#33 隠れ家に、侵入だっ。
結論から言うと。
魔法職のティースさんと回復職のリギムさんがセットで後ろに居るので。
パーティプレイが、ものすっごく楽になった。
ボクも、久しぶりに前衛さんたちに混ざって、戦闘しましたともっ。
「…………」
「……、…………」
「……? ………………!」
「……」
……ハンドサインだけで意思疎通してるボクたち。
なんか、軍人さんにでもなった気分が物凄く味わえますねっ。
ハンドサイン自体は、盗賊ギルド発祥で冒険者ギルドでも教えてます。
手話に近いので、たまーに町中でもやってる人いる。
いえね?
盗賊の隠れ家に続く、岩の隙間から降りる洞窟の入り口があるんだけど。
ティースさんが入り口一帯に沈黙の範囲魔法を掛けちゃったから。
完全無音でお送りする感じに。
「…………、…………!!」
「……!!! ……!?!?」
海賊さん方、めっちゃ戸惑っております。
ここの海賊さんは皆、近隣から娘さんを誘拐したり略奪したりしてる。
海賊っていうか、もはや山賊に近いので、問答無用っ。
捕虜取るほど、こちらも余裕ないので。
……成仏してねっ?
彼が気を使ってくれてるのか、血が出ないような倒し方してるけど。
首が一回転したり、背骨が二つ折りになったり。
あれは、生きてはいないんだろうなあ。
胸が痛むけど、ゲームでも今でも変わらず、悪人なんだよね。
例え捕縛したとしても、死刑台を登ることが確定してる。
むしろ、逃亡のリスクを考えたら、ここで確実に殺しておくべき。
──理屈は、理解できるんだけど。
ううん、リアルなんだから、慣れないといけない。
でも。
やっぱり、ゲームの頃から人の姿に近い敵は、苦手。
スプラッタな赤い血飛沫グラフィック表現は、常時オフにしてた。
けど。
今って、やっぱり血まみれどろどろになるんだろうな、本気でやると。
……ぴいぃ。
な、慣れなきゃっ。
でなきゃ、冒険者や傭兵とか、やってられないしっ。
ボク、それ以外で生活手段、ないんだから!
……生産系スキル、なんかひとつでも取っとけば良かったかなあ?
後の祭り。
つんつん。
後ろからうりうり、って後頭部をつつかれた。
ティースさんの白くて細い指が、ボクの顔の隣で坂道の踊り場を指差す。
軽く半円状に指先をくるりと回して示す境界が、範囲沈黙魔法のそれだ。
入り口の下り坂は二つ折りになっている。
踊り場から下に詰め所みたいな広間があって、見張りが溜まっている。
そこから先は。
──強襲、になるよねえ。
通路と小部屋が密集してて、範囲魔法が効果的に効かないから。
……よっし!
ボクの精霊さんたちの、出番だぞっ。
──殺傷するのは、そりゃ苦手だけど。
これでもファンタジー世界に浸かって二十年。
スキル回しも効率戦闘も、経験だけは、最上位レベルだっ。
──でなきゃ他人の数百倍もレベリングやってられるか、的な。
魔法の有効範囲を出ると、急速に音が周囲から戻って来た。
こればっかりは、何度経験しても不思議な感覚だ。
有効範囲内では、何をやっても完全に音だけがない状態。
なので、ボクの精霊魔法も含めて、詠唱魔法が一切使えない。
魔法が使えないだけではなくて。
見張りが何かに気づいても仲間を呼べないし、完全に視覚だけで戦う。
ボクらが亜人種オンリーだったら、重ねて暗闇も入れるところだ。
それでも。
沈黙だけで、海賊の見張りさんたちは慌てふためいて、素人同然だった。
それに、こういう状況では、やっぱり。
こっちは冒険者兼、傭兵本職だから、場数が違う。
急造パーティだけど。
誰も怪我なくて、何よりっ。
「片付きやしたかねえ? えーと、旦那が四人、あっしが二人」
「拙僧が一人」
「私が二人ね」
「ボク、ゼロでっす……。ごめんなさい」
「いえいえ、撹乱とかで助かりやしたよ、姫さん」
……っていうか!
みんな、乱戦慣れすぎ!
特に、ティースさん?
魔道士がなんで、近接戦闘で体技ばりばりに使って制圧しちゃうの!?
「あら? だって私、この人の妻よ? 体術くらい、嗜みよ」
「こら。腕を極めるな、腕を」
……。
むぅ。
そりゃ、ストーリームービーで夫婦な間柄だって、知ってるけど。
これ見よがしに、仲良いとこを見ると。
──なーんか、面白くないっ。
胸の奥がちくちくっていうか、むずむずっていうかー。
…………。
なんだろ、これ?
「あ、あれ? これ、こうしたら腕返しじゃなかった?」
「阿呆。腕返しは、こうだ」
「きゃあっ!?」
……情け容赦ないな、彼。
ティースさんが一瞬で、片腕を軸に一回転したよ。
叩きつけられる前に着地したティースさんも流石だけど。
そして。
ティースさん、下着が丸見えでしたよ。
その下着は。
彼女居ない歴イコール存命期間のボクには、ちょっと刺激が強すぎです。
「興味あるの? たくさんあるわよ、後で着せてあげるけど」
「全力でご遠慮申し上げます!」
室内の探索は、まあ、てきとーに、おざなりに。
特に目ぼしいものが、こんな入口付近にあるわけもない。
で。
この下は、下り坂の通路が二股に分岐してる、んだよねえ。
「さあ、姫。どちらへ?」
「うー。ううん、悩む」
お馴染みの、選択肢。
片方は捕まってる娘さんが居る牢屋へ。
もう片方は、海賊の本隊の溜まり場。
どっちが、いいのかなあ?