第一話
第二部です。
クールホーク様が一誠視点、私が紫織視点です。
クールホーク様の方が一話早く投稿していられるので、その補足として期待しないで見てくれれば幸いです。
藤咲中学校。
公立中学校の中でトップの座を誇る頭の良さ。藤咲高校付属中学校。
何故公立中学校でそれほど頭が良いのかと、以前、本田君が尋ねてきたが、殆どの高校は、「国立」「私立」「公立」に分けられ、そのうちの「公立」の中に「都立」「県立」「市立」などが含まれているのだ。
まぁ、私立で日本トップの聖ハスカには敵わないかもしれないけどね。
それでもこの学校は、かなり良い学校だと思う。私の情報は、殆ど説明会受け入りだけど、かなりスゴイ学校だということが分かった。
サッカー部は全国大会常連。藤咲高校の野球部は、毎年必ず夏の高校野球に出ている。水泳部もテニス部も、バスケ部もバトミントン、バレーもある。あとバレエもある。それ以外にも、陸上競技部、卓球部、ダンス部など他にも沢山の部活がある。
文化部では、メジャーな吹奏楽部のほかに、美術部、漫研、何と少林寺拳法部まであるというのだ。もう部活がありすぎて箇条書きで表示されていた。悲しい。
藤咲中学校は、綺麗な校舎と、のびのびとした校風が売りの、かなり良い中学校。
服装はもちろん制服だけど、衣替えは自由。部活の兼部は許可は必要だが基本オッケーだという。でも駄目な部活もある。たとえば、サッカー部と吹奏楽部、サッカー部と野球部、などと日程が重なる部活や、サッカー部の試合に吹奏楽部も応援参加するなど、大会が二つ重なる部活はNGだという。
一方、活動日の少ない美術部や漫研、写真部などとメジャーな部活は兼部しても良いということになっている。
「シオリンは何入るの~?」
突然、背後から冬坂然闇さんの声がした。
「冬坂さん」
「もー。いつまでも堅苦しいんだから~。然闇で、オケオケ!」
いつもハイテンションな冬坂さんに、この先ついていけるか、一瞬、少々不安になった。
まぁ、不安になってもしょうがない。
今日で、入学してから一週間が経った。部活ミーティングなども先ほど済ませ、昼休みになり、皆が部活は何にしようかと考えている途中なのである。
「ウチは、吹奏楽にしよーかなって思ってて~」
冬坂さんはツインテールにくるくるに巻いた髪をゆらゆら揺らしながら、顎に人差し指を当てた。本人は「この髪は天然パーマですぅ」と先生には言っているが、絶対違う。昨日、「お風呂上がってきたよ~」などとLINEで送ってきた際には、まっすぐなストレートヘアだったからだ。
「シオリンは、頭も良いし、運動もできるから、何でも入れるじゃん!」
……ニッコリ笑う冬坂さんが、恨めしい。
「天才カルテット」なんて名前を付けたくせに。よくそんなぬけぬけと言えるわね。
私が「天才カルテット」という名前で、どれほど辛いか、知ってるの?
