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水切りワタル!!!  作者: 小鷹 纏
14/17

第十二投:勝利の栄光

 コールが自身を爆発させて生み出す推進力は凄まじく、現時点の大会最高速度を記録するほどの大和錦に追いつこうとしている。大和錦は更に速度を上げるが、限界を超えた加速により海面との間で強い摩擦熱が発生。跳躍毎にストーン表面が剥離し、ボディが僅かずつ小さくなった。

 ロトスが目を細める。

「小僧。進み続ければそのストーン、永遠に失われてしまうぞ」

「……大和錦と決めたことだから」

 ワタルは前だけを見て、静かに答えた。

「なぜだ。小僧にとってはただの競技だろう。それで大切なものを失ってなんになる」

 コールはボディを大きく爆発させて大和錦に並び、続けざまに体当たり。トゲのほとんどが自爆で失われているため、威力は低い。しかし柔らかい金がボディの今の大和錦には重く、削れた金粉が舞った。

 再び、ロトスは言う。

「ゴールできず、ストーンも散る。何も得られない『終わり』だ。本当にいいのか?」

 跳ね飛ばされた大和錦だが、すぐに体勢を立て直し前進。

 逃げ切りを防ぐべくコールは連続して体当たりを狙うも、攻撃は外れた。指示するロトスの視界が突然、眩しい光で遮られたからだ。

「ッ! 反射かっ!」

 真正面の夕日を金色の金属ボディで跳ね返す、目くらまし。作り出した隙で大和錦は、コールの前方へ。

 ワタルが言った。

「……あるよ。得られるものは、絶対。だからゴールを目指すね」

 大和錦は、コール前方の軌道を維持。コールが左右に動けば同じく左右に動き、進路を塞ぐ。

 ロトスは強い語気をぶつけた。

「大切なものを失えば、残るのは悲しみとやるせなさだけだ!!」

 回転を速めるコール。爆発的加速の予備動作。

 背後からのプレッシャーに動じず、ワタルは前を見続けた。

「きっとそれだけじゃないよ。だってオレは今熱くて、ワクワクして、楽しくて……」

「それは自分を納得させようとしているだけだ! 甘い幸せの誘惑に手を伸ばさなければ、悲しみは起きない! ここでやめればお前は失わずに済む!」

「オレ、やってみたいと思っちゃったんだ。やってみたら何があるか、知りたくなっちゃった」

「わかっていないんだ! 真の悲しみが! 失うことの辛さが! ならば小僧も失って、痛みをわかれ! 【ダスト・エクスプロージョ──」

 大和錦を砕くための、爆破攻撃の指示。

 だが、いくら待ってもコールは爆発しない。

「どういうことだ! 何が起こって……?!」

 よく観察すると、爆発の元である炭塵が発生していなかった。大和錦から剥がれた金が金箔となってストーン表面に貼りつき、コーティング。爆発機能を不全にしていたのだ。

「ッ小僧! 邪魔を……するな!!!」

 金箔をはらうべく左右に動き回らせるも、大和錦が前にいる限り、取り去る前に上塗りされる。もがくうちに大和錦は加速し、コールを引き離した。

 ロトスが叫ぶ。

「その技は俺と同じ、身を滅ぼす捨て身の技だ! わかっているのか?!?!」

 視線の先に見える陸地。銀色の特設観客席に両側を挟まれた、人工河川。長さ一キロメートルの、勝利への道。

 先行する大和錦も、追いかけるコールも、コインほどの大きさもない。

『ついに両選手が会場入り! このまま大和錦が逃げ切るかっ、それともコールが巻き返すのかっ!!』

