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#00 プロローグ。

日曜に一日で2万文字書けてしまいまして。気が向いたら続きを書きます。

 白い空間に居た。


「まあ、定番だね。俺には不似合いだけど」


 そう言った男の子は、二十代くらいだろうか。

 華奢な細身の体つきで、黒髪で短髪。

 見ようによっては中学生くらいにも見える、痩せぎす。

 随分年下な印象を受けるのに、佇まいは遥かに年上にも思える。


 ボクは今日、三十三歳の誕生日を迎えたから。

 一回り以上は、下かな?

 ……そこで、不思議に気づいた。


「あれ?」


 ふと口をついて出た声が、予想外に大きく響いて、びっくりした。

 辺りを見回しても、ボクと彼以外の姿はない。

 それ以前に、地平線の彼方まで続く白い大地と、星もない黒い空。

 現実には、有り得ない光景だと思う。


「……夢?」

「そう思い込んでも、俺は構わないけどね」


 淡々と応える彼の言葉が、なんだか嘲笑のように聞こえて。

 ボクは少し、唇を歪めたと思う。


「ふふ。なんとまあ、可愛いらしい。美の女神の化身のようだね」

「あのねえ」


 聞き捨てならない台詞に、ボクはきりりと眉根を吊り上げた。

 でも。


「いや、気分を害したなら謝ろう。それより、大事なことがある」

「……謝罪を受け入れるよ。そうだね、それはボクも同意」


 巧く、躱された気分。

 それよりも確かに、大事なことは、今、ボクらの間に横たわっている。


「……君は、神様なの?」

「なんだい、藪から棒に。どうして、そう思うのかな?」

「…………」


 質問を質問で返された。

 少し口ごもって……、ボクは、思い切って、それを述べる。


「だって、これ……、ボクの、遺体じゃないかな、って」


 ボクと彼の間、中間位置にあった、それ。

 どう見ても、ボクの体だった。

 今日、三十三歳の誕生日を迎えたはずの、ボク。

 うつ伏せで顔は見えない。

 だけど、お気に入りの白いシャツから覗く手は、やせ細って。

 首筋も腕も足も、青黒く変色してしまっている。

 どう見ても、生きているはずがない。

 どうして、こんなことに。


 ボクのために誕生日会を開いてくれたんだ、今日。

 みんなが。

 ──もちろん、飲み会なんてものじゃない。

 リアルの友達なんて、誰も居ないんだから。


 ネットで知り合った十年来の悪友たち。

 みんな筋金入りのゲーマーで、MMO廃人。


 二十年続く古き良きオンラインゲーム、サルフィーア2。

 ボクらは、サーバー最強、二十四職二十四人の英雄クランを組んでいた。

 今日は皆……、黒の魔王討伐(レイド)に挑むために集まってくれたのだ。


 ボクがずっとやりたがっていた、サルフィーア2最高難易度の難敵討伐。

 黒の魔王は、サルフィーア2の世界で暗躍する暗黒の神。


 でも、彼に関する世界の伝説や説話の数々を調べるうちに。

 ボクは、彼を──、救いたくなったんだ。討伐という形で、負かせて。

 闇に堕ちた魔道の王、魔物の王、孤独な王様、黒の魔王。

 勝算はあった。


 黒の魔王討伐戦は、サルフィーア2レイドの中でも特別に異質だ。

 全サーバー合同、大規模大人数レイドが売りのサルフィーア2。

 なのに、黒の魔王は十二サーバーのうち、単独でしか挑戦できない。

 挑戦権は持ち回りで、今日がボクらのサーバーの獲得日だった。

 というか、黒の魔王だけは、サーバーに跨って複数存在しないから。


 通常のレイドは、参加者全員に莫大な報酬が約束される。

 数百人、数千人でたった一匹の巨大、強大な難敵に挑むレイド。

 討伐成功の参加者は、比類なき栄誉と莫大な報酬を得られる。

 でも、黒の魔王レイドには、それがない。

 それなのに、討伐難易度はSSSS(クアッドエス)クラス。


 そして、二十四人限定でしか参加を認められない。

 必然的に、最強英雄二十四職で挑むことになる。

 でも、黒の魔王レイドは、得られる報酬が釣り合わない。


 だって。

 黒の魔王レイドで得られる報酬は、たったひとつきり。

 ただ、討伐貢献度第一位、参加者全推薦を得た、只一人が。

 レイドの名を冠した強力な武具アイテムを取得する権利を得るのだ。

 討伐レイドで有りながら、仲間内でも戦果を競う、熾烈な競争。


 ──これまで、討伐は何度もあった。

 不人気とはいえ、レイドだからね。

 コンプリートを目指す輩は、どこにでもいる。

 でも、不敗。

 最強無敵のレイドボス、それが黒の魔王だった。

 ついでに、超不人気。ボクと同じ。


「弱っちいボクを、皆が推薦してくれた」

「推薦だけじゃない。目に見えない部分の貢献度もちゃんと計算されてる」

「それは、そうなんだけど。ボクの働きなんか、大したことじゃない」


 目の前に持ち上げた両手とそれぞれに握った短剣を見て、自嘲した。

 ──両手?

 今、ボクの目の前には、ボクの手がある。

 白く細い華奢な、女の子の手。

 キャラメイク通りの、背が低くてスレンダー。

 可憐な美少女ハイエルフ。


 ティーネ・クー。

 それが、ゲーム内のボクの名前。

 ……だった。

 今は、ゲームにログインしていないんだけど?



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