確か、シゲとかいう男子がそんな名前を付けていた気がするけど、何だか納得いかない。
聖ハスカで死んでしまった、楓、喩菜ちゃん。
そして、私の親友、山崎皐。
私達は、四人で「天才カルテット」と呼ばれていた。聖ハスカで一番頭が良いと言われていた私と、運動が大得意で、オリンピック出場はすぐそこだと言われていた皐。読書家で、五年の頃に聖ハスカに入ってきたという異様な経歴を持つ、喩菜ちゃん。そして、喩菜ちゃんの彼氏の六年一組屈指のモテ男、楓。
「天才カルテット」のメンバーは大体そんな感じで、特に集合をかけるわけでもなく、ただ緩く「そんな風に呼ばれているんだね、私達」などと笑っていただけだった。
いつも一緒に行動しているから「天才カルテット」と呼ばれているのか、「天才カルテット」と呼ばれているから一緒に行動しているのか、いつの間にか私達は忘れていた。「鶏が先か卵が先か」というような感じである。
そんな私達がゆったりと聖ハスカライフを謳歌している間に、殺人ゲームが起きた。
小川幸秀先生が、殺人ゲームと称して、全校をぶっ殺そうとしたのだ。
そして何故か、六年一組だけが殺人ゲームをすることになった。手段はナイフで、先生を殺すのもあり。ただし、日の出までに残り一名になるか、または全滅しないと、聖ハスカに似た校舎に、爆弾が落とされる。
今考えれば、小川先生もどうかしてたんじゃないかという気になるが、その時の私達は、逃げるのに必死だった。
喩菜ちゃんと楓の仲を妬む楓ファンの女子達が、喩菜ちゃんをぶっ殺そうとしたり、喩菜ちゃん元ヤン説が解明されたり、皐が楓のことを好きだったり、殺人ゲームでは新たな発見と言うものが少しばかりあったのだが、そこに目を向けていては殺されるからと、あまり目を向けることが出来なかった。
そして、私が一番謎に思っていること。
それは、聖ハスカ小での殺人ゲームのとき、密かに私達に情報をくれていた、「情報屋」の存在。
「情報屋」とは一体、何なのか。果たしてそれは小川先生なのか。でも先生に聞こうがもう遅い。何故なら先生は殺人ゲーム中に既に死んでいるからだ。
しかも、先生は携帯を持っている素振りなど少しも見せなかったし、そもそも先生が放送室に行って「日の出をタイムリミットにする」とか何とか言えばよかったし。そもそも生徒全員を殺すことが目的なら、携帯なんて持たせない方がいいのに。
じゃあ、情報屋は一体、誰?
私達を少しでも有利にするために、殺人ゲームのことを教えてくれたってわけなの?
それ、良い人じゃん。「情報屋」。
……でも、日の出まで、地獄の時間を引き延ばしたし、しかも、この殺人ゲームの存在を知っていながら、止めなかったってことよね……。
だったら、「良い人」なんて言えないよね。うーん、ちょっと難しいなぁ。
「おい紫織。紫織は、何部に入るんだ?」
ふいに、またもや後ろから声が聞こえてくる。
本田一誠君。
皐のお兄ちゃんでもあり、心が丘小学校で行われた殺人ゲームに、唯一生き残った男子だ。
「さぁ、何部に入りましょうかね……」
「然闇は吹奏楽でフルートやりたいって言ってるけど、紫織も、吹奏楽入るの?」
「それも……どうなんでしょうかねぇ……」
正直、私は吹奏楽部に入ってもいいんじゃないかとは思っている。フルートやトロンボーン、アルトサックスなどを弾くなど、一度はやってもいいんじゃないか、と。
でも、美術部やテニス部、などもいいかもしれない。空手部や剣道部などもあるらしく、護身用に鍛えた体も、そこで生かせるんじゃないか、と思っている。
「本田君は、サッカー部?」
「おぅ、俺は万年、サッカーしか目に見えてないから」
それと同時に、有村さんしか、見えてないんでしょ。とは言わないでおいた。
有村夏実。本田君の好きな人だ。
その子も殺人ゲームで死んでしまい、私は名前すら知らなかったのだが、急遽配られたという卒業アルバムに、その子が載っていたのだ。
三つ編みおさげに眼鏡。ちょっと切れ長な瞳には、賢さが滲み出ている。
卒業アルバムの、有村さんが載っている写真を眺めては、ひとたび悲しさと懐かしさに触れる本田君。それが何とも綺麗で、私はしばらく、本田君を見ていたくなったほどだ。
