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#02 チュートリアルが始まるそうです。

 相変わらず、周囲の景色は白と黒の二色。

 だけど、今なら分かる。

 ここは、たぶん、死後の世界だ。


 ゲームの中の神の彼が、どうしてリアルにいるのか。

 というか、ここは本当にリアルなのか。

 そんなことは、もう些細なことだと思った。

 ボクの選択が求められてるって、気づいたから。


 でも、弱いボクは、迷ってしまうんだ。


「──なんで、ボクって死んだのかな?」

「栄養失調で極度に低血糖なところに、最高の興奮で脳内出血だね」

「ボクってこの後、どうなるの?」

「親の遺産でしょ、あの家? 客も来ないから、数カ月後に発見されるよ」

「誰にも迷惑は掛からないのかな?」

「たぶんね。残った預金や所有資産は合法的に国の収入になるだろうし」

「そっか。なら、いいのか」


 そっか。

 心配事は、残らないのか。

 じゃあ。

 選択して、いいのかな。


「うん。じゃ、お願いして、いいですか?」

「もちろん。俺は君に負けた、君の従者だからね。仰せのままに?」

「従者?」


 ふっ、と薄い微笑みで、ボクを指差す黒の魔王。

 いや。

 指差したのは、【黒神の双短剣】だと気づいた。

 なるほど、確かに。

 これは、ボクが彼の率いる軍勢を退けた、証拠の品。


「俺が、全力で君を護るよ」

「あー、嬉しいです。はい。でも、あのね」


 騎士みたいにボクの片手を取って跪いた彼に、苦笑してしまう。

 そりゃ確かに、今のアバターはハイエルフ。

 エルフの上位、世界樹の娘ですよ。

 ファンタジー属性全開の美少女。

 でもね。


「あのね? ボク、男なんだけど」

「ん? いや、転生先では女性だよ」

「……はい?」

「今からキャラメイクするほど、猶予ないから。そのアバターで行くよ」

「キャラメイク? え、何、ゲーム設定そのままなの?」

「基本はゲームと同じだけど、現実度が異なるから」

「現実度?」

「リアルさというか。ゲームで言うなら、判定や感覚知覚」

「判定? 当たり判定とか?」

「それも含めて。痛みや触感も軽減なし、百パーセントダイレクトだよ」

「うわ、厳しい」


 これでも、感覚全没入型ゲーム歴二十年。

 彼が言っている内容がどれだけ厳しいか、よく分かる。


 普通のMMORPGは、痛みや触感が約十六分の一に軽減されている。

 でないと、ゲームとリアルの差が区別できずに没入先から戻れなくなる。

 これは、肉体喪失(ボディロスト)として社会問題にもなった。

 だから、どの感覚全没入ゲームでも法律で規制されている。

 それが、なくなるということは。


「冒険者や傭兵って、職業として危険すぎるよね。続けられるのかな……」

「まずは、やってみることだね。俺も同行するから」

「は? え? あなた、賞金首でしょ」

「そこんとこは、ほら。俺の世界だから、どうにでもごまかしが」

「…………」


 なんとなく、気づいてはいた。

 ゲームの中で、彼の役割は世界維持。

 サルフィーア2はどのMMORPGよりもリアルで、生活感が凄かった。


「あのゲームって、もしかして……」

「リアルだよ。別世界に繋がっている。よその神も別ゲームを運営してる」

「何のために?」

「下の世界はどこも、力が不足していてね。魂が強い地球人が必要なの」


 ぺろり。

 真っ赤な舌を出して軽く拝み手する彼が、絵になりすぎで嫉妬する。

 なんだよ、このかっこいい人。

 ちび痩せガリの三拍子だったボクの生前と交換しろ。


「俺は、護衛兼、チュートリアル役として同行しようかなって」

「……チュートリアル?? とっくの昔に終わってるんだけど」

「そりゃ、『ゲーム』の話でしょ。これから始まるのは、『リアル』だよ」

「リアルか。じゃあ、ボクってNPCになっちゃうのかな?」

「そういうわけではないけど。サーバーを移すと言えば分かる?」

「ああ、それなら」


 そっちの方が理解しやすい。

 サルフィーア2には初心者向けに、PvPがないサーバーもあったし。

 サーバーが異なると、シナリオは同じでもプレイヤー層は全然異なる。

 当然クランもサーバーを跨げないし、パーティも組めない。

 ゲームの中で言及される別サーバーは、パラレルな平行世界設定だ。


「え、ほんとの平行世界?」

「そうだよ。同じ世界にそんな大量に地球人入れたら、バランス崩壊する」


 それはよく分かる。

 いや。

 正直、ボクら英雄クランも、クラン対抗戦で国を破滅させたことが。

 あんまりにもやりすぎると運営が時間軸を巻き戻したりしてたけど。

 え。

 もしかして。

 ゲーム内が、別世界の現実っていうことなら。


「いやいや、ああいう無茶って、俺、大好きよ?」

「その節は、重ね重ね申し訳なく!」


 くすくすと笑う彼に手を導かれて、細く長く続く石の階段を降りて行く。

 その間、ボクはひたすら、ゲーム内での黒歴史を謝り続けた。



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