表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/45

#17 花火の代わりを、特等席で。

「さて、北門到着ですよ、姫」

「正確には、北門の横の岩山ね」


 彼の背中から、ボクはツッコミを入れた。

 おんぶされるのは、もう仕方がない。

 持久力がないボクが、火薬庫から北門までの道を走り抜けるなんて無理。


 この城の攻城戦でも、この通路は最重要防御通路だったっけ。

 火薬庫の屋根から予備の城壁に上がって、城壁の上をまっすぐ北へ。

 そうすると、岩山に繋がって城下町を見下ろせる位置に着くのだ。


 ここから情報を主力部隊に送るのが、城攻め斥候役の役割だった。

 ボク?

 ボクもほんとは、斥候役が務まる職の筈なんだけど。

 何故か本隊に押し込められて、いつも前線に出して貰えないんだよね。

 やっぱり、嫌われ者のボクが前線に出ると、士気下げちゃうのかなあ?


 それはともかく。

 背中から彼の肩に上がって、目を凝らして南に伸びる街道を見る。

 普通の人間なら、夕焼けに溶けて、見えるはずもない光。

 でも。

 ハイエルフのボクの視力からは、逃れられない。


「──いた。見つけた」

「だろうね。そちらも斥候だよ、反乱軍の」


 町の北側は、なだらかな丘になっている。

 丘と言っても、稜線の向こうは急勾配で下っている。

 だから、その向こうに何かが居ても、こちらからはとても見えづらい。

 故に、要所要所に見張り台がある。


 でも、今のタイミングは。

 見張り台の番兵が全て、反乱軍に制圧されている。

 だから、ランタンの抑えられた光が、稜線に沿って小さく見えるのだ。

 では、本隊は?


「本隊は丘向こうを城に……、町の北西に向かってるはず、だよね?」

「そう。そして、非番で町の外をうろつく風を装った兵士に見つかる」

「兵士が報告どころでなくなる手を打てばいい」


 どうやって?

 そんな質問を、彼がするわけがない。

 彼は、言うなれば、運営側だ。

 この岩山のギミックも、十二分に知っている。


「出来る?」

「無論。一言、言って下されば?」

「じゃあ。お願い!」

「姫。そこは、やれ、と命令するところですよ」


 口調とは裏腹に、彼は心底楽しそうだ。


「わ、わわっ!? ちょっ、ちょっと、降ろして!?」

「暫し、時間を下さい」

「うひゃ、待って待って待て待てー!」


 待ってくれなかった。

 彼は、ボクを肩に乗せたまま、腰を落として。

 目の前の大きな岩に向けて、半身で、思い切り左腕の拳を引く。

 右手は左拳の上に添えて……、そして、彼の肌越しに。

 凶悪無比な、とんでもない量の魔力が湧き上がるのが分かる。


 彼の殆どの魔力は、ボクの腰、【黒神の双短剣】に封印されている。

 それなのに。

 この魔力を全て外に出したら、きっと……。

 この町なんか、軽く消し飛んでしまうだろう。


 黒の魔王。

 史上最強、最悪の混沌の王。

 人類の敵対者。


「……おっと。魔力、練りすぎた」

「ばっ、ばかぁ! どうすんの、それ!?」

「どうしましょうか?」


 聞かれても、困りすぎる!?

 彼の頭に抱きついて、とりあえず、叫ぶ。


「とにかく! 放出、撃っちゃって! でも町に向けちゃダメー!」

「姫? 空を、ご覧下さいな」

「へ?」


 ず、どん!

 下っ腹の奥深くまで響く、重厚な、音。

 彼が岩山を拳で打った音だと、気づくまで時間が掛かった。

 だって。

 音よりも速く、衝撃は、天空に抜けていた。


 あ。

 そうだった。

 彼は魔力を、外に出せないんだった。

 でも。

 打撃って、こういう使い方もあるんだ。


 天空高くまで、音速を超えて打ち上がった大岩は……。

 雲の高さで弾けて、真っ白な破片を木っ端微塵に撒き散らした。

 ……まるで、花火のように。


「楽しみにしていらしたでしょう?」

「……やる前に、一言言ってよ」

「特等席を用意したではないですか」

「──太ももの感触を楽しみたかっただけでしょ?」

「ちっ。バレたか」


 渾身の力で彼の後頭部に抱きついて、がりがりかじってやったんだけど。

 ……彼を喜ばせてるだけだ、って気づいたのはずいぶん後だ。



関東圏の方、令和元年台風15号大丈夫でしたか?

ご自身の安全第一で、ご無理なされませんようにー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

──少しでも面白いと思ったらっ。評価ボタンを押して頂けますと、感謝感激でございますっ。──


小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