#18 後は仕掛けを、御覧じろ。
彼が打ち砕いた大岩は、この岩山の要石になっていた。
要石を失った岩山は、当然ながら、崩れる。
どちらへ?
実はこれも、決まっている。
というか、このギミックは、攻城戦で寄せ手側が使うギミックのひとつ。
これをやると、北門と丘を繋ぐ道が、土砂崩れで埋まってしまうのだ。
ゲームでは、城兵の移動を阻害するためのお約束ギミックだった。
でも今は。
砲弾が城に向かって撃たれると同時に、城兵が北門から丘へ向かう。
そこに居るのは、炭鉱を脱出してそのまま城へ向かっている反乱軍。
側面を突かれた反乱軍は、準備万端の城兵と戦ってそこで壊滅する。
そして。
プレイヤーは炭鉱と海賊退治のシナリオを経由して、丘に戻って来る。
丘の風車小屋には反乱軍の生き残りが隠れていて、事実を知る。
そういう、シナリオの流れなんだけど。
ここは、プレイヤーさんにもっともっと早く事実に気づいて貰います。
……と、いうか。
反乱軍の先遣隊が正規軍とかち合わないから、損害ゼロなので。
そのまんまお城の正面に到達するんだけども。
まあ。
反乱軍は知らないんだけど、山の上の橋って、跳ね上げ橋なんだよ。
だから、到達した反乱軍の先遣隊は、何も出来ないです。
「いや、楽しいね。これは痛快だ」
「ええー? 痛快かなあ? むしろ、シナリオブレイカーでは?」
「ティースが荒れ狂う様子が目に浮かぶよ」
「……えっ」
ぎぎぎ。
半壊した岩山を降りながら、隣の彼に、ぎこちなく顔を向ける。
今、なんとおっしゃいましたか?
「メインクエストのシナリオは九割以上、ティースが書いてるからね」
「……内緒にしてくれない!?」
「もう遅い。ほら」
指差した先は、城壁の上。
打ち上げ花火用に、ずらりと大砲が並んでいる。
でも、砲門の先は、お城の城郭。
……本来なら日没後、そう時間を置かずにそれは火を噴いたはず。
今? 噴くわけがない。
さっき、火薬庫に念入りに雨を降らせておいたし。
今頃、火薬庫の中は困り果てた兵隊さんたちが阿鼻叫喚だろう。
それに、城壁の内側から、鬨の声が聞こえる。
彼に、商人ギルドに交渉して貰った成果だ。
商人ギルドの地下倉庫には、炭鉱を脱出した男衆たちが匿われていた。
本来の決起タイミングは、明日。
先遣隊は、つまり、陽動の予定だったのだ。
城兵を城の方に引き付けたタイミングで、町で決起。
そこから町と城を繋ぐ壁を崩して、城に迫る計画だった。
ただ、正規軍が北門から出られない上に、砲弾が湿気って撃てないから。
──町の内部から反乱軍の本隊が決起したら、もう悪徳領主は袋の鼠。
……だから、あそこで逢い引きで乳繰り合ってた男女二人。
あのまんまほっとくと、町を夜逃げするしかなくなるんだけども。
まあ、職務怠慢で厳罰免れないし、そっちの方が幸せなのかも。
「博打には、勝たせてあげたかな」
「へ? 何の話?」
すっかり日も落ちた暗闇の中で、彼はにやりと笑ってた。
珍しく、ボクの方を向かずに。
「いや、何でも。姫? では、ここからどこへ?」
「んーっと。……えっと、風車小屋に行きたいかな。丘の上の」
「ん? ……それはまた、どうして?」
「だって」
立ち止まった彼の方へ振り返って、ボクは、後ろ向きに数歩歩いて。
「しばらく、町もお城も、てんやわんやでしょ? ゆっくり眠りたいの」
「……なるほど。風車小屋は、しばらく無人ですな」
「そうー。知ってる? 風車小屋って、屋根の上に登れるんだよ」
「存じておりますとも。あそこから見る朝日は、絶景ですよ」
「うん! じゃ、行こうー! ご飯とお水は用意してね!」
「無論。全て従者にお任せ下さい、姫よ」
うん。
しばらく、町はお祭り騒ぎだろうな、別の意味で。
でも、町が焼かれることはないし。
城兵は元々、反乱兵に同情的だ。
っていうか、悪徳領主、人望ぜんぜんないから。
だから、城の内外で同時に民兵が動けば、積極的に戦うことはない。
むしろ、積極的に領主の邪魔をするだろう。
プレイヤーは本来のシナリオよりも早く町に戻るだろうけど。
結末に大きな影響はないと思う。
そこから先は、もう、お決まりのパターン。
ボクがちょっかいかけなくても、処刑台を登るのは、悪徳領主だ。
「あれ。じゃ、ティースさんはなんで町に居たのかな」
「あれはね」
いたずらっぽく笑う、彼が突然耳に囁いて、ボクは耳を押さえた。
その手を優しくつまみ上げて、彼はささやき声を続ける。
ねえ、ちょっと?
低くて甘い声が、ずしんと脳裏を揺らすんだよ。
やめてよ?
「炭鉱で民兵反乱を計画させたのが、そもそもあいつなの」
「……うわ。悪い人だー……」
彼女は、魔王軍の参謀。
反乱が悪徳領主を追放させるものだとしても。
それは、一朝一夕では成らない。
領主は、西海軍船団の指揮も兼ねてる、から。
その首が挿げ替わるまでの間、南海上の魔王海軍は、やりたい放題。
うわ、うわー。
え、これ、大丈夫かな?
ボク、魔王軍の手伝い、しちゃったような??
「まあ、姫はお気になさらず? 今夜はゆっくり、眠れますね」
「眠れるわけない!? どうすんのさ、ボク、性向値下がっちゃうよぅ」
リアルなので、性向値とかないです。
なんて彼が言った言葉も右から左で、ボクはうんうん悩み続けた。