 海と河川の境界線を越え、両ストーンがゴールへと進む。割れんばかりの歓声が観客席から降り注いだ。

「やめろ小僧ッ! 俺は認めん!! こんな、こんな結末など……!!!」


 ワタルとロトス。二人のフロートが、ゴールラインを越える。

 一瞬の静寂。


『ゴーーール! グレートジャーニー最初の到達者がついに決定!! 激闘を制したのは――』


 大音量の実況と、それをかき消す大・大歓声。

 興奮の渦の中心で、ロトスはワタルの言葉を聞いた。


「──得られるものは、ちゃんとあったよ。……ありがとう、大和錦」


 インタビュアーが勝者を取り囲む。視線が遮られる寸前に見えたワタルは、確かに微笑んでいた。


――脱・ドラゴントライアングル近海――


「ここまで案内ご苦労だったアルな! 停戦協定はお終い! 満漢全石ッ【兵馬俑へいばよう】!」

 満漢全石が放つ紫色のオーラが海水に触れ、ストーンサイズの兵隊の形に変化する。兵隊はフロンティアスピリッツを取り囲み並走。ほどなくして一斉に突撃した。

「へっ、所詮はオブジェだ。くらえ【ウォーターマグナム】!! そらそら、粉々になりなァ!!」

 鼻で笑うルーカス。襲い掛かる兵隊が、水弾で次々に打ち砕かれていく。

 燕青が武道の型を決めた。

「フンッ、余裕をかましているのも今だけヨ! 兵馬俑の真の恐ろしさを味わうがいい!」

 数百、数千の兵隊達が、海水によって再生成。

 ルーカスは口笛を吹いた。

「ヒュー。水があるだけ作れるってやつか? だがこっちも、水がある限り弾切れしねェよ! どっちがもつかの我慢比べか、それとも……」

 鋭い水弾が満漢全石を掠める。

「将を落として、すぐにでも終わらせちまおうかッ!」

 燕青の顔に笑みが浮かんだ。

「一騎当千なんてフィクションの中だけ。夢から覚ましてや──」


「――アー、盛リ上ガッテイルトコロ悪イガ。オ前タチ、マサカ本当二気ヅイテナイノカ?」


 張り詰めた空気に、付近を進むシブシソが割り込んだ。口調に緊張感がなく、苦笑いを浮かべている。

 ルーカスと燕青は睨み付けた。

「あァ?」

「なんのことカ?」

 シブシソは構わず、手元の通信端末の時計を見る。

「サン、ニ、イチ……」

「カウントだァ?」「何を数えて……」

「……ゼロ。……マァ、ウン。イイ勝負ダッタナ」

 端末画面に浮かぶ『連続競技制限時間超過』の文字。示しているのはシブシソではなく、ルーカスと燕青のステータス。二人はドラゴントライアングルに入る前から、連続して競技。二十四時間以上巡航に変更しなかったため、強制的に四時間の巡航状態となった。

 各々のフロートから小型ドローンが飛び、ストーンを保護。速度が低下する。

「なんで牛ヤロウは制限かかってねぇんだ!?」

 ルーカスがシブシソを問い詰め。

 呆れ顔のシブシソ。

「休ンデイタカラナ。オマエ達ガ小競リ合イヲシテイル間ニ。方角はアッチダカラ、精々ガンバレ」

 その会話を最後に、シブシソはルーカス達を引き離していった(ルーカス達が勝手に遅くなっただけ)。

「燕青! テメェが突っかかってきたからだぞ!!」

「突っかかってきたのはそっちヨ! あぁ、朕の連続優勝が……」

「なんでニックは黙ってたんだ! って、まだ通信障害かよッ。オーマイゴッド……」

 どんどん遠く小さくなるシブシソの背中に、ルーカスと燕青は嘆くばかり。その後二人はイザベルにも追い抜かれ、強制巡航のままゴール会場に到達する。長い競技史でも前代未聞の出来事だった。


