#23 スケさんはきっと、逃げ切れる。
スケさんとハチさんの名前を混同していたので修正しました(2019/09/19)。
「Gが居ないから、割とこのダンジョン、好きなんだよね」
「G? でやんすか?」
「あ、えーっと。その。カサカサ速い奴」
「ん? ああ! ゴ……」
「言っちゃダメ! 想像しちゃうから!」
……なんでスケさん、吹き出すの我慢しちゃってんの。
ダメだよ敵が少ないダンジョンだからって、そんな壁叩きまくったら。
まあ、トラップなんかないんだけどアリの巣だから。
アリの巣だから他の昆虫類は全部アリさんの餌になるので、Gがいない。
うん。喜ばしいっ。
……ふーん、だ。
みんなして、子供扱いして。
確かにパーティ内でいちばんのちびっこだけどー。
中身は、三十三歳独身男性なんだぞっ。
フィールドではクィーンアントの下僕、働きアリが他の魔物と戦ってた。
けども。
別にあれは積極的にちょっかい掛けなければ、見過ごしてくれる。
働きアリのジャイアントアントは本能に従って狩りしてる、設定。
アクティブモンスターには反応範囲があって、避ければ素通り可能。
初心者の頃はそのアクティブ範囲が分からなくて、特攻するんだよねー。
ボクも、何度ここで死ぬ目に遭ったことか。
特にボクって、成長遅すぎて初心者時代が超長かったから。
……この大量湧き狩場で、何万匹狩ったか思い出したくもない。
まあ、成長遅いのは、ボクに限らないけど。
大抵の回復・支援職も最初は攻撃寄りだから、初期はお荷物なんだよね。
本職の回復職スキルって、レベル低いと戦士系の自然回復力に負けるし。
でも。
中盤以降のレイドでは必須職になるので、神殿の育成支援がお約束。
……そのお約束がゲーム内で確立されるまで、結構掛かったなあ。
全員支援職の変則パーティとか、今ではもうネタ扱いだけど。
当時はそれしか育成方法なかったから、必死で助け合って頑張ったっけ。
あのときパーティ組んだみんな、まだプレイしてるのかなあ?
それは、ともかくっ。
上手いことフィールドMOBを躱したから、万全無傷でダンジョン突入!
「しかし。ぞっとしないでやんすね、敵の巣に生身で飛び込むなんざ」
「大事な体なんだから、十分に注意しなさいね」
「大事って、あっしがでやんすか、姐御?」
「そうよ? この狩り、盗賊のあなたが要なんだから」
ティースさんが、めっちゃ優しい。
っていうか、姐御って。
……似合いすぎてて、怖いんだけど。
ボクも姐御呼びした方がいいのかな。
……って、いうか。
あれ?
なんか、忘れてる気がする。
「ええ? あっし、初ダンジョンっすよ?」
「知ってるわよ? でも、ここで盗賊の役割なんて、ひとつしかないし」
「へ? いや昆虫ダンジョンで、トラップも宝箱もないでやんしょ?」
「ひとつ、あるのよぅ。大事な役目が」
「???」
……あれれ。
そういえば。
このダンジョンに盗賊を連れてくる理由って、確かにひとつなんだけど。
誰か、それ、スケさんに説明したっけ?
ボクも、ここに真面目に狩りに来るの久々すぎて、すっかり忘れてた。
ボクらプレイヤーの間では、もう使い古されて定番化した狩り方だけど。
「さ、これ持って?」
「うぇっ? なんすか姐御、妙に臭いんですが、この袋」
「フェロモン袋よ、魔術師謹製。効果は折り紙つき」
「ふぇ、ふぇろもん? 何なんですかね、不吉な気が」
「居たぞ。ティース、準備は?」
「万端よ、あなた。いつでも」
「よし。いくぞ」
「何が行くんですかい?! なんか、嫌な予感しかしねえんすけど!?」
……。
あっ。
そうか。
引き狩りって、プレイヤー間でだけ広まってる狩り手法だ。
能力値が低いNPCが、こんなリスク高い狩り、やるわけないじゃん。
「って、旦那、何やってんすか! あんな群れの中、石投げ込んだら」
「喋ってる暇ないぞ? 蟻はフェロモン袋を死ぬまで追いかけるから」
「ふぇ、フェロモンって、あっしじゃないっすか!?」
「さあ、この階層を一周してらっしゃいな? 魔法準備して待ってるわよ」
「ひでえ!? 旦那も姐さんも、あんたら鬼だ、悪魔だぁぁぁぁぁ!?」
スケさんは、それでも言われた通りに、下に広がる広場を駆け巡った。
だ、大丈夫だから。
スケさんの速さなら、追いつかれずに、逃げ切れるから。
あ、自分から袋小路にハマっちゃだめだよー。
適当に走り回るだけでいいのでー。
攻撃意欲を刺激された蟻が、後ろで団子になって追いかけるからね。
──引き狩り。
魔物の小集団を故意に刺激しまくって、敢えて後ろを追わせる狩り方。
殲滅力の高い範囲攻撃職と、移動速度が速い職がパーティ構成必須。
大量の敵をまとめた引き役が追いつかれる前に、後ろを殲滅する。
大量魔物を一撃全滅、アイテム経験値一発大量げっと、うまー。
……。
いや、範囲攻撃出来るんだから。
リアルな今、無理に効率求めて引き狩りしなくても、いいんだけど。
「魔法連発するなんて、めんどくさくて、いやよ?」
「姐御、姐御ぉぉぉ!? もう、もう無理っす、早く撃ってぇぇ!?」
スケさん、意外と足、速いんだな。
もう少し頑張れば、ボクの速さに届くかも。
……ごめんね、スケさん。
ボクは、助けてあげられないや。
少しだけ、脚力上げる風の精霊矢で、支援してあげるね。
「ひっ、姫さん、そうじゃ、そうじゃねえんです! 敵を、敵をぉぉ!」
「あっはっは。もうちょっとで広間の敵、全部よ? 頑張りなさいな」
だって。
妖艶に笑ってるティースさん、鬼怖いんだもん。