有村さんの隣によくいる三人組。あの三人組が、「カリスマ三人組」なのだという。
「そうなの。サッカー、頑張ってね」
私が少しだけ口角を上げると、本田君は「そ、そうだな」と何故か動揺した様子を見せる。
どうしたんだろう、なんて思っていると、本田君のところに、片桐君が尋ねてきた。
「部活の話?」
「何言ってんのいきなり、絵糸。正解だけど。……盗み聞き? はっ、趣味悪ぃ」
そう言いながらも、本田君は笑っている。いつものおふざけ会話だ。
片桐絵糸。
無口であまり喋らないけど、私達「天才カルテット」の人達には、ちゃんと会話してくれる。今みたいにいきなり会話に口を挟むことがあるけれど、それ以外はちゃんと話してくれるし、Sっ気があるけど根は優しい男子だ。
あまり喋らなくて、入学式の「入学生呼名」や自己紹介、班活動のときでしか、声を聞いたことがないって人が殆ど。
でも話すと、声も本当に綺麗で聞きとりやすくて格好良いし、何よりその見た目が、ドS学級委員って感じがするらしい。クラスの女子によると。しかもモテモテだし、噂では一人暮らしって話もある。
そんなわけないじゃん、中学生が一人暮らしって、どんなんよ。
「紫織……は?」
「私? うーん」
片桐君が話しかけてくれるが、正直どの部活に入ろうかなんてまだ決めていない。
「片桐君は、何入ろうとしてるの?」
そんな彼は、と私は片桐君に尋ねる。すると片桐君は冷めたような雰囲気で言った。
「美術部で」
美術部……か。
うーん、一言で言うと……楽そうな部活。
「何で美術部?」
「俺、絵描くの好きで。家族が絵が大好きだったから、俺の名前も、絵糸になった」
絵を描くの、好きなんだ。
「じゃあ、将来は画家になったら良いんじゃないかな」
「画家……かぁ」
片桐君は首を捻って、そしてちょっと笑ってみせた。
「無理だよそんなの。俺、絵の才能、ないもん」
「そんなことないよ」
私は、片桐君を見据えて語る。
「私の大親友……もう死んじゃった皐も、小さい頃は運動音痴で、クラスでもかけっこは遅い方だったのに、いつの間にかオリンピックに出ちゃうんじゃないかってほど、強くなれたの。だから片桐君も、頑張れば皐みたいにスゴイ人になれるかもしれないよ……って」
私の話じゃないけどね、と苦笑いしながら言おうとして、やめた。
片桐君が一瞬、目を見開いたように見えたから。
それは、気のせい……だったのだろうか。
片桐君に「じゃあね」と言って席に座った私は、先ほどと同じように、部活ミーティングで配られた冊子を見やる。
皆どうやら、入る部活は既に決まっているようだ。
「片桐君は美術部、冬坂さんが吹奏楽部、本田君がサッカー部かぁ」
私は、何に入ろう。そう頭を捻らせていると。
『クイズ研究会』
そんな文字が私の視界に入る。
クイズ研究会……か。
確か、藤咲高校の『クイズ研究会』は、有名な大会で何度も優勝していると聞く。
それにしても、『クイズ研究会』というものが聖ハスカにはなかったので、かなり新鮮な感じがする。
そして私は、クイズ研究会に入ることを決めた。
◆◇
クイズ研究会の活動の帰り。
今日は、世界四十カ国の国名クイズだった。特にヨーロッパ州の国々の名前が少しばかり難しかったが、三分ほどで全問正解することができた。
クイズ研究会の部長は、三年生の藤木先輩。兄が高校のクイズ研究会にいるらしく、中学生の頃から頑張ってクイズを解く兄が誇らしく、クイズ研究会に入ることを決めたらしい。
クイズ研究会の活動場所は、三階のパソコン室。ネットで調べて提供することもあるらしい。
昇降口から出ると、色んな部活の声が聞こえる。
クイズ研究会の活動終了時間は、五時半。運動部の活動終了時間は六時半だから、まだ活動しているのも当然だよね。
「ファイトー!」
「藤咲中ファイトー!」
「ファイッ、ファイッ、ファイッ!」
陸上部の掛け声や、テニス部の掛け声。
それらの声が混ざり合って、何だか一つの塊になっているみたい。
あそこで今一生懸命走っているのは、同じクラスの森君。