──しばらく後・ゴール近海──


 一本角の巨岩と、白い小石が横並び。シブシソとイザベルが、デッドヒートを繰り広げている。先行していたギフトに、ラリー・ダカールが追いついた格好だ。

『上位入賞を争い、二つのストーンが到着ゥゥ! シブシソ選手操る【大地のストーン】ギフトと、イザベル選手が操る【リタイヤ知らず】ラリー・ダカールだァァァ!!』

「ウォォ、ワタシは負ケル訳ニハイカナイ! セメテ、賞金ダケデモ!!」

「負ける訳がある人なんていないわよ! ワタシだって、強くなったところを見せなきゃならないんだから!!」

 競り合う二つのストーンは、ほぼ同時ともいえるタイミングでゴール。選手二人は息をのみ、ゴール会場の巨大モニターを注視。

 しばしの間をおいて映し出された文字と映像を見て、シブシソは安堵し、イザベルは拳を握って悔しがった。


~~


 陽が落ちる寸前。二つのストーンがゴール会場に到着する。

 漢字だらけの小型ストーンに、青色と星柄のストーン。燕青とルーカスの二人だ。

『さァ、二人の選手が辿り着いたぞォ!』

「朕がルーカスに遅れを取ることなどない!」

「それはこっちのセリフだ、燕青!」

「引導を渡してやる! コレで引退するがいい!」

「てめェをぶっ飛ばす力くらいはあらァ!」

 言い争う二人に、観客の視線が集まった。

 因縁を説明する実況。

『ルーカス選手は前回大会、燕青選手に優勝を阻まれています! 再びの一騎打ち、勝負を制するのはどちらか。火花散る競り合いが繰り広げられて――』

 そこまで言って、気の抜けた調子に変わった。モニタに映し出されたのは、ドローンに照らされただただ跳ねる、二つのストーン。速度は速くない。

『――おりません。えー、両選手は現在、連続競技時間超過による強制巡航状態です。手元の時計を見ますと、あと二十秒このまま。つまり、競技状態に戻ってゴールするまでの猶予は二、三秒あるかどうかでしょう』

 説明の間に、両ストーンはゴール手前に。ほぼ横並びのようで、わずかに満漢全石が先行。

「ふっはっは、天才ルーカスもこれで終わりヨ!」

 燕青が笑う。僅かなリードで逃げきる狙い。しかし笑いながらも、瞳はゴールラインとフロンティアスピリッツとを交互に、せわしなく見ていた。

 対するルーカスは声を張り上げることはもうせず、フロンティアスピリッツを見つめ息を落ち着かせる。

「……撃てるのは一発だけだ。フロンティアスピリッツ」

「……コレが最後ヨ、満漢全石」

 秒針が進み、強制巡航解除をアラームが知らせた。瞬時に動き出す両ストーン。投影映像のゴールライン上に水柱が上がる。

 特設モニタにリプレイ映像が流れ、実況が驚きの声を上げた。

『なんと、今の一瞬で動きがあったぞォ?! 優勝経験者二名による、圧巻の攻防! まず巡航解除と同時に、フロンティアスピリッツから水弾が放たれ~~』

 水弾を跳躍して回避する満漢全石。なのにゴール後の燕青は唖然とした表情。競り合いはルーカスが制していた。


 ゴール後のルーカスと燕青に記者が集まり、インタビューを始めた。

「ルーカス選手! 最後はいったいどういう方法で、満漢全石を退けたのですか!!? 水弾は避けられていましたよね???」

 息つく間もなく記者に詰め寄られたせいか、ルーカスはやや不機嫌そうだった。

「……海面に着弾した時の水飛沫で、アイツのストーンを打ち上げた。避けられた場合のリカバリー手段だったが、上手くいったよ」

 派手なパフォーマンスはナシ。顔には疲労の色が滲む。

 記者は気遣わず食い下がった。

「侮る態度だった燕青選手の、足元を掬ったわけですね?」

「最後は侮られちゃいねェぜ」

 ルーカスはそう言い、離れた位置の燕青をチラリ。

「余裕がない顔してたろ、アイツ。精一杯やってたんだ。じゃなきゃオレ様の渾身の一撃を避けられねェよ」

 記者も視線を追う。

 燕青は記者に取り囲まれていた。

「朕は~~から~~油断~~ウッカリ~~」

 周囲のざわめきで、会話内容は聞こえない。燕青はゴールした瞬間こそ唖然としていたが、記者の前ではいつもの尊大な態度に戻っている。

「我々には、普段通りの調子に見えますが……?」

「そうかい」

 記者は見逃したが、ルーカスは見逃していない。満漢全石を片手に見せびらかす裏で、燕青が拳を握り感情を抑えていることを。

「そんなことより、次の質問を──」

「──この辺にしときな。ゴール直後の選手へのインタビューは手短にするのが、グレートジャーニーのマナーだぜ?」

 諭して言い、自国サポートチームのクルーザーハウスへと歩くルーカス。

 これ以上のインタビューは不可能だと、記者は話を締めた。

「……以上、四位入賞ルーカス選手へのインタビューでした!」


~~


 グレートジャーニーは、一位~三位が決定した日に表彰式が行われる。レッドカーペットの敷かれたゴール会場の凸型表彰台前に、世界水切り協会会長ほか、重鎮が並んだ。

 会場アナウンスが、式の開始を伝える。

『これより表彰式に移ります。栄えある一位到達者から順に、メダルと賞品を~~』

 ゴールにたどり着いた順番で、表彰台に上がる選手達。台の中央、一番高いところが優勝者の場所。二位、三位が両側で囲む。台の下の左右に四位、五位。入賞は八位までなので、六位以降がゴールしていれば同じく左右に広がる。優勝者が壇上に上がった後、後続の選手が優勝者に一声かけてから自身の位置につくのが慣例。最初にロトスが頂点に上がり、シブシソ、イザベル、ルーカス、燕青が表彰台へと進んだ。

