#32 なんかやばそうな人が、増えた。
「ホッホッホッ。儲け話のあるところ、ドワーフあり! でしてな」
「……目敏すぎる。何この、金の亡者」
まだ海賊の隠れ家に侵入してもいないのに。
いきなり、なんかひとり、増えた。
ちびっこい可愛いポニーの子馬に乗って、颯爽と登場したドワーフさん。
鎖帷子に神官服、じゃらじゃらと鎖分銅をたくさんつけたフレイル持ち。
明らかに、ドワーフ神殿の神官戦士さんだ。
「申し遅れましたな。拙僧はムギリの子リギム。ドワーフの僧侶ですじゃ」
「あ、ご丁寧にどもです。ボクは」
もが。
ちょっと、挨拶はネトゲの基本だよ、基本?
なんで口を塞ぐのさ?
「こいつ、さっき姫の体を執拗に見てたドワーフだな?」
「あら、さっきのドワーフさんじゃない。私の衣装、褒めてくれたわね?」
……ぇ。
あの革とか紐の衣装、だよね。
えええ。
よりにもよって、ティースさんと波長合っちゃう人なのぉぉ!?
「ぉぉ、あれは女御のデザインであったか」
「そうよー? もう少し飾りを増やしたいんだけど、難しくてね」
「それならば拙僧、多少細工に心得があり申す。手伝いも、吝かではない」
「あら、嬉しいわね? 見返りは何がいいかしら?」
「拙僧、神に仕える身。ただ、少女が女と成るその美に惹かれますれば」
「まあ、芸術に明るい人ね! 同志を見つけて、嬉しいわぁー」
……その芸術は、たぶん、ボクが近づいちゃダメな奴だ。うん。
二人で目を爛々と輝かせて、ボクの体を上から下まで見ないでっ。
ものすっごく、嫌な予感しかしないから!
「……でも、神官っすよ、姫さん? ちょうどいいんじゃねえっすか?」
スケさんのかっこいいポイント、マイナス20点。
ぷえぇぇ。こんなん、連れてくのぉ?
「そうね、後衛に頂戴? 乱戦にでもなったら、あなたも大変でしょ」
「おお、後ろの守りはお任せ下され。何、拙僧、荒事にも慣れてござる」
……阿吽の呼吸すぎる。
これは、断れそうにない。
うーん。
確かに、回復本職は欲しかったけど。
神官戦士なら、前衛にもなれるんだよね。
どっちがいい?
「前衛にそんな生臭坊主、いらん」
「大丈夫でやんすか、旦那? 海賊は飛び道具、強いっすよ?」
「姫の加護だけで十分だ。要らん心配をするな」
「……じゃ、後衛でお願いしますー」
「了解した。どうした姫君、何やら、頬が赤いようじゃが?」
「ふっ、ふぇっ? う、ううん。なんでもなーい」
ドワーフも夜目がすごく効くんだった。
まさかこの闇夜で、顔色が分かるなんてっ。
……。
うふへへへー。
ボクの加護だって。
ボクの。
ふふふ。
うんっ!
風精霊の矢避け、念入りに掛けてあげるからねっ!!
「さて、準備はよろしいですぞ。海賊の溜め込んだ金塊、楽しみですのう」
「……どこまで情報通なの、おいちゃん……」
「なに、蛇の道は蛇。金の塊はドワーフ、ですじゃ」
「……いみがわからない…………」
……いや。
確かに、海賊の隠れ家に、金塊、あるよ?
でもそれ、隠しイベントなんだけど?
──ここの海賊退治中に、攫われた海賊王の娘さんを救うんだけど。
その、娘さんに攫われた事情を聞くと。
ここの海賊が実は、海賊王から離反した反乱海賊だと分かる。
それで、娘さんを助け出したら、海賊王と共闘することになり。
ついでに、反乱海賊の根城になってる孤島で、隠された宝探しもやる。
でも宝は空振りで、そこからトンボ返りして、ここまで戻ったら。
孤島で得たヒントを元に隠し扉を発見して、金塊を発見する、っていう。
──この間にレベルが15くらい上がってしまう、連続クエストなのに。
普通なら宝が空振りな時点でクエストエンドフラグが立つ。
本気で孤島のヒントをノーヒントで解かないと、ここ、辿り着けない。
それくらいの、ベテランでも見逃しちゃう、運営全力の隠しイベント。
……ボク?
いやほら、ボクってレベル上げが普通の職の八倍掛かるので。
──延々と孤島でレベルリングしてたら、気づいたクチです。
暇人とか、言わないで下さい。
好きで暇人レベリングしてるんじゃ、ないんですから!
「えー? リギムさん、プレイヤーさん……、じゃないよね?」
「祈る者という意味合いですかな?」
えーと。
そうなんだけど、そうじゃないんです。
……この反応は、違うなあ?
ええー?
こんな情報通な金の亡者のドワーフキャラ、ゲームで見たことないぞ?
隠しキャラ、なのかなあ?
「……俺は知らん」
「私も知らないわよ」
運営さんすら把握してないキャラクターって、存在してていいのかな。
いや?
ここって、NPCも生きている現実なんだから。
彼が万能神でなければそういうこともある、のかな?
まあ生い立ちが万能神みたいな立ち位置じゃなさそうだけど。
ちらりっ。
……なんで、そんなむっとした顔するの。
あれ。
こんな表情も、初めてかも?
──ちょっとだけ、拗ねた顔も好みだ、とか思った。
ふふ。
なんか、彼が可愛く見える。
「どうしたかの? 戦は拙速が肝心、臆したならば、拙僧、歌おうかの?」
「ドワーフのやかましい歌なんぞ、聞いていられるか。行くぞスケ」
「へっ、へいっ。あ、姫さん」
「むぇ。なに?」
「音消しの魔法、持ってやすか?」
「あ。あるよーっ。へへーん」
「あら、沈黙なら、私の方が効果時間長いわよ」
「じゃ、姐御にお願いして……。なんで姫さん、地に伏してんすか」
いいんだいいんだ。
どうせボクは半端職。
何をするにも、本職には勝てないんだっ。
ちくせぅ。




