#38 合流したので、反撃します。
ちらり。
背中の重みを、振り返る。
ぐっすり眠ってる、リュカちゃん。
怒ってるときは怖かったけど、眠ると子供みたいだ。
ギャップが、凄く可愛い。
「よく寝てる……、よね?」
「そいつは眠ったら、爆弾落としても起きませんよ」
そっと、背負ってたリュカちゃんを、階層の入り口に下ろす。
壁に背を預けたリュカちゃんは、まだ寝てる。
ほんっとに、眠りが深いなあ。
普通、これだけの喧騒の中に来たら、目覚めそうなものなのに?
そして。
彼。
相変わらず評価が手厳しいのが、不思議。
「なんか妙に辛辣だよね、可愛い女の子なのに?」
「寝てると大人しいんですがね? 起きると。特に寝台では」
「あーあーうるさーい! そういう方面では訊いてないのっ!」
にやにやすんなっ!
もうっ。
さっきのネタがツボったのか、なんだか妙にそっちで攻めてくる。
っていうか、こんな若い子まで毒牙に……。
あれ。
リュカちゃん、ってついつい年下呼びしてしまってるけど。
魔人族だから、見た目通りの年齢ではないのでわ?
そして。
「なんか、中年男みたいだよ? そういう発想」
彼にそう告げたら、急に笑いを収めて、無表情になって。
物凄くショックを受けてた。
新鮮は新鮮な表情、だったけど。
彼も人並みに加齢を気にするのか、と思ったら。
──なんだか無性に、可愛く思えてしまった。
ふふ。
一本取ってやったぞっ。
いぇいっ。
そーれーはー、ともかくっ。
「《beriagwaew》!」
風精霊ちゃんが思いっきり、両手を羽ばたかせるジェスチャーしてる。
かわいい。
水ちゃんも拍手してるけど、君の出番はこの後だからね。
「姫さん! 助かりやした!」
「弱いし長時間保たないから、急いで!」
すぐに何が起こったか気づいたスケさんが、こっちに快哉を上げた。
返事するまでもなく、二人を引きずるようにして壁際に移動してる。
彼はと言えば、とっくにボクを追い越してティースさんの方へ走ってる。
拳だけで飛んでくる矢を叩き落とすとか、ほんとにあの人、おかしい。
防御の風は全方位の矢避けな精霊魔法。
全方位って言っても、薄い風の半球膜で任意対象の範囲を覆うだけ。
威力を落として方向をほんの少しズラすだけ。
ティースさんの矢避けとは比べ物にならない、低威力防御陣。
でも。
それでも、今回は十分に役目を果たした。
さあ、水ちゃん、出番だよっ。
「《gaearcarch》!」
あんまり地形的に意識されないけど。
ここは既に、南軍港を通り越した海底トンネルの一部。
壁の向こうは、小部屋を挟んで既に海底なのだ。
だから、水精霊は呼び放題。
無数の小さな水牙が、ボクの指し示した方向へ高速で飛翔する。
ひとつひとつの威力は極小でも、束ねれば弾幕として使えるっ。
面制圧、って奴だっけ。
数回に分けて上層を撃ちながら、ボクも彼の後に続く。
ボクの魔法は、基本的には敵を倒すものじゃない。
ただ、行動を邪魔するだけ。
補助魔法の支援魔法士なんだから、そんなもの。
攻撃魔法にしたって、高レベルには全然通じない。
でも、まあ。
使い方次第だよね。
階層の入り口から真逆側、壁の少し窪んだ位置に着いた。
疲労困憊のティースさんが、肩で息をしている。
殆ど呪文詠唱出来てないからこそ、逆に疲れたんだろう。
女王蟻の巣で、そうじゃないかな、って思ってた。
ティースさんって、体力も魔力も、かなり低いんだと思う。
だから、大規模魔法ばかりが目立つけど、たぶん、わざとやってて。
──恐らく。
一度魔法を撃ったら、凄い長時間のインターバルが必要な人。
だと思ってる。
「……何よ、その憐れみの目は? 生意気よ?」
「そ、そんな目で見てないしっ?!」
「拙僧、スタミナの回復呪文はありませんでな。未だ修行の身、ご寛恕を」
一息つけた、とリギムさんはその場に重々しい音で腰を降ろした。
……リギムさんは逆に、未だに謎の人だ。
かなりよく使い込まれた神官鎧を着込んでるけど、神殿印は削られてる。
この程度の局面なら、それなりの神聖魔法でなんとかなったのでは?
そう思わせる程度には、戦い慣れしてる印象があるのに。
今のところ、リギムさんはまだ一度も僧侶魔法を撃ってないみたい。
ドワーフ神殿所属、とは言ってたけど。
別にドワーフだからドワーフ神殿に必ず所属するわけじゃない。
密命を帯びた神殿騎士が、出自を隠して神殿印を削る例もある。
出て来たタイミングも考えると、そっちが近いのでは?
そう思ってしまう、胡散臭さというのは、確かにある。
……んだけど。
「さあ、姫? 選択して下さい」
「……ほんとに、何なの、それ。好きだよね」
彼の一言で、考えを中断させられる。
選択しろ、って言った癖に、選択肢は提示してくれないんだよ?
いじわるー!