 まずはシブシソが、壇上のロトスに言葉を贈る。

「優勝オメデトウ、ロトス選手ヨ。シカシ、ドコカ不満ソウダナ? マァ気ニスルコトハナイ。コレハコレデ、意義深イモノダ」

「貴様も、よくゴールまで辿り着いたな。だが、地域や部族のために優勝せねばならなかったのだろう。二位で足りるか?」

 返すロトスは厳めしい顔つきながら、レース時ほどの攻撃性はない。

「案ズルナ。二位デモ、ヤリヨウハアルハズ。ソレヲ考エルサ」

 シブシソは笑い、ロトスの横へ。

 次に三位のイザベルが表彰台に近づく。厳しい目つきだった。

「ラリーや皆をむやみに傷つけたアナタのこと、ワタシ正直嫌いだけど……」

「……」

「命がけでやってたんだってね。そこだけは認めてあげるわ。おめでと」

 ぷいとそっぽを向き、台に上がる。

 ロトスは間を置いて返答した。

「……あぁ。命がけだった。それだけは絶対に違わない」

 次は四位のルーカス。茶化す笑みをしていた。

「ハッ、嫌われてんなァ。オレ様もテメェのこと、好きじゃあねェけどよ」

 表彰台のそばまできて、カメラや観客に手を振ってばかりでなかなか位置につかない。

 ロトスは苛立った。

「さっさと済ませろ。俺には時間がない」

「全く。どいつもこいつも自分のことばっかだな。表彰式まで観てくれてるんだぜ?」

 急かされたルーカスは、ハットを外して観客席に軽い礼。

 小走りで寄り、真剣な顔で言う。

「ワタルとつまんねェ勝負はしてねェよな?」

 同じく真剣な顔でロトスは頷いた。

「……お互い死力を尽くした。最後の最後までな」

「ならオーケーだ! お疲れさん!!」

 答えに満足したルーカスは、労いの意味でロトスに手でポンと触れ、自分の位置へ。

 最後は五位の燕青が、じっとりした視線。

「そこは朕の席だったハズなのに……」

「結果は結果だ」

 ロトスは短い返事。

 燕青は頬を膨らませる。

「正論で即答なんてつまらんやつ。『えんたーていめんと』がわかってないネ。競技者にはそこも大切で……って、もうっ、最後まで~~」

 長話の気配を察知したスタッフが燕青を急かし、無理やり移動させた。


 皆が揃い表彰が始まる。一位のロトスから順にメダルと賞品が贈呈。賞金に加えて、優勝者に送られる特権【グローリーアイランド】の次回大会までの使用権を示す書面も手渡された。

