第三話
「では、スタートです。鬼の宮沢莉乃先生と前田史也先生が追いかけます」
スピーカーからそんな無機質な声が響く。この声の主は感情とか喜怒哀楽と言うものを知らないのだろうか。
遥か遠くから、逃げているはずの一年一組の皆の声が聞こえてくる。私達経験者組(?)は、一年二組の教室の教卓に隠れている。
隣では、本田君の荒い息遣いが聞こえてくる。別の意味で心臓が音を立てているのだと、私は感じた。好きな人がこんなに近くにいるということは、こんなにドキドキすることなんだ。と勝手に感じた。
ガタンッ!
反射的なのか、私と本田君の体が跳ねる。
今のは明らかに教室の扉の方からした。ってことは、一年二組に誰かが入ってきたのだ。
まさか、序盤に鬼出現? ここで私達は死んでしまうの?
……皐の死を、無駄にしてしまうの?
そんなの嫌だ。嫌だ、絶対に嫌だ。少なくともこんな序盤で死んでしまうなんていうヘマを犯したりなんて、私はしない。
そんな思いを込めて、私は息を止める。
……お願い、気付くな。鬼、絶対気付くな。
「あれぇ~? さっきここに一誠君とシオリン入らなかった? え・い・と・く・ん?」
「……」
その声を聞いて、一気に脱力してしまう。
何だ。……冬坂さんと、片桐君か。
びっくりした。でもこれで、「天才カルテット」ひとまず集合か……。
本田君も同様に安心したらしく、教卓からひょいと右手を出して、ひらひら振った。冬坂さん達もそれに気付き、私達の元に駆け寄っていった。
……あれ? でも二人、妙に落ち着いているような……。
冬坂さんは普通に、隣に幼馴染みであり騎士みたいな存在の片桐君がいるから、落ち着いている理由も、何となく分かるとして……。
片桐君。信頼していない冬坂さんが隣にいるはずなのに、そんな落ち着いている顔……。
少しだけ、妙だ。
「おっす、絵糸と冬坂」
「随分と落ち着いているのね。二人とも」
あぁ。思っていることを言っちゃった。きっと二人とも、「何言ってるんだ」と怪訝に思うに違いない。
案の定二人は揃って首を傾げていた。こんなところ、二人は幼馴染みっぽい。息がぴったりだ。
首を傾げてから冬坂さんは私達に視線を向けるように、しゃがんで言った。
「ねぇ、一誠君、シオリン、二人ともこんな感じのやつを昔に体験したってことだよね? ツイッターとか掲示板とかで見たけど、大変だったよね」
冬坂さんは気の毒そうな顔して、私と本田君の顔を交互に見た。
確かにあの後、ネットはテレビに勝るとも劣らず、すごいことになっていた。
検索サイトではトップニュース扱い。まとめサイトや深層ウェブでは、殺された児童達の個人情報が流れていたという。私達が聖ハスカのパソコン室で見た『Y校掲示板』が元になり、一気に火がついた。それから動画サイトにも私達のことが書かれた動画などが見られる。そのコメント欄には、『R・I・P』と書かれたコメントが多く残され、遺族達も慰められたらしい。ネットにいる人達も、掲示板で騒ぐような人達ばかりじゃないのだなと、私の親は感心したように言っていた。
「でも今は人ごとじゃないか」
冬坂さんは何故だか少し笑っていた。
ふと、本田君が、冬坂さんを見つめていた。
途端に、胸がチクッと痛む。
冬坂さんは可愛いから、本田君が見つめてもおかしくはない。目はぱっちり二重だし、全体的に顔のパーツも整っている。今まで外見で苦労したことがないだろうな、という顔だ。
