#26 これはゲームじゃなく、リアルだった。
400ポイント超えましたー。
皆様の、おかげですっ。
引き続き、この物語をよろしくおねがいしますー。
「KYURUUUUURAAAAA!!!」
──冷静に考えると。
なんで虫が叫び声上げるんだ。
って疑問符全開なんだけども。
そこはたぶん、突っ込んじゃいけないお約束。
真っ赤なクィーンアントが、青い鋼色の六匹の親衛隊を率いて、叫ぶ。
レベル25レイド、ジャイアントクィーンアント戦、開始。
目を真っ赤に光らせた、天井に届きそうなくらい巨大なクィーンアント。
開始ムービーではこのクィーンアントが口から酸を吐き散らす。
それが周囲に散って、地形を腐らせる猛毒だと分かる。
水脈に体半分が浸かったクィーンアントは、魔力で巨大化している設定。
上の層にあったポーションの泉が本来の水脈。
でも、この部屋の泉はクィーンアントのせいで毒化している。
だからクィーンアントを水場から引き剥がすまでが、攻略のポイント。
でないと、クィーンアントが撒く毒地形で、前衛が走る場所がなくなる。
……いや、前半でそこまで時間掛けたら、時間切れ敗北フラグだけど。
「あら、余裕ねお姫さま? あなたの騎士が、戦ってるわよ」
「ボクの騎士とかじゃ、ないですしー。……あのー? ボク、いつまで」
「あっ、ほらほら。スケが頑張ってるわよ? 人間の癖に、健気ねー」
「わ! ほんとだ、凄い! スケさん、飛んでる!?」
塹壕状の岩場の縁に腰掛けたティースさんが、膝にボクを座らせている。
その膝の上から、ボクらは揃って二人の動きを眺めていた。
レイド戦にはいくつかパターンがある。
初手から妙に罠系統のギミック満載で、喰らいながらパターン覚える奴。
即死ギミック全開、どんな英雄でも死亡が免れなくて復活前提で挑む奴。
前半、後半で段階踏んで敵が強化されて、ギミックが全然異なる奴。
クィーンアントレイドは、三番目。
前半は、妙に硬い親衛隊が表に出て、クィーンアントは泉から動かない。
でも、後半から猛烈に雑魚が増えるタイプだ。
というか、今も既に親衛隊が手下を呼びまくっている。
二人を追いかける雑魚が、みるみるうちに増えていく。
だから、前半から中盤に変わるポイントまでに親衛隊を分断させれば。
……させれば、楽になるんだけど?
「ふ、ふえ? なんで、集めちゃうの!?」
「これは、狩りよ? 集めた方が、楽じゃないの」
「だ、ダメだよスケさん! そっちに動いちゃ!」
器用にアリの足に打撃を加えながら、アリの足の下を潜る彼。
アリの背をぽんぽんと飛び回りながら、投げナイフを撃つスケさん。
二人共、鳥肌が立つくらい凄腕の戦士だと理解できる。
だって、やり直しが効かない一発勝負の、本当の戦闘なんだもん。
……そ、そうだよ!
なんでのんびり眺めてるんだ、ボク!?
回復の本職が居ないんだから、致命傷負ったら最後なのに?!
「わ、わ、スケさん危ない!」
咄嗟に立ち上がって、精霊に呼びかける。
ボクがいちばんダメダメだ、浮足立ってるのが自分でも分かる。
だってこれはゲームじゃない、リアルなのに!
クィーンアント戦。
一体、何百回繰り返したか分からない初級レイド。
でも、今のボクは英雄じゃなくて、ただの精霊弓士。
初心に帰るべきなのは、ボクだった。
「《氷槍》! 《雪網》!」
「へえ、冷気系統ね? なるほど、虫は冷気に弱いものね」
ティースさんが、いやに冷静に解説してる。
場数が違うっていうか、落ち着き払ってて、すごい。
ティースさんも、何か魔法を編んでるのは分かる、けど。
……ティースさんは、魔道士。
範囲魔法だけは、全職中最大最強、大規模大威力。
だけど、普通に撃ったら味方を巻き込む。
だから、乱戦中は撃てない制約がついて回る。
ゲームでも、クィーンアントレイドの魔道士は、最後の一撃を競ってた。
──でも、もしも、その前に二人が……、死んじゃったら!?
「《銀の弓》! 《白銀の 氷矢》!」
「ほんっと、多彩ねえ? 単発威力は低いけど」
「……! うー、ううぅぅ!!」
悔しいけど、ティースさんの言う通り。
地団駄を踏むけど、結果は変わらない。
ボクの単発攻撃力は、全職中最低。
なんと、回復本職な僧侶の、低威力な攻撃魔法にすら届かない。
その代わり、速射性が速くて組み合わせが多彩、なんだけど。
その、組み合わせが今、咄嗟に、出てこない!?
「ほら。落ち着きなさいな。一匹二匹減らしたって、ダメよ」
「だっ、だって! 早くしないと、二人が」
「早く? 今やるのは、雑魚を減らすこと? そうじゃないでしょ」
……はえ?
「基本に立ち戻りなさいな。ここへは、何をしに来たの?」
「クィーンアントの、討伐戦…………」
「戦争の基本じゃないの。首刈りよ。ここで各個撃破は、悪手でしょう」
「……えっ? だっ、だって、ここからじゃ効果範囲が、届かな、い?」
ぱちり。
相変わらず、塹壕の縁に腰掛けて足をぷらぷらさせてるティースさん。
軽い微笑みと片目を閉じた様子は、落ち着き払っていて。
でも。
胸の前に広げた両手の間には。
何億ボルトに達するのか、青白い光を放つ、眩い雷光が凝縮されていた。
「あーなーたー? そろそろ、私、イッちゃいそうよー?」
「──いいぞ?」
「てっ、ちょっ、姐さん!? 速いですって、あっし、まだここでさ!?」
そういえば。
彼、腰に水袋をいくつも結わえてたっけ。
あれは、飲めば効果は中級回復ポーションだけど。
──それは、水分だ。
理由に気づいて。
あはっ。
ボク、ばかだ。
いつまでも、プレイヤーの感覚で。
──討伐ギミックに、囚われすぎてた。




