第十二話 一誠
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
西条の頭から、鮮血が噴き出してきても、状況が理解できなかった。
だって、嘘だろって気持ちで、いっぱいだったから。
何だよ、終盤まで生き残ってきたじゃん、もう確実に、この場にいる人達生き残る感出てただろ。俺達主人公感出てただろ。なぁ、何でだよ、なぁ。
「いやああああああああああああああああああああ」
桜坂さんの大絶叫が、俺の耳をつんざいた。
「陸、陸、嘘でしょ、ああああああああああああああああああああああ」
うずくまって、声が裏返りそうになりながらも、叫んでいる。
俺は、叫ぶ気にもなれなかった。
もう、どうしていいか、分からなかったから。
だって、だってさっきまで、あんなに笑っていただろ。生き残ろうぜって、言ったばっかじゃん。それなのに、何で、何でお前がやられちゃうんだよ。お前がやられる要素なんて、何一つなかっただろ。
隣に座っている紫織の顔も、後ろにいる絵糸の顔も、確認できない。ただ、どこからかかすれた声が聞こえてくるのは、分かった。
俺は、そっと辺りを見渡す。
金工室のドアの前に、宮沢莉乃が、笑みを浮かべながら立っていた。
「お前……」
思わず、呟く。
「あー……るっさい」
宮沢がうざったそうに言いながら、絶叫する桜坂のもとへ歩み寄る。
それをいち早く察したのか、桜坂は「いや、いや……」と言いながら後ずさりし始めた。
「こ、来ないで! 来ないで!」
宮沢は、赤いセルフレームの奥の目を細めて、「は?」と桜坂の前髪を掴んだ。
「来ないでっつっても、次殺されるのが自分ってことぐらい、分かるでしょ?」
大きな瞳からぽろぽろ涙を流す桜坂。可哀想なまでにぶるぶると震えている桜坂を、見ていられなかった。
「い、いやだ、私……今陸と、生き残るって、約束したばっかだもん……」
両手で必死に顔をかばう桜坂。
素早く紫織が動き出し、桜坂の前髪を掴んでいる宮沢の腕を引き剥がした。
「やめろ、何やってんだよ。桜坂さんに触れるな」
紫織とは思えないほどの低い声が、紫織の口から発された。
あまりのギャップに、宮沢が一瞬驚いたような顔をする。
「お? 生き残った優等生、まさかの覚醒ですか?」
完全に煽っている口調の宮沢。我慢できなかったのか、紫織が宮沢の頬を殴った。
バチン、という音がして、宮沢は西条の上に倒れる。
もう何も言えなくなった西条を見て、何故だか胸が痛んだ。
「一生触れんな。人を何人も殺しておいて、何煽ってんだよ」
桜坂の前に立った紫織は、今までのどの紫織よりも、格好良かった。
「私の大切な人を、もう傷付けてほしくないんだよ」
桜坂が、ハッと顔を上げる。俺も、紫織の表情を見た。
凛々しい表情の彼女が、本当に、男の俺が言うのも情けないけれども、頼もしかった。
「……へぇ」
宮沢は、そんな紫織の熱弁を完璧にスルーして、不敵な笑いを浮かべた。
「は……? 何笑ってんだよ」
俺は必死の思いで、声を震わせながら宮沢を非難する。やっと出た俺の言葉は、紫織のよりももっと、この場の誰よりも情けない声だったと思う。
しかし、宮沢は俺の言葉も受け取らずに、ただ笑っている。
「ねぇ、知ってる? 人ってね」
そう言いながら、桜坂に向けて、銃を乱射した。
ふぎゃっ、と声を上げた桜坂が、うつ伏せに倒れていく。
「自分が死ぬより、自分の大切な人が死ぬ方が、悲しいんだよ?」
最後の最後で、先生らしい、当たり前のことを言っていた宮沢を、俺は精一杯睨みつけた。
許せない、許すもんか。
俺達を不幸のどん底まで突き落として、最後まで平気な面してるんだったら。
こいつらは、狂っている。
その瞬間、俺の意識が途絶えた。




