#31 彼はどうやら、心が狭い。
500ポイント到達しましたっ、有難う御座いまーす!
「旦那、ちょいと狭量すぎやしませんかい?」
「いや、すまんな。誰か足りないとは思ってたんだが」
馬車の御者台。
夜中の道を、ぱっかぱっか。
お馬さん、疲れてない?
ごめんね?
なんだか彼が、妙に頑固で。
着いたらゆっくりお休みして、いいからねっ?
距離的にはそんなに離れてないからさ。
……こんな彼、初めてで、どう対処していいのか。
スケさんはあの後、走って追いついて来た。
っていうか。
街道沿いの森の中を直線で駆け抜けて来たから、普通にびびった。
あそこ、熊が出る狩場だよね?
やっぱり、ほんとに凄腕の冒険者なんだな、って感心しきり。
スケさんが持って来た情報は、やっぱりゲームと同じで。
『南軍港付近に未発見の海賊の隠れ家がある』
これ、海賊レイドの開始フラグなんだよね。
だから、ここを先に攻略してないと。
……南軍港に直接行っても、レイドに参加出来ない。
軍港前の練兵場が冒険者集合場所を兼ねてたんだけども。
集合中にパーティの初心者さんが、フラグ立ててないことに気がついて。
で、パーティ単位で慌てて出てくのも、初期の風物詩だったなあ。
っていうか。
サルフィーア2も、最初期は和気藹々で、賑やかだったな。
英雄クランはプレイ十年超の古参プレイヤーがごろごろしてるけど。
超古参って呼ばれる二十年レベルの古い知り合いは、もう、ほぼいない。
二十年だもん、小学生でも大学卒業しちゃうくらいの年月。
仕方ないのは分かってるけど、寂しいものは、寂しいなあ。
今のサルフィーア2はPvPメインで、ギスギスしてるし。
レイドで敵対クランとかち合って、レイドそっちのけでPvPとか。
新規プレイヤーも減ったし、もうダメなのかなあ。
「──そこんとこどうなんですか、運営さん?」
「知らないわよ」
……ティースさんはシナリオライターで課金衣装担当なだけか。
「どうなの、ねえ?」
「いきなり何ですか、姫?」
いきなり話振った割に、なんで急に上機嫌なの?
さり気なくスケさんを蹴落とさないで。
即座に馬車と併走するスケさんも流石過ぎるけど。
荷台に片手で飛び上がるの、それ、なんて技?
超かっこいいので、真似してみたいです。
……肩で息してる辺り、ほんとに普通の人間なんだなスケさん。
凄すぎる。
「そんなに急ぐ必要、あるっけ?」
「……海賊退治はいいんですが。囚われの娘に、会いたくないんですよ」
「ふぇ? なんで?」
「なんででもです。ここ、素通りしても王都に着けますよ?」
「ほぇ? ……あ、そうか」
「南の関所経由でしょう? 普通に開門できますとも」
そ、そうだった。
彼、運営側なんだもん。
フラグでも何でも、いじり放題か。
そもそも魔族で賞金首の彼が、人間の姿で闊歩してる時点で察しないと。
……んー。
でも、でもー。
「……なんか、イベントをきちんとクリアしないと、気持ち悪い」
「──そうですね、そういう方でした、姫は」
そんな、がっくりしないでよぅ。
一応、初心者の見本になるように、って性向値上げまくってたし。
ずっと初期から優良プレイしてたんだもん。
急にチートプレイ出来るよ、って言われても、すぐには出来ないよ。
それに。
ゲームの頃は、何のイベントでも巻き戻して何度もプレイ出来たけど。
今は全部が、一発勝負。
それなら約束された順風満帆、王道に沿って進めたいじゃん。
──だって。
面と向かっては、恥ずかしくて言えないけど。
ちらり、とシナリオ書いてるっていうティースさんの方を見て。
……この辺のシナリオって、超熱い展開で燃えるんだもん!
敵対してる海賊王の娘を助けて、それで敵同士協力して共闘!
そして、信頼を勝ち取って強力な味方になってくれる海賊たち!!
チートで早解きとか、普通にもったいない!
……あれ?
この世界も、プレイヤーさんって普通にいるんだよね?
この場合。
ボクの行動って、プレイヤーさんにどういう影響出てるのかな。
うーん?
「どうなんですか、運営さん?」
「だから、私に因果律管理の権能はないわよ」
むー。
ティースさんでも分からないのかあ。
まあ、直接関係ないから、いいか。
……。
そんなこんなで遊んでたら、到着ですー。
昼間は入り口自体が巧妙に周囲の岩に偽装されてて、まず発見不能。
でも夜なら、小さな炎の光が、月明かりに紛れて隙間にちらりと見える。
ハイエルフのボクの視力からは、逃れられない。
レベル28狩場。
海賊の隠れ家、攻略開始。