 二位以下の選手にも、順位に応じた賞金と副賞の類が送られ、以降は大会主催の挨拶など、定番のプログラムで進行。式典は無事終了したのだった。


~~


 一番の催事は終了。だが、上位選手達はまだまだ忙しい。大会運営主催の入賞記念パーティに招待されているからだ。準備のため、各国拠点クルーザーハウスに戻る選手達。

 その時間でロトスは、係留された船の並ぶ港を、松葉杖をついて歩いた。未だゴールしていない選手が多いため、船はあっても人気(ひとけ)は少ない。

「……いたか」

 マギルダスト島で培った夜目で、係留地の先端にワタルを見つける。一人座り、海を眺めていた。目的の一つを済ませようと、ロトスはワタルに近づいた。

 杖の音が聞こえ、ワタルが振り返る。

「あ、ロトスさん。こんなところで。取材とか、こうしょーとかあるんじゃないの?」

「取材はくだらんからキャンセルした。グローリーアイランド周りの交渉は、パーティの後だ」

「せっかく優勝したんだから、受けてあげたらいいのに。あー、パーティうらやましいなー。美味しい料理、出るのかなー」

 ワタルは堤防に座り、海の上で足をパタパタ。いつもと変わらない呑気な調子。

 ロトスは横に立ったまま、複雑な表情をする。

「あんなことをしなければ、小僧も二位には……」

「気にしなくていいよ。オレも大和錦も熱くなって、勝ちにいった結果だもん。二位よりも、世界一を目指したかったんだ」

 海の彼方を見つめるワタル。その手に相棒のストーンは無い。激しいデッドヒートの末、大和錦はゴールライン手前で欠片も残さず消えてしまっていた。

「なぁ、小僧よ」

 問いかけるロトスの声は柔らかい。

「小僧は何のために、この大会に出た?」

「世界一の水切り選手になりたかったから、だけど……」

 ワタルはしばらく考えて一度頷き、にこやかに話す。

「一番大きなレースに出て、凄い人たちと勝負したかった! のかも!!」

 ロトスは穏やかな瞳で、口角を僅かに上げた。憑き物が落ちたかのようだった。

「そうか。……良い勝負は、できたか?」

「もちろん! 面白い勝負ばっかりだったよ! スタート早々に海が割られたり、割れた海底を跳ねるストーンがいたり、母ちゃんと知り合いの人がいたり、氷に、雷に~~」

 レースを思い出し、次から次へとワタルは話す。

 横でロトスは静かに聞いた。

「~~って、オレばっかり話しちゃったね。ロトスさんは大会、楽しかった?」

「俺か? 俺は……」

 不意の質問に、面食らった顔のロトス。

「……グローリーアイランドを勝ち取ること、俺達が苦しむ原因を作ったヤツらに復讐すること。これが出場した目的だ。目的を達した、という意味では良かった。……が、小僧の聞きたいのは、そうじゃないんだろう?」

 波音が聞こえる静かな時間。

 ワタルの横にロトスは座る。

「身体の痛みで、レース中はずっと苦しかった。何度も食い下がるヤツらばかりで、息をつく間もなかった。こっちは島民を苦しめる島を変え、公害病で死んだ妹に報いるため来たのに、周りは水切り遊びに興じる選手ばかり。腹が立ったよ」

 ローブの袖から小さなコールを取り出して眺める表情は、険しい。

 横顔を見ていたワタルは視線を足元の海に落とし、寂しげにする。

「妹さん……、そうだったんだ……」

「だがな、小僧」

 小さく、ロトスは笑った。

「正直に言うと、少し、楽しかった」

 手のひらのコールを、遠く広がる海へと掲げる。

「途方もなく遠いゴールを目指して進む苦しい日々。全力で放った技が凌がれたひっ迫感。相手を退けたときの高揚。どれもが俺を夢中にさせた。身体の痛みも忘れるほどに。……熱中してたんだろうよ。そうじゃなければ体はもたなかった」

 二、三度のお手玉の後、夜の海にコールが投じられる。弧を描いて海面を跳ね、ロトスの手へ。月の光で表面の箔が輝いた。

 金色に表情を明るくして、ワタルが尋ねる。

「ロトスさんは、これからどうするの?」

「決まっている。グローリーアイランドで得た財を使い、マギルダスト島に自然を取り戻す。猶予は三年しかない」

「大変そうだね。体のこともあるし、水切りはしばらくお休み?」

「わからん。この体はもう、使い物にならないかもしれないからな。だが──」

 二人の視線が重なった。

「──小僧と勝負できるなら、次の大会を目指すのもいいかもしれん」

 次回大会まで三年。故郷の立て直しや治療など、山積みの課題と向き合う過酷な期間が待っている。それでもロトスは、ワタルと勝負したい思いを口にした。

「……ごめん」

 ワタルが視線を外して俯く。

「次回大会、オレ、出ないんだ」

「……。……は? 何を言っている……?」

「そのままの意味だよ」

 立ち上がり、ワタルは背を向けた。

 ロトスは困惑しつつ問い詰める。

「この大会で満足したのか? それとも、ストーンのことが……」

「ううん、違う。次は出られないってだけだから」

「違うなら何が……。……ん? 出られない??」

「ごめんねっ。ヒアリングがあるから行かなきゃ! ロトスさんも元気で!!」

「おいっ、小僧、待て!」

 ワタルが走る。

 その背中をロトスは追いかけようとしたが、松葉杖を要する脚では難しく見失ってしまった。

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