……そんな子に本田君が見惚れても、何もおかしいことはない。でも何だ、この、もやもやっとした感じは。
「ん? どうしたの、一誠君。そんなに私の顔じっくり見つめて。何かついてる?」
冬坂さんは、少しだけ顔を赤く染める。こういうことは、中々演技では出来ない。聖ハスカで何とか男子にモテようとしていた秦矢さんでも、頬を無意識に染めることなんて出来ないからだ。
更に冬坂さんは、決定的なことを口にした。
「そんなに見られたら照れるよ……」
冬坂さんは顔を伏せて。
本田君の顔を見ると、口をつぐんで、目を見開いていて、何だかドキドキしているみたいだった。
……冬坂さん、いいな。
今この瞬間、本田君を恥ずかしがらせて、顔を真っ赤にさせることができるのは、冬坂さんただ一人だけだ。
「わ、わりぃ……」
本田君は、蚊の鳴くような小さい声で、そう言った。
ふと、本田君は私が向ける視線に気付いたのか、私の方を向いて、何故だか慌てた様子で言った。
「あ、紫織、これは、えっと、その……違うんだ、下心とかがあったわけじゃなくてだな、その……なんつーか、いや、えっとー……」
「え? なにが? 下心?」
何故本田君がこれほどまでにしどろもどろなのか分からないが、それにしても今、下心とか何とか言っていなかったか。
まさか、冬坂さん相手に、良からぬことを考えているのかもしれない。男には破壊衝動があるというし。
そういうことは、好きとか好きじゃないとか関係なしに、注意しなければいけないことだ。
「え、本田くん……あなた……」
私の睨みをシャットアウトするかのように、首をぶんぶんと横に振った。
「だぁぁ! 違くて、その! いや、今のは聞かなかったってことで!」
……本田君、声がでかい。そんな大きな声を出したら、即殺されてしまう。
……やっぱり本田君は、重要なところでヘマをしそうだ。心が丘では元気なサッカー少年だったらしいから、声もその分、大きいんだろうな。
「本田くん、そんなに大声を上げないで。気付かれてしまうでしょう?」
「あ、す、すんません……」
私があまりにもきつく言い過ぎたのか、いつもは明るい本田君が、しゅん、と項垂れていた。
途端に、横から鋭い視線を感じる。
見ると、教卓の前に立っている片桐君が、本田君を睨みつけていた。
……一体、何がそんなに気に入らなかったんだろうか。確かに、鬼にバレてしまうかもしれない大声を上げたのは、気に入らないことなのかもしれないが、何もぶっ殺さんばかりの視線を投げなくても……。
まぁ、いいや。それよりも今は、ここから動かないと。
いくら何でも、教卓には二人しか隠れられないし、細身の冬坂さんと片桐君が入っても、教卓が壊れてしまいそうだから、一年二組よりも隠れ場所が多い所に行かないと。
「で? いつまで経っても動かないってわけにはいかないでしょう。バレるのも時間の問題よ。異動しましょう」
私は一瞬そのまま立ちあがりそうになったが、そういえばここは教卓だったと思い直し、しゃがみながら前へ出る。
途端に一気に視界が開け、一年二組の黒板が見えた。
黒板の消し跡が残っている。正負の数の乗除だった。正負の数は符号を入れ変えればいいとか何とか。数学の先生がそんなこと言っていたが、一組担当の数学の先生、かなり適当なんだよな。
片桐君も冬坂さんも頷き、本田君も「そーすっか」と言う。これで四人全員が賛成し、私は一年二組の教室を出ようと一歩踏み出した。
ゴンッッッッ!
