#34 壁ドンはやめて下さい。
「じゃ、姫さん、旦那? 先で待ってやすぜ」
「うんっ。スケさんたちも、気をつけてね」
どっちも状況が、分からなかったので。
パーティを分けました。
片方は、海賊本隊の偵察組。
神官戦士なリギムさんが前衛、中衛にスケさん、後衛ティースさん。
ティースさんの魔法で壁を作れるから、回り込まれてもなんとかなる。
たぶんティースさんのレベルなら、範囲脱出も出来るんだろうし。
もう一方が、攫われた娘さんの救出組。
ボクと、彼。
こっちは敵の人数が比較的少ないから、二人でどうにかなる。
ほんとは戦力的に、斥候向きのスケさんとボクで組む予定だったのに。
その。
彼が、頑強に反対しまして。
「久しぶりに二人っきりですね、姫」
「まだそこにスケさんたち居るじゃん! 壁ドンしないで!?」
敵地なのにっ!
なんでそんなに緊張感ないの、あなた!?
……まあ、ボクも、ゲーム内のレベルで言ったら三百は超えてる。
だって、英雄到達してるんだもん。
英雄職は、複数職のカンストで転職資格を得る超廃人エンドコンテンツ。
今更、レベル28程度の狩場じゃ緊張感持てないのは、わかる。
その上、彼は運営側で、この世界の神だ。
レベルなんて概念、突破してるに違いない。
……ボクの持ってる【黒神の双短剣】に力を封じられてるんだっけ。
確かに、ゴブリンロードのときも随分不自由そうだったけど。
封印されてなくても、彼の反応って大差ないんじゃないのかな、と。
ハッキリ言って。
無駄に戦闘を楽しむようなところ、あるよね?
「それはそうですよ。運営はプレイヤーを楽しませてなんぼですし」
「いや、そういう観点じゃなくてぇ」
「へえ、どういう観点ですかね」
「ちょっ、ちょーっと! 近いってば、もうっ」
「いえ、唇がどうも乾きましてね」
「何が関係あるのっ! わー、くっつく! ダメぇ!?」
助けを求めて彼の体越しにあっちの組を見たら。
……生暖かい目線で、ティースさんにサムズアップサインを送られた。
ついでにリギムさんからも。
馴染むの早すぎないですか、あなた?
って、いうかっ!
ね、ねえ!?
奥様として、許されていいんですか、浮気現場ですよ?!
立ち去らないで、助けてー!
……あ。
彼、そもそも奥さんたくさん居る一夫多妻制の王様だった。
「まあ、冗談はともかく」
「うひゃ!? んもうっ、抱えるの、ほんと好きだね。──重くない?」
「姫くらい、軽いものですよ。……緊張はほぐれましたか?」
……。
何でもお見通しなの、いくないっ。
「「Lelya? Ringtîn??」」
「あ、ごめん。ありがとね」
召喚した精霊さんたちにも、心配される始末。
精霊さんの声って、ささやき声みたいで、可愛いな。
……。
えっ?
「あ、あれ? この子たち、なんで精霊界に還らないのかな」
「これは、気に入られたな」
ボクを肩に担いだまま、奥の通路へのっしのっし。
通路は先で、やや勾配のきつい、狭くて急な下り坂になっている。
身を隠す場所もないけど、勾配がきついので弓で射られても威力がない。
ので、二人で進むのは、確定事項なんだけども。
あの。
あなた、このまま戦う気ですか?
降ろして?
「しばらく前から、同じ精霊が何度も召喚されていたようですよ」
「え!? そうなんだ? 全然気づかなかった」
「下位精霊に気に入られるとは、さすが我が麗しの姫君」
「歯の浮くようなお世辞は要らないですー」
「俺の歯は今頃、成層圏を回遊しておりますかな」
彼をじろっと睨みつけておいて、精霊さんたちを見る。
半透明で手のひらサイズの女の子みたいな、水精霊さんと風精霊さん。
二人? はボクの顔の周りをくるくると、心配そうに回っている。
「いいじゃないですか。魔力消費が軽減されますよ」
「ふぇ? ……あ、ほんとだ。減ってない」
「本人らが気に入って自発的に留まってるからですね。触媒は要りますが」
「む。空気と水はどこにでもあるし、基本すぐ喚べるから、いいのかな?」
「まあ、彼らと仲が良くて困ることは、ないでしょう」
「……ん。それも、そうか」
とりあえず納得して。
つんつんっ。
軽く水精霊ちゃんをつついてみたら、どーん、と風ちゃんが割り込んで。
目の前でボクの指を取り合ってわちゃわちゃしてるの、超かわいい。
あはは。
心配してくれて、ありがとね。
大丈夫っ。なんとか、するから!
「あ。そろそろだ。降ろしてー」
「ここで待ってくれていても、いいんですがね?」
……急に、そんな優しい顔するの、ずるい。
「従者ですから。俺は、姫を全力で護りますよ?」
「……そういうこと、いつもみんなに言ってるんでしょ?」
「は? ……いや、初めに約束した通り、俺は」
「あー聞こえない、聞こえなーい。ほら、行くよっ!」
……あれ。
こんなこと、言う予定じゃなかったんだけど。
なんでか、口を突いて出たのは、感謝の言葉でなく憎まれ口だった。
ううう。
なんか。
ボク、変だ。




