#15 着替えを一式貰っちゃった。
「……これは、これは。見違えたな」
「で、しょう? 自信作よ」
えー。
ほんとにー?
じとー。
そんなジト目で、ボクは思わず、戻ってきた彼を睨めつけてしまった。
ティースさんに連れられてやって来たのは、衣類屋さん。
と言っても、お祭りの最中だから、本店は観光客でごった返している。
ボクたちが訪れたのは、問屋の方だ。
始まりの島で着ていた衣装は、対ゴブリンロード戦でどろどろにした。
一応洗ってはいたけど、汚れは完全には落ちなかった。
……血脂って、ほんっとにしつこいんだね。
しかし。
もっと渦中で肉弾戦した彼の黒い革鎧に、汚れが一切ないのはなんでだ。
そういうわけで。
ティースさんに上から下まで一式、仕立てて貰ったのだ。
代金は?
えっと。
古い衣装と交換で、いいですか?
あれ、一応課金装備だから、結構いい値段で売れると思います。
アイテムボックスが開ければ、金貨数十億枚以上貯め込んでるんだけど。
……ううう。未だに、開き方が分からない。
ボクのアホー。
自分のお財布が開けないなんて、とんだお間抜けさんすぎる。
ご飯の代金は、基本的に彼持ちです。
うー。借金が増えて行くぅぅぅ。
「ほら。ちゃんと褒めてあげてよね、あなたは口下手なんだから」
褒められるところ、あるかなあ?
髪はぐるぐると結い上げられて、薄く化粧までされてしまっている。
手入れっていうか、ボク、ひとりでこんな髪型、出来ないよ?
なんというか、恥ずかしすぎる。
ゲームの中で、うなじ出したの初めてだし。
ほら。
彼だって、目を真ん丸にして驚いている。
……あれ。
彼が驚いた顔って、初めて見たかも。
案外、これ、楽しいかも?
「そうか、着替えか。思いつかなかったな」
「髪型もね。ほんとにあなたは、こういうところはズボラなんだから」
「返す言葉もないな。お前が来てくれて、助かったぞ」
え。
何だよ、それ。
その、夫婦の間柄、っていうのは知ってるけど。
……。
夫婦のキスみたいなのって、見せびらかして、いいものなの?
「む? おっと、姫の御前で不敬だったな」
「むー。気にしてないもーん」
つーん。
唇がへの字に曲がってしまう不思議。
なんでだ。
知らないっ。
「可愛いお顔が台無しよ、お嬢さん」
「お、お嬢さんじゃ、ないしー」
「約定は、成ったぞ姫」
「……無粋よ、あなた」
ティースさんが眉根を寄せて、彼に苦言を言う。
でも。
すっ、とボクは頭が冷えた。
「いつ?」
「今晩。花火は延期だ」
「うー、残念。わかった」
ちらり。
ティースさんを、見上げてしまう。
彼女は盛大に溜息をついて。
それから、言ってくれた。
「いいわよ? 大丈夫、替えの衣装ならほら、こんなに」
「ありがとティースさん、大好きっ!」
言い捨てて。
結って貰った髪を解いて、ボクは問屋の外に、駆け出した。
彼は?
当然のように、隣にいる。
首を曲げてちらりと後ろを見ると、ティースさんが、仁王立ちだった。
けど、苦笑しながら、唇が動いて。
『行ってらっしゃい』
「うん! 行ってくる!」
高々と腕を上げて、応えて。
ボクは、町の外へ、ひたすら駆けた。
行き先?
決まってる。
港の、外側だ。
200ポイント到達しましたー、ありがたやっ。
今後も評価ブクマに応えられるよう、頑張りまするー。