その瞬間、鈍い音が鳴って、私は、第一歩を踏み損ねた。
「ぐ、ぁぁぁぁぁ! いってえ!」
見ると本田君が、先ほど私がやりそうになった「教卓ゴン」を見事にやってのけていた。
……やっぱり本田君は、重要なところでヘマするな。
本田君はしゃがみながら小刻みに震えている。私は「本田君? 大丈夫?」としゃがんで言う。冬坂さんが後ろで「いったそぉぉ……」と言っている。
だけど、片桐君だけは。
「ま、自業自得だな。日頃からふざけまくってる一誠はこのぐらいが丁度いいんじゃねぇの?」
と鼻で笑っている。振り向くと、本田君をあからさまに馬鹿にしたような顔をしている。
……私も一瞬、やり損ねたんですけど!? と反論しようとしたとき、「くっそが……」と本田君が呟く声がした。
本田君は教卓の外から出てゆっくり立ち上がり、片桐君のことを見降ろした。
……本田君は今、私達の誰よりも背が高い。私も以前モデルをやっていたけれど、小六から中一の春休みにかけて成長期が来た本田君には敵わない。そして当然、未だ成長期の来ていない片桐君も、本田君には敵わなかった。
ちなみに私のモデル業は、殺人ゲーム事件が報道された直後に事務所から「結崎紫織さんが出ると、マスコミが騒ぎだすので、出来れば長期のお休みをしていただければ……」という理由の電話が来たので、私は自分から辞退した。今のところ、殺人ゲームの影響で仕事などは何一つ入っていない。
しかも中学校に入って忙しくなったので、当分オファーなどが来ても応えないと思っていたけれど、二度目の殺人ゲームが起きて、もうこれから一生オファーは来ないだろう。と確信している。
そんなことは置いておいて、片桐君は身長的な問題で見降ろされたのが悔しかったのか、本田君を睨みつけていた。
本田君と片桐君が睨み合いを終えるまで私と冬坂さんは待ち、二人がやっと終えた頃に一年二組の教室を出た。
「ちょ、わり。俺一旦トイレ行くわ。別行動していいよ。てかしよ。俺からちょっと離れてくんね」
急に片桐君がそんなことを言うものだから、私は少々目を丸くした。
……だって、こんな危機的状況に一人で行動なんて、身軽になるかもしれないけど、その分視野が狭くなるかもしれないんだよ?
つまり死んでいくようなものなのだ。今のところ、始まって三十分も経っていないから、流石にまだ死者はいないだろうけど、もしかしたら片桐君が最初の犠牲者になるのかもしれない。
……その時、幼馴染み、もとい好きな人が死んだ冬坂さんを、どうやって支えていいのか分からない。自分をいつだって守ってくれた、騎士のような存在の片桐君が死んだら。冬坂さんは、一体どうなってしまうのだろう。
……自ら、進んで片桐君と同じ運命を辿るなんてことは、してほしくない。たとえ女子のことをいじめたからと言っても、私と冬坂さんは友達、「天才カルテット」のグループメイトなのだから。
片桐君は疑問でいっぱいの私達を置いて、廊下をダッシュしてトイレに入っていった。
トイレが我慢できなかったのか、と私は納得することが出来なかった。普通は「トイレの前で待っててくれない?」とか何とか言うはずだ。それとも彼は、死にたかったのだろうか。何か辛いことがあって、それでこの殺人ゲームが起きたのをいいことに、死のうとしたのだろうか。
……もしくは、一人で行動したかった用事があったのか?
