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#24 うちの魔道士は般若だった。

スケさんとハチさんの名前を混同していたので修正しました(2019/09/19)。

「あっしはもう、働きやせんぜ!」

「ダイジョブだよ、スケさんー。もうここから下はクィーンの産卵場だし」


 肩を怒らせて歩くスケさんに、苦笑するしかない。

 さすがに、一撃で広間全てのMOBを全滅させたわけじゃないけど。


 働きアリの餌の集積場になっているこの広間は、雑魚MOBの集合場所。

 ここをクリアしないと、レイド戦中でも雑魚が降りて来ちゃうんだよね。


 あと。

 この広間の奥に、地下水脈が露出している。

 魔力を含んだ綺麗な水は、奥で大きな泉になっているのだ。

 今も、そちらへ向かう坂を下っている。


 というか、水気を含んだひんやりした風が吹いてるのが分かる。

 ハイエルフのボクにとっては命の水。

 ボク、一日一回の水浴びと日光浴だけで生命維持出来ちゃうからね。

 何しろ、植物だしーっ。

 ──リアルになった今、美味しいごはん食べる機会を逃す気ないけどっ。


「ああ、久しぶりに魔法撃ったわ。気持ちいいわねえ」


 ティースさんの範囲攻撃はさすが魔王軍四天王、ってレベルだった。

 大規模範囲殲滅魔法、『雷神の鉄槌』だっけ?

 巨大な球雷が、更に凶悪な圧縮魔力で押し潰される光景は圧巻の一言。


 爆縮放電した球雷に囚われたアリさんたちは、まっ黒焦げ。

 ばらばらとそこら中に散らばった魔石は、スケさんが拾いまくった。

 今、スケさんの背中はパンパンに膨れた魔石袋で重そうだ。


 ……。

 あれ、エフェクトは派手だけど雷の一種だから。

 結局、良伝導性の鉄柱に吸い寄せられるんだよね、落下地点。

 魔王レイド戦で、あっちこっちにバラ撒いて回避したっけ。


 なんでそんな細かいとこ妙に物理法則に沿ってるんだろ、このゲーム。

 攻略する側としては大助かりだったけどさ。


「そうよ、私の魔法は、こうでなくちゃ!」

「姐さん、あんたほんとに悪魔じゃないんで?」


 スケさんが背後の呟きを拾ってぼそぼそと言ってるけど。

 それにはボクも同意する。

 なんていうか、魔法を撃ってるときのティースさんって、マジ怖。

 ボクの背中を睨み殺す勢いで注目してるのは分かってるけど。

 決して振り向かないんだ、ボクはっ。


 だって、レイド戦だもん?

 ティースさんの雷撃守護陣、崩さないと先に進めなかったんだから。

 ノーヒント攻略なら、先に雷神対策をたくさん準備してて当然でしょっ。


 ちらり。


「……私、割と記憶力、いい方なのよね?」

「ひっ、ひぃぃ!?」


 お、鬼だ! 般若がいる!

 振り向いちゃダメだ、振り向いちゃダメだ!!??


 ──あ。そうか。

 唐突に理解できた。

 ゲームの魔法が物理法則に沿ってるんじゃなくて。

 リアルだから、物理法則がある上で魔法が使えるのか。


 そういえば、ボクも酸欠戦術使ったもんな。

 なるほど?

 これは、戦術の幅が広がるかも。


「姫さん……、後ろから、なんかすげえ重圧が」

「ダメだスケさん、ボクらは何も見ていないっ!」


 分かったからって、背後の猛烈なプレッシャーが減るわけじゃないけど!


「──姫? 水浴びと戦闘、どちらを所望で?」

「ふぇ? むぇ、どしよ?」


 先頭を行く彼に聞かれて、悩む。

 泉を素通りして岩オブジェクトに隠された通路を下ることも出来る。

 そちらを通ればレイド直通、クィーンアントの巣に直行できる。

 これは初見じゃ絶対気づけない、ベテラン用の隠しギミック。


 だけど、アイテムボックスもないしリアルな今は、水を補給すべき?

 ここの水、良質魔力を含んでるから、中級回復ポーション効果あるし。


 うーん。

 そんなに急ぎでは、ないんだけど。

 それでも時間掛けすぎると、地上で餌集めしてる働き蟻が戻ってくるし。


「姫さん、あっし、休憩していいっすか? 足がパンパンでして」

「あ、そうか。ごめんね、回復力足りなくて」

「いや、あっしの方も足を止めさせて、申し訳ねえったら」

「ううん、大丈夫だよー? 急ぎの旅でもないし」


 ボクも一応回復魔法があるにはあるけど、全回復は無理だし。

 あくまで支援バフ職寄りだからね、精霊弓士って。


 ……回復力を持つ水と光の精霊。

 精霊矢が相手に突き刺さって、回復魔法効果。

 ──なんか、自分の術ながら、見てるだけで痛々しいんだけど。

 矢の一撃で回復支援バフって、どうなんだこの職。ほんとに。


 なお、高い支援回復魔力を込めて撃ち放った精霊矢の場合。

 相手に当たると、着弾の衝撃で吹っ飛んだりします。


 ……。

 レイド中、英雄クランのみんなを魔法矢で吹っ飛ばしまくったんだよね。

 恨まれてないといいんだけど。


 で、さ?

 ……どこからそのシート取り出したの、あなた。

 いや、街で買ったおみやげのお菓子や風車小屋のパンは嬉しいよ?

 並べてくれて、ありがとう。

 でもそれ、どこにしまってたの?

 早々と泉の近くにシートを敷いて、休憩準備万端な彼がいた。


 ねえ?

 なんでしてやったり、計画通り、みたいににやにやしてるの。


「水着はちゃんと用意してあるわよ?」

「泳がないです! っていうか、そんな紐みたいな水着、着ないです!!」


 さすが夫婦で、魔王と魔王軍参謀。

 このふたり、ノリノリで息ぴったりすぎだと思う。


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