あそこにいるのは、昨日落としたハンカチを拾ってくれた、伊東先輩。
「おい、一誠! パス回せ!」
「は、はいっ!」
そしてあそこで、サッカーを頑張っているのが、本田一誠君。
すごいなぁ、もう先輩達と一緒に練習しているんだ。
やっぱり、心が丘でもプレイが上手かったんだなぁ。
そこからしばらく、本田君の活動しているサッカー部を見学していた。
本田君は、有村さんの写真を見つめているときも綺麗だけど。
サッカーしている姿も、綺麗で素敵だな。
◆◇
六時半になり、校庭のあちこちから「ありがとうございましたー」の声が聞こえ始めた。
本田君は、先輩達に挨拶をして、バッグを背負い、足早に校庭の隅に向かう。
何をするのだろうと私も不思議に思い、本田君のあとをついていった。
どうやらサッカー部の顧問と話しているようだ。理科担当の、かなりごつい先生。
きっと、部活での話し合いがあるのだろうと思い、私は早々にその場を立ち去った。
そうだ。本田君の部活の話し合いが終わるまで、しばらく校内を探索していよう。
あとで、本田君と沢山、サッカーの話をしたり、それから、色んな話をしたい。
私と似たような状況を生きてきた人は、本田君しかいないから。
私を支えてくれるような人は、本田君しかいないから。
私が校内を歩きまわっていると、ふと本田君を見付けた。
一緒に帰ろうと呼ぼうとしたが、本田君は何やら真剣な面持ちで廊下を突き進んでいる。
本田君は、自動販売機の前で立ち止まり、バッグの中からお金を投入した。
藤咲中には自動販売機があり、よく私が買いに行こうとすると、私の好きな紅茶が売り切れになっている。
今日も既に紅茶は売り切れていた。
だが本田君は、迷わずオレンジジュースをタップした。
ごとんっという低い音がして、オレンジジュースが落ちてくる。
それを一秒もかからずに本田君は取り出して、そしてぷしゅっという音とともに飲みだした。
それからぶつぶつと何かを呟いていたが、「試合」などと口ずさんでいたから、きっと部活で何か言われたのだろう。
今なら一緒に帰ろうと言えるかな。
私はその思いを胸に、本田君に向かって歩き出す。
「あ、本田君。部活終わり?」
「お、紫織」
本田君もこちらに気付いたようで、ふっと柔らかな笑みを向ける。
「そ。部活終わり。紫織は?」
ジュースを飲みながら本田君は言う。こんな笑顔が私に向けられているんだと思うと、何故だか胸がぽかぽかした。
「クイズ研究会の帰り」
嘘だけどね。本当は終わってからずっと、サッカー部を見ていたんだよ、とは言えず。
「さっき試合がなんちゃらって言ってたけど、何かあったの?」
私は本田君の顔を覗き込む。本田君は、頬を赤くしながらも答えてくれた。
「そ、そう。俺、試合に出ることになったんだ」
し、試合……?
確か、先輩達が言っていたけど、都大会へ繋がる、重要な地区の大会じゃないかな。
一年生は出れなくて、引退してしまう三年生の試合だって言うけれど……。
そんな試合に、本田君が出てしまうなんて。
見ると、本田君の顔と頬が、赤く染まっていた。
……何か、悪いことでもしちゃったか。
私はそっと、本田君から顔を離す。
「へぇ。すごいね。
確かその試合って、一年生は出られないんじゃなかったっけ?」
本田君は、一瞬私と視線を合わせ、そして「まぁ……うん」と曖昧な返事をした。
何で私から、目を逸らすの?
すごく、気になる。何でそんな表情なの?
「……じゃあね、また明日」
自分でもそんな言葉が出てしまうのが驚きだ。
本当はもっと、本田君と話がしたいのに。
「あ、ちょっ、まっ……」
「え?」
本田君が、急に私を呼びとめるので、私は思わず振り返った。
私に何かついているのかな? そう思って尋ねようとしたけど、本田君は「あ、な、なんでもない。また明日な」と話を終わらせてしまった。
本田君のことが少しだけ引っ掛かったけど、私は気にせず、廊下をかけていった。
階段を下りて、校舎を出て、校門まで走った。
そのときの私の顔は、きっと赤くなっていたことだろう。
そして私は、知ってしまったんだ。
もう、戻れないんだって。
私、本田君が、好きなんだって。