「ちょい俺絵糸の様子見てくるわ。悪いけど紫織と冬坂だけで隠れに行ってくんね。あとでこっちから探す」
本田君がそんなことを言いだした。
確かに、同じ男子なら、男子トイレに入れるはずだ。流石にこの非常事態でも、女子が男子トイレに入るのは少々ためらいがある。
「そうね。ちょっと片桐君の様子もおかしい気がするわ。わかった。私は冬坂さんと隠れるから。なんかかあったら、まぁ頑張ってね」
私は本田君に笑みを向ける。
本田君は私を見て少しだけ頷き、何だか私もほっこりしていた。
そういう本田君の笑顔が、私は、格好良いと思う。
「えー、シオリンだけぇ? そんなの華がないよぉ。絵糸君がいなくなっただけでも華がなくなったって言うのに、一誠君までいなくなったらシオリンだけとか、つまんないぃ」
冬坂さんが猫撫で声を上げる。
冬坂さんって、良い子なんだけど、たまにこうやって男子がいなくなると駄々をこねるよね。
モテたいっていう気持ちが、人一倍強いんだよね、きっと。でもその分、人に対する優しさとかを忘れていないんだと思う。
私は別に怒っているわけではない。
なのに全く関係ない本田君が、眉をひそめてトイレに入っていった。
何がそんなに気に入らなかったのだろう。
「ねぇ、シオリン、一緒にウチとどこかに隠れようよ。二人にはあとでスマホで連絡しておけば大丈夫だよね?」
「……えぇ」
冬坂さんが首を捻って言う。制服のスカートがひらりと揺れる。冬坂さんは私服も可愛いけど、制服の着こなし方も可愛い。
「シオリンならそう言ってくれると思ってた! さっすが、聖ハスカ一の天才!」
「……そんな」
大体もう私は聖ハスカにいないのだから、せめて「元」でもつけてくれればいいのに。
一分ほど歩いて、私達は三階の二年一組に隠れることにした。
幸い、と言うか、不幸、と言うべきか、四十人中、三階の二年一組に隠れる人は、どうやら私達以外、一人もいないらしい。
確かに二年一組は学校でもかなりの綺麗好きと噂される先生が担任だから、机のフックにかけてある荷物も極力少ない。でも今日はリュックサックがなかった。……一体、二年一組の生徒はどこへ行ったのだろう。
「……ウチさぁ」
冬坂さんが、二年一組を歩きながら呟いた。
「正直言って、髪型とかすっごい凝ってるの」
何故そんなことを今言うのか分からないが、うん、何となく分かっている。髪の毛をツインテールの位置から丸くしたり、いっつも天然パーマと偽って髪の毛を巻いているのも、普通の中学生には中々出来ないことだ。
特に周りの目も気にし始めるお年頃、好き好んで個性的な髪型にする女子の気が気でしれないと言っている女子達もいる。そう言う子達は揃いも揃って、ぱっつん前髪だったりする。つまりは流行りに流れているイマドキの女子達だ。
そういう雰囲気に、流されてるのか流されていないのか分からない冬坂さんを憧れる理由が、何だかちょっとだけ分かった気がする。
「毎日、どういう髪型にしようかなとか、毎日スマホで写真撮って確認してるの。今日は三つ編みにしようかとか、結ばないでいようかとか」
ふーん、としか言いようがない。何故って私は、モデル業以外で複雑な髪型にしたことがあまりないからだ。唯一プライベートで複雑な髪型になったのは、聖ハスカ小での運動会の時、秦矢さんにしてもらったくるりんぱに編みこみがなされていたときだけだった。他には伸ばしたり、ちょっとした編みこみだったりポニーテールにしただけだ。だから冬坂さんの努力には、見習いたいものがある。
「たとえば、昨日は不格好な格好で寝ちゃったから、寝癖がつくだろうなって、そういうときは寝癖を押さえつける三つ編みカチューシャにしようかなとか、今日は何だか髪がサラサラだから、思い切って編みこみ三重にしてみようかとか。そういうこと考えてやってるけどさ……」
冬坂さんって、そんな努力をしていたんだな。だからそんな女子力が高いんだ。
何だか尊敬できる。図々しさとかがないから、余計に尊敬できる。
「でもシオリンは、全然何かをしようとしたことがないでしょ。特にウチみたいな、ツインテールからまとめるような髪型なんてしたことないでしょ?」
