君らが好きさっ。
空中に置いた氷の板は、重力に従ってすぐに落下を始める。
でも。
これは、始まりの島でやった軽業の繰り返し。
ボクは、氷の板を足場に、空中を駆けた。
二度と出来ない、なんて思ったけど。
あらかじめ、足場を空中に置くって考えていれば、そう難しくなかった。
もちろん、風ちゃんのアシストもあってのことだけど。
ボクのジャンプをさり気なく強化しながら、動作を加速してくれる。
そうしてボクも、上層のベランダに取り付く。
ボクの矢窓対処は、スケさんよりも単純。
「《黒の油脂》、《水毒の蛇》!」
ベランダに膝立ちで、石油の弓に毒蛇の矢を、矢窓の中に数撃!
途端に、小さな窓の中から阿鼻叫喚が響く。
そして。
ぼふぅっ!
窓から飛び出した炎に、慌ててボクはベランダを飛び降りた。
当然だ。
ボクの水毒の蛇は短時間しか出現時間がないけど、彼らは知らない。
暗闇の部屋では、さぞかしパニックになっただろう。
当然、彼らは明かりをつける。
それは、一緒に流し込んだ油に引火してしまう。
上層は無数の通路で、裏で繋がっている。
もう少し油の量が多ければ、全滅まで持ち込めただろうけど。
ボクの魔法は持続時間が長くない。
ここの炎も、そう保たない。
ので、土精霊さんに出窓を崩して貰った。
これで、スケさんとボクで、二面は潰した。
残りは、あと一面。
でも。
さすがに、三人では手数が足りない。
どうしようか、仕切り直そうか。
そう思ったときに、思わぬ助っ人が現れた。




