表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/45

#11 大陸の玄関口に到着です。

「姫、大丈夫でやんすか? 見て下さい、ほら、もう着きますぜ!」


 漁師のカクさんの声で、ボクは薄目を開けた。

 ぐらぐら前後左右に揺れる視界の中で、波間に灯台の光が目に入る。

 辺りはもう夕暮れを通り越して、真っ暗。

 でも、ハイエルフの闇を見通す視力の前には、昼間と同じだ。


 確かに、港だった。

 大陸最西端の軍港町、ルーディン。

 グルーディ侯爵の治めるグルーディ地域最西端で、西海軍の本拠地。

 グルーディ領の玄関口で、貿易でも賑わっている。


 初心者プレイヤーにとって、ここが初めての大陸上陸地点だ。

 そして、この軍港町では王侯貴族と縁が出来るイベントが盛り沢山。


 ……でも、今のボクにはそんなイベント、どうでも良かった。


「ううぅぅ……、えっぷ」

「おい、カク! 姫さんにいちいち話しかけて起こすな!」

「ハチ、それより器だ! 姫さん、全部吐いたら楽になりやすぜ!」


 えろえろえろえろっ。

 けほっ、けほけほっ。


 ううう。

 もう、胃液も出ない。辛い、苦しい。

 感覚ダイレクトで船に乗ったら、乗り物酔いになるなんて。

 確かに、前世でも三半規管、弱かったけどさ。


「やっぱり、日を改めるべきでしたね、姫。時化なのに」

「うるしゃい。だって花火祭りがあるって言うからー」


 くすくすと軽い笑みを隠さずに、彼がボクの顔を覗き込む。

 至近距離すぎて、彼の吐息が頬に当たる。

 ちょっと、近すぎだよっ。


 五人乗りの漁船で、ボクはあぐらをかいた彼に体を預けていた。

 こうすれば、多少はマシだからって。


 確かに、直に床に座るよりは、揺れなかったけど。

 背中から彼の体温が伝わって、安心も出来たけど。

 低く呟くような彼の声や、ぽんぽんと軽く叩く手に安堵したけど。


「くそぅ。ボクは、男なんだぞ」

「はいはい。さあ、上陸ですよ、姫」

「う? えっと、ボク、何かする?」

「立てないでしょう。眠って下さい」


 にっこり。

 笑う彼に、不覚にも完全に安心して、目を閉じた。


 ばたばたと、周囲を走り回る音が聞こえる。

 ボクのために船を出して大陸にとんぼ返りしてくれた、三人の足音だ。

 スケさん、カクさん、ハチさん。

 いかつい顔立ちなのに根は正直で、働き者。

 ボクだけ眠っちゃって、ほんと、申し訳ない。


 でも。

 眠気に、勝てないです。

 ごめんなさい。



────☆────☆────☆────☆────☆────



「船はこの後、どうしやす? 旦那の買った船ですが」

「もう海路は使わないだろうし、売っていいよ」

「わかりやした。商人ギルドに話通しておきまさあ」

「よろしく。俺たちは町に居るよ」

「了解っす。あっしらは昔馴染みに会いますんで、一先ずここで!」

「うん、ここまでご苦労さん」

「「「姫さんも、またどこかで!」」」


 ……何が、どうなったのやら。

 彼が、三人を顎で使っちゃっている。

 え、何?

 昨日の夜中に、軍港町に着いて。

 それから宿に入って、一泊。

 朝からまだ足元が覚束ないボクを見かねた彼が、抱っこしてくれて。


「……ふえ?」

「祭りの花火は夜からですよ、姫。町を巡りましょうか」

「ふにゃ? う、うん? ねえ、スケさんたちと仲良くなったの?」

「ええ。彼らはとても協力的ですね」


 …………???

 そりゃ、彼らは本来なら、反乱軍に入って領主と敵対する役どころだ。

 島の出身民を差別して重労働を課す西海軍が、ここに駐留している。

 チュートリアル後のメインクエスト一発目イベントが、それ。


 この軍港町は、つまり、プレイヤーの働きで領主が変わるのだ。

 グルーディ侯爵から町を任されている領主は魔王軍と繋がっている。

 繋がっているというか、正確に言うと、海賊行為を行っている。

 そして、罪を南東に拠点を持つ魔王海軍に被せているのだ。


 無論、魔王軍も罪をなすりつけられた無関係な第三者ってわけじゃない。

 実際、悪徳領主は盗んだ物資を魔王海軍に横流ししているから。

 横流しされた武器弾薬はそのまま魔王海軍に利用されている。

 そして、魔王海軍の活動範囲を更に範囲に広げる元手になっている。


 その活動は、南の廃坑を秘密裏に発掘させているのも含まれる。

 そこから採れるのは、魔鉱。

 加工技術を知らない人間にはただの石ころでしかない。

 だけど、魔族が加工すると魔石に変わる。

 そこで、スケさんたち始まりの島の島民は強制労働させられている。


 ──つまり。

 プレイヤーは、悪徳領主の悪事を暴く必要がある。

 そして魔族との関係を暴いて、悪徳領主を追放するのだ。

 ついでに、魔石の加工技術を手に入れて、軍功を上げる。

 その報奨として、王都にいるグルーディ侯爵に会うことになる。


 ……けども。


「まあ、ありきたりな陰謀発覚イベントだね」

「う? うん。でも、ボクら、関係なくない?」


 ボクは彼の片腕で抱かれる形になっていた。

 おしりを彼の肩に乗せてるので、重さがちょっと気になる。

 けど、彼は苦にもならないらしい。

 うーん?

 そんなにガチムチには見えないのになあ。

 細マッチョ、ってやつなのかしら。


「ほら、姫? 北の軍門ですよ」

「うわ、懐かしい。あれ、最初のメインクエストで開くんだよね」


 港から桟橋を抜けて、大広間と庶民広場に繋がる十字路。

 その遥か北の向こうに、いかめしい金属の大門が見えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

──少しでも面白いと思ったらっ。評価ボタンを押して頂けますと、感謝感激でございますっ。──


小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