まぁ確かにしたことはないし、しようとも思ったことがない。そんな髪型は、多分髪の毛をカラフルに染めてる人より相当目立っちゃってると思うし。
「それなのにシオリンは、中学入ってまだ一カ月なのに、何人かの男子に告白されてるでしょ? ウチ、小学校のとき告白された回数が十二とか三とかそのぐらいだから、何だか、天性の美貌なのかなって思って」
……? 何を言っているのかちょっと分からないが、とりあえず、私のことを褒めているのだろうと解釈しておく。
「ウチ、告白されるたびに好きな人がいますからって言ってるんだけど、その好きな人は振り向いてくれないんだよ。ウチが必死にアピールしてるのに、それが何ですかって表情で」
彼女の言う好きな人は、間違いなく片桐君のことだろう。
眼鏡をかけているイケメンで、天才カルテット一絵の上手い彼の顔が頭に浮かぶ。
数少ない美術部男子部員で、片桐君の描く風景画はとても綺麗。
こんな綺麗な風景をバックに、本田君と一緒に歩いてみたいな、なんて。そんなことも思ったりしちゃって。
自分は何て馬鹿なんだろう。そう思って、でもやっぱり片桐君の描く繊細な絵は綺麗でずっと見ていたくて。そんな感情に駆られる絵を描く片桐君が、私は本田君に向ける意味とは違う意味で好きだ。
「絵糸君、いっつも私を見てくれるとか思ってたんだけど、結局そうはいかないよねって」
……そうなんだな。って思う。
私の恋も、結局そうはいかない。本田君は、死んだ有村さんを今も想っている芯の強い人だ。そんな芯の強いところが私は好きだけど。
「絵糸君、小六の頃好きな人がいたらしくって。塾と先生が一緒の、お嬢様っぽい女の子」
そうなんだ。へぇ、片桐君は好きな人がいなさそうなイメージだから、何か意外。
「髪の毛ゆるふわで柔らかそうで、穏やかで、顔も声も可愛い、そんな子なんだ」
冬坂さんは、いつもとは違う寂しげな顔をした。
「ウチは到底かなわない、そんな子……」
冬坂さんがそう言った瞬間。
ピロリン。
LINEの着信音が鳴った。
……実は私、学校にスマホ持ってきてたんだ。
聖ハスカのとき、授業中こっそり音楽を聴いていた癖が抜けなくて、今もまだイヤホンまで持ってきちゃってる。
まぁ今は非常事態だし、学校生活にはいらないからって没収される心配もないし、そもそも今はあった方が断然良い。
隣を見ると、冬坂さんはいきなり鳴ったLINEの着信音に特別驚いた様子もなかった。むしろ彼女も持ってきている。おい。
「……一誠君からだ」
「ホント?」
私もスマホの画面を見る。見ると「一誠」と書かれたアイコンが画面の上に表示されていた。
『紫織と冬坂今どこにいる?』
それから、五秒も経たないうちにもう一つ。
『それと絵糸も早く戻ってこい』
打つの早っ。
私はそう思いながら、画面を開き、LINEの文字をタップする。それだけで数秒が経過する。もどかしい、この時間。
LINEを開いたとほぼ同時に、私は「天才カルテット(四)」をタップし、画面を開き、文字を打つ。
『私達は今三階の二年一組にいるわ』
『あれ? 一誠君絵糸君を探しに行ったんじゃないの?』
コンマ一秒ぐらいの差で、冬坂さんのアイコンも画面上に表れた。
確かに本田君は片桐君を探しに行ったはずだ。ならば合流しているはずだ。
……それなのに戻ってこいとは、何事?
『それが探してもいねぇんだよな。英とどこにも』
あぁ何だ。探してもいなかったんだ。なら、合流などしていない。
そのメッセージが表示されてからまた一瞬の間に既読の数が一増え、合計三になった。
『“英と”じゃない。誤字ってる。絵糸な』
『あと俺はトイレから帰って来て、今二年一組に向かってる。ちょいまち』
片桐君から返事が来る。真面目そうな片桐君が「ちょいまち」って使うなんて、ちょっと可愛い。
私がクスッと笑うと、冬坂さんも同じようにクスッと笑ってる。同じことで笑ったんだろうが、私より冬坂さんの方が可愛い。
「……じゃ、絵糸君も向かってることですし、待ってるとしますか」
「えぇ、そうね」
それから私達は、二人が来るまでの間、中々来れる機会のない二年一組を物色していた。
それは一分のようにも、一時間のようにも思えた時間だった。