氷閉
世界は凍っていた。
「きれいだね」
隣で誰かがそういった。
誰だかはわからない。
「どこが」
僕はそう聞いた。
「だって、全部が動かないんだもの」
朗らかな声でそう返された。
「口は動いてるじゃないか」
屁理屈をこねてみる。
「はは、見えるもの全てが、だね」
それきり、隣から何も聞こえなくなった。
目の前で、凍りかけの鳥が落ちていく。
「コウチョウって言葉が言い得て妙かなぁ」
そんな冗談を言ってみる。
鳥は、必死にもがいた末に、地面に激突した。
それきり、景色は変わらなくなった。
「きれいだな…」
なんとなく呟いた。
「ああ、あの時ちゃんと返事しとけばよかったな…」
それきり、口を噤んだ。
(まだ僕はここにいるのか)
最後に残ったのはやっぱり「僕」だった。
(でも、これで「僕」も…)
そして、世界は、こおり、に、つ…
読んでくださりありがとうございます。