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#16 火薬庫は、びっちゃびちゃ。

「やること、分かってるよね?」

「無論。だが、どの手で行く?」

「うわー。また選択かー」


 人混みを避けて、港の北側から浜辺を抜け、森に入った。

 ……実はこの軍港、抜け道が結構あるのだ。


 港の北側も、当然ながら城壁がびっちり海辺に延びている。

 でも、その城壁、一部が取り外し、出来ちゃうんだな。

 何のために?


 これ、サブイベントに入ってるんだけど。

 城内で働く侍女が、北門の門番と逢い引きするために崩した壁なの。

 二人の身分違いの恋に同情した石大工を手伝うイベントがあるんだけど。

 今は関係ないです。


 もちろん、城壁が崩壊するほど大きな隙間じゃない。

 でも、巧妙に隠された隙間は、人間一人が出入りするには十分だ。


 ボクらも、その隙間を潜って城下町と城の間の通路に潜り込めた。


「……ああ、貴方、貴方、貴方ぁ!」

「……おお、お前、お前、お前ぇ!」


 くすくす。

 もう、悪趣味だよっ。

 笑ってる彼の服を引っ張って、そそくさとその場を離れる。

 そりゃ、逢い引きのための隙間だもん。

 抜けたら当然、逢い引きしていらっしゃるお二人さんがいるよ。


 茂みから延々と響く声に背を向けて、ボクらは奥へ抜けた。

 サブイベントだと、じっとここにいると結構長いことやり取りが続く。

 その話の内容で、後のイベントに繋がる情報を得る、んだけど。


 ……メインクエストをかなり終盤までやり込んだボクには、不要です。


「姫は、ああいう行為に興味は?」

「あーりーまーせーんー。ほら、出番だよ」

「つれないお方だ。では傷心の従者は、暫しの暇乞いを」

「うるさい、さっさと行けっ」


 日が落ちて、薄闇の通路。

 ここは死角とは言っても、見張りの兵隊は居る。

 というか、重要区画なんだから、たくさん居る。

 まあ、彼に眠らせて貰うのは、巡回兵士の三人だけだけどさ。


 ──魔道士の英雄さんが居れば、眠りの雲で一網打尽なんだけど。

 ボクは精霊弓士、そんな便利な攻撃魔法は持ってないのです。


 見張りを倒した先?

 お城の重要区画にして、軍事施設。

 火薬庫です。



────☆────☆────☆────☆────☆────



「さあ、姫のお手並み拝見」

「拝見っていうか、今回ボクのお仕事、ここだけだよちくせう!」


 水の精霊を呼んで、屋内をまんべんなく飛び回って貰う。

 たったそれだけで、この火薬庫は全部、使い物にならなくなる。

 火薬庫は火気厳禁。

 でも、それ以上に湿気も厳禁。

 だって、湿気った火薬は点火できないから。


 魔法なら火気も湿気も関係ないけど、魔法使いは貴重。

 だから、普通は王城に囲われて、重要戦力として扱われる。

 ……プレイヤーは、メインクエストの序盤から正規軍と繋がりを得る。

 それは、つまり、そういうことだ。


 と、いうか。

 今、まさにリアルでメインクエストを追体験しているから、分かる。

 ボクらプレイヤーは、この世界では破格の能力者なのだ。

 どこの国の王族も喉から手を出してでも欲しがる、重要戦力。


「あーあ。花火、楽しみだったのにな」

「どうせ上には打ち上がりませんでしたよ」

「それは言わないでっ。むうぅ、シナリオ進捗、確認しとけば良かった」


 ぱちゃり。

 足元に、水たまりが広がる。

 大量に喚んだ水精霊が、張り切りすぎたようだ。

 火薬庫の中は、湿気というよりも一雨来たように水浸しだった。


 ──今頃、プレイヤーは南の炭鉱に向かって、街道を南下している。

 昼間の番兵さんが挙動不審だったのも、当然。

 彼らの正体は、反乱軍に呼応する裏切り者。

 花火は打ち上がらずに、城に向かって砲弾が打ち込まれるのだ。


 そして、城下から兵士が大挙して、城に向かう途中の反乱軍にぶつかる。

 城下で戦闘が勃発して、多くの建物が焼け落ち、民衆が死ぬ。


 ……それは、悪徳領主側が考えた筋書き。

 反乱軍の目的は領主が住む城で、町は素通りする予定なのだ。

 でも領主は反乱計画を知った上で、賊軍として討つつもりでいる。

 だから、町を焼く計画が、このシナリオの緒戦なのだ。


 プレイヤーが途中で領主の陰謀に気づいて、反乱軍に味方する。

 数人で軍をひっくり返すほどの莫大な戦力を持つプレイヤーたち。

 でも、動ける速度と範囲は、普通の人間と大差ない。

 緒戦の損害をプレイヤーたちが防げないのは、仕方のないことだ。


 ……でも。

 ボクなら。

 シナリオを、歴史を終盤まで知っている、ボクらなら。

 大筋が変わらない程度に、内容を修正することが出来る。


 だから、ボクは選択する。

 いちばん、犠牲の少ない方向へ。



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