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#14 計画が繰り上がります。

「あら、勘違いしないでね? ここであなたを倒す気は、ないのよ?」

「そ、それは嬉しいです。えっと、あの?」

「あの人が執着してるみたいだから、どんなお嬢さんなのかな、って」

「お、お嬢さんではない、です」

「ふうん? ほんとに、あの人の好みに合ってるのねえ」


 ざぶり。

 彼女がお湯を揺らしながら、ボクの目の前に移動してきた。

 うえぇ。

 目のやり場に、困る。


 大質量のそれは、ぷかりとお湯に浮かんでいて。

 ボクの小さなそれとは、えらい違いだ。


「あら、あなた」

「ふえっ?! な、なんでしょう!?」

「髪、ちゃんとブラシ入れてる? 毛先が荒れてるじゃないの」

「ぶ、ぶらし? えっと、手櫛ですけど」


 ……。

 なんで、ダメだこりゃ、みたいに顔を顰めるのでせうか。

 えー?

 ボクの髪は、植物性亜人種らしく、緑の髪だ。

 葉緑素を含んだ髪、みたいな設定があるんだけど。

 別にアバターの髪なので、そこまで大事にはしていない。

 ログアウトしてログインしたら、どんなに乱れても元に戻ってるし。


 あ。

 そうか。

 今って、ログアウトできるわけもないから。

 大事に手入れ、すべきなのかな?

 でもでも。

 女の子の髪とか、どう手入れすればいいのだ。

 知らないぞ、そんな知識。


「ほんとに、あの人は気が利かないったら! そう思うでしょ、あなた!」

「ふぇっ? そ、そうかな?」

「そうよ! 大事な女の子なら、ちゃんと世話してあげないと!」

「だ、大事? えええ? 大事って、どういう」

「どういうもこういうもない! さあ、上がって! 手入れするわよ!」


 強く手を引っ張られて、ボクは強制的にお風呂から出た。

 あれええ?

 商人ギルドの隠し事を暴いて、イベントを進めるはず、だったのにな。



────☆────☆────☆────☆────☆────



 どうやってこの、ワシの執務室へ入り込んだ。

 などとは問い詰めない。

 事実、男は既に居るのだ。

 今更、そんな誰何は無意味じゃ。

 そんなことよりも、男の言葉の方が重要じゃった。


「どこで、その情報を得られたのかな?」

「さあ、どこだろうな」


 とぼけながらも、男は高価な壺を軽々と宙に放り投げた。

 ──そして、ぽん、と片手で器用に、受け取ってみせる。

 脅すつもりか、とワシは思う。


 ふん。

 表向きは商人ギルドの長。

 裏ではルーディン盗賊ギルドの元締め。

 ワシの胆力は、その程度では揺らぎもせぬわ。

 舐めるでないぞ、若造め。


 ……ああ、いかん!

 その絵は、王族より賜った絵じゃ!

 なぜバレたのじゃ、額縁も敢えて普通に替えておる!

 王弟殿下の描かれた王都の風景画、値段など付けられぬというのに!


「おや。この絵が、それほど大事なので?」

「む? そんなもの、どこにでもありふれた風景画。二束三文じゃよ」


 二束三文なものか!

 画伯として名高い王弟殿下の手ずからの贈呈画じゃぞ!


「別に、無茶は言ってないはずだが? 手順を一日、繰り上げるだけだ」

「……それが、どういう結果を招くかご存知じゃな?」

「知ってるよ。失敗すれば、大逆罪で処刑台を登ることになるね」

「なれば。聞ける道理もない」


 どこから嗅ぎつけたのか、このネズミめ。

 反乱計画を、どこで知った?

 港に着いた三人の船で来たのは、知っておる。


 だが、スケは我が盗賊ギルドの一員にして、密偵のひとり。

 奴め、裏切ったか?

 ……いや、裏切るはずもない。

 奴は親の代からワシに仕える、密偵の家系。


 エルフの姫と、物見遊山の旅?

 馬鹿め、ごまかされぬわ。

 あれはハイエルフだ。

 世界樹の娘、エルフの上位。

 本来なら世界樹の森から決して離れぬ、高貴なる種族。

 通常のエルフは、黄瞳。

 だが、間違いない。

 娘の目の色は、真緑じゃった。

 ハイエルフの証。


 ふん。

 亜人の方でも、計画が進行中、ということか。

 精霊の愛娘、高貴なる血筋のハイエルフを森から出す、とは。

 なるほどあちらも、随分と思い切った。


「……この博打、乗るべき、か?」

「俺は選択しない。姫に従うのみさ」

「ふふん。良かろう。乗った。そう、お伝え願おう」

「了解した」

「……待て。その絵は置いていけ」


 さり気なく懐中に入れるでないわ。油断も隙もない。


「ほう? 二束三文だろう?」

「……何故気づいた」

「この風景は、王妃邸の庭から見上げる王城を描いたものだ」

「──!?」

「商人ギルドの長よ。以後は自室に飾り、人目に触れさせぬことだな」

「貴様……、いや貴殿、王族縁の者か?」

「俺のことはどうでもいいさ。約定したぞ?」

「商人は契約を護るものじゃ。して、そちらは何を差し出す?」

「────」


 今頃考えるな、この阿呆。

 こちらはリスクを負ったのじゃぞ。


「……そうだな。では、更なる繁栄と富、一族栄達を約束してやろうか」

「言質は取ったぞ?」

「どうにでも。そのように、『道筋は動く』のだから」

「未来を知るような口ぶりじゃの」


 からん。

 無造作にテーブルの上に放られた額縁を、ワシは慌てて手に取った。

 そして、振り仰げば。

 最早、男の姿はどこにも見えなかった。


 ……あれほどの男、盗賊ギルドにも居らぬ。

 名の通った一廉の人物のはず、じゃが。

 一体、何者なのじゃ?


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