#30 なんで恥ずかしい衣装積んで来たのっ。
「いいよ、汲んだ分、全部商人さんに売っちゃって」
「あっしらの分は、残さなくていいんで?」
「んー、中級回復ポーション程度なら、ボクの回復と一緒くらいだし」
「へぇっ!?」
スケさんがびっくりしてる。
うん、NPC的な視点だと、そうなんだよね。
プレイヤーはそれぞれが、NPCより能力が極度に優れてる。
だから、どのプレイヤーも何の職でプレイしても必ず勇者と呼ばれる。
……生産職が勇者ってどうなの、と思わなくもなかったけど。
英雄クランの紡錘師さんは糸使いだし、革細工師さんは革鞭使い。
──生産職の人でも、戦闘力めっちゃ高いのが、サルフィーア2。
素材集めで自分が魔物と戦って剥ぎ取りするんだもん、仕方ないのかも。
他のMMOでは必須の剥ぎ取り工程は、習得可能技能なんだけど。
……リアルな血飛沫や臓物の腑分けが苦手だ、って人が多いんだよね。
そりゃそうだ。
自分のお家で食べる豚肉だからって、屠殺、解体出来る人少ないでしょ。
だから、サルフィーア2ではそこまで必須技能じゃないのだ。
素材で稼ぐのも主流だけど、素材を解体する専門職に頼むのが王道。
冒険者ギルドが様々な専門業者との連絡組織として機能してる面もある。
もちろん、自分で解体すれば、あまり冒険者ギルドに戻らなくていい。
少なくとも、ボクはそうしている。
クィーンアントのダンジョンでも、魔石は自分らで獲ったんだし。
……あれ。
そういえば、転生して来てから、一度も冒険者ギルドに顔出してないや?
そろそろ一度は行っておいた方がいいのかも?
アイテムボックスのお金以外でも、ギルドの預金額結構あるし。
ここからいちばん近い冒険者ギルドの支部……。
北の農業都市だ。
海賊退治したら、行こうかな?
「で、集める情報は、海賊話っすよね?」
「あ、うん。触り程度でいいので、聞き出せるだけよろしくー」
「分かりやした! じゃ、また後で、姫さん!」
盗賊は隠し稼業で、商人を隠れ蓑にしてるんだっけ、スケさん?
でも水袋担いで商人キャンプを巡ってる様子はうきうきしてて。
もしかして、あっちの仕事の方が好きなんじゃないのかな?
スケさんの意外な点を見た気がして、ちょっと微笑ましい。
……、って。
「うゆぅぅ!?」
「さあ、姫。行き先は南軍港でしたね、出発しましょう」
「ちょっ、待っ、待って待って!? スケさん今出てったばっかだよ?!」
彼が問答無用で、ボクを担ぎ上げた。
後ろ向きに担がれたから、スケさんが動き回ってるのが見える。
行く先々で商人さんと交渉してるのが、手早く的確、頼りになるなあ。
でも、なんだか彼は、それが気に入らないみたい。
むー。
なんで?
「何、情報は既にあります。軍港脇の洞窟から海底トンネル、でしょう?」
「そ、それはそうだけど! いきなり発見したらおかしいでしょ!!」
「みっともないわよ、あなた? そんな姿も面白いけども」
ティースさんは、衣装の虫干しで、馬車の陰で衣装を広げている。
……。
ねえ、それ、明らかにボク用だよね?
ティースさん用にしては、妙に小さめの衣装ばかりだし。
なんか、冒険に向かない、すっごい露出度高いのとか多すぎない?
ボク、これでも野伏技能持ちのエルフだよ?
その、着たら絶対ボンレスハムみたいになる紐衣装、どこで着けるのさ?
肌を露出させたまんま草木の中を走ったら、擦り傷作っちゃうよ?
首輪も、そんな大きさのペット捕まえるような狩場、この辺にないし。
手足の拘束具とか、捕虜取るつもり、ないよ?
っていうか、穴がたくさん開いた革紐つきボールとか、何に使うの?
「ああ、これ? 軽くて強くて、汗を吸ったら縮むのよ」
「……?? 縮んだら、苦しくない?」
「莫迦ねえ、そこがいいんじゃないの」
「??? う? 判んない」
「こら。姫に妙な知識を植え付けるな」
ごすっ。
……。
いや、夫婦のことに口出しはすまい。
うん。
それに、見た目は人間だけど、中身、魔人族なんだもんね。
彼に回し蹴り一閃で側頭部蹴られる程度。
……全然平気、なんだよね?
「あいったぁぁぁ……、ちょっとあなた!? そのツッコミは何よ!?」
「お前こそ、何を積み込んでるんだ何を」
人間が蹴り一発でその場で一回転するのも凄いけど。
今の打撃がなかったかのように、即座に捲し立てるのも凄い。
って、いうかー。
あの。
その、恥ずかしい紐衣装、早くしまってしまって。
通りすがりのドワーフさんが、ボクと衣装を見比べてにんまりしてるの。
……だから!
着ませんってば!!




