#03 田舎から始まる冒険者。
始まりの島。
そこが、ボクたちが出現した場所だった。
ゲームの中では、初心者向けに難易度調整された低レベルの島。
大陸からかなり離れた離島に設定されている。
そして、チュートリアルクエストをクリアせずには島から出られない。
──なお、泳いで渡ろうとする初心者が後を立たない風物詩でもある。
彼らはどうなるか?
当然ながら、海の魔物に喰われる。
そして、キャラクターが永久ロストする。
その上、キャラメイクに戻されて最初からやり直し。
サルフィーア2は、上級者でもキャラ死亡に極端な制限があるのだ。
大量の経験値と金銭を遣って、それで装備を失ってやっと復活出来る。
代償が支払えない初心者レベルでは、消滅して当然だった。
魔術師上位職に復活スキルがあるけど。
それも、大量の触媒が要るんだよね。超高額で希少な。
サルフィーア2の世界は、甘くないし優しくもない。
初心者が覚えるのは、まずこれだ。
でも。
「……そりゃ、ほんとに別世界なら制限値もリアルで当然だよね」
「その言い方は心外だな。プレイヤーの違和感を消すのに苦労したのに」
「どうだか。楽しんでやってたんじゃないの?」
「否定はしないよ。楽しんでなんぼでしょ、こういう苦労は」
「……それは、同意するけど」
なんだろう、これ。
いちいち言い返して来る内容が、不思議にムカつかないというか。
惹かれる。
そう言えば、いちばん近いんだと思う。
でも。
それは、どうなんだろう。
「…………」
「ん? 美少女に見つめられるのは、役得だね」
「……ばーかばーか」
すぐに、これだ。
人をからかうのも、巧すぎる。
モテる男の人って、こうなんだろうか。
引きこもって人生を終えたボクには分からないけど。
ていうかだね。
あのですね。
「分かってるのかな? ボク、男なんですけど!?」
「今は見目麗しき美少女だね」
「手の甲にキスとかしない! 気障ったらしすぎ!」
「おや、姫はお気に召さないか。これは従者として失礼した」
「……その、設定! ほんとにそれでいくの!?」
「そうだよ?」
したり顔で、彼が頷く。
ああ、これにはムカつく!
「納得しただろうに? そうでもしないと」
「分かってるよ! 世界樹の森にしかいない希少なハイエルフだからね!」
……そうなのだ。
ボクのアバター、この美少女ハイエルフの、種族設定。
ハイエルフは能力値が最初から高いから、ゲーム開始初期は人気だった。
でも、それは最初だけ。
何しろ、とてつもなく成長しづらい。
人間族を1としたら、エルフが2、ドワーフが1.5みたいな種族差。
ハイエルフはどれくらいか?
……驚異の、約8倍。
人間族の約8倍、エルフのほぼ4倍の経験値で、やっとレベルアップ。
サルフィーア2では、能力レベルとスキルレベルが明確に分かれている。
だから、スキルを上げるにも8倍の修行が必要。
狩り経験値だけに依存しないのがサルフィーア2だったけど。
それでも、他人の数百倍の経験値を得た自信だけはある。
──不遇職で、弱いんだけどね!
そんな、不遇種族のハイエルフ。
当然ながら、今やプレイ人口が、ほぼ居ないのだ。
アクティブで、そして英雄になったハイエルフのボク。
……最初はチートプレイヤーだって通報されまくりましたとも。
しくしく。
いや、英雄クランに所属してるうちに、変人だと知れ渡ったけどさ。
誤解が解けたのはいいけど、嬉しいやら悲しいやら。
ハイエルフは不遇種族だけど、変人の証じゃないっ!
それはともかく。
ハイエルフ自体が、本来世界樹の森にだけしか居ない設定なのです。
ゲームなら、チュートリアルで必ず来る島なんだけど。
リアルなら、こんな初期村に居るの自体、怪しさ大爆発。
そういうわけで。
「ボクが、姫……」
「姫が世界を知る旅に同行する唯一の従者にして騎士が、俺。いいね」
「……いいかどうかはともかく、何かお家騒動っぽい構成じゃない?」
「だからだよ。面倒事の臭いがしすぎて、誰も近寄らない」
くすくすと、彼が笑う。
いいや、今、思いつきで言ったでしょ。
いたずらが成功した、みたいな顔しないの。
「それより、姫?」
「姫って呼ぶなっ。ボクは男だっ」
「えー、じゃあ、ティー?」
「愛称もだめっ。なんか紅茶みたいでしょ」
「んー。なかなか姫は手厳しい。では、ティーネ?」
「……まあ、許すっ」
「恐悦至極に以下略。まずは、食事を体験しましょう。浜辺の町で」
「え、あの町ってせいぜい芋煮くらいしか名物が……。あ、そうか」
したり顔で頷かないで欲しい。
確かに、ゲームの中で感覚制限なしの食事は、初めてだ。
そして、ゲームと違って、アイテム消費で即時摂取とはいかない。
一度は体験しておかないと。
それに。
きゅるるる……。
「ぶっ。……宜しいですかな、ティーネ?」
「仕方ないでしょ、レイド前から食べてないんだから!?」
「悪いとは言ってないから。では、先導仕る。お手を?」
「あなた、ボクの手握りたいだけでしょ!?」
「ちっ。バレたか」
こっ……、の!
いたずらっ子だ!
この人、正真正銘のいたずらっ子だ、今わかった!
はあ。
なんでボク、こんな人に惹かれたんだろう?