新技の予兆
5話です!
お待たせしました。
1
今は夕時。ここは食堂である。
たくさんのエモーションの人達が賑わっていた。
俺とレビウス、そしてミラは固まって食事をとることにした。
今日は、3人とも同メニュー。トロトロに煮込んだビーフシチューだ。
「お疲れ様、レビウス。感触はどう?」
戦闘の感触を聞いているのだろう。
俺が見る限り完璧に見えたのだが、レビウスはどう答えるのか。
「もう少し調整が必要ですね。弓も刀も。特に弓は、思っていたよりもズレがあったので、時間をかけて調整したいです」
「分かったわ」
俺の目では完璧に見えたが、レビウスはそうではなかったらしい。
戦闘で負けないため、彼女は細かいところの調整を欠かさない。
とても頼もしい存在だ。
「カイトさん。もう少し練習したいので、お先に失礼します」
気付けばレビウスは食べ終わっていた。
「分かったよ。いってらっしゃい」
「ありがとうございます」
そう言ってレビウスは、特訓室へ向かった。
レビウスが去ってから、俺はミラに聞きたいことがあったので聞くことにした。
「レビウスって、感情あるんですよね?」
「その聞き方は何か含みのある聞き方ね?」
もちろん、レビウスに感情がないとは思っていない。
でも、俺は思うのだ。
「レビウスって表情変えないですよね?笑ったり、悲しそうにしたり……。感情があれば、それくらいの変化があってもおかしくないと思います」
彼女はアパシーを倒した時にも全く表情の変化が無かった。
食事中の会話の時など戦闘以外の時にも、変化はない。
「《スパンディメント》を撃った時に彼女がしたことに覚えはある?」
「《スパンディメント》を撃った時……」
「森に火をつけないようにしたわ。もし感情が無ければ、森ごと焼き払えば敵を効率よく全滅させられたと思わない?」
「……」
「彼女は森を燃やしたくないから、ギリギリまでアパシーを引き寄せた。そう考えたら間違いなく感情はあるわ」
彼女の言うことは間違っていない。
だとしたらなぜ彼女は表情を変えたり、感情の変化がないのだろうか……。
「表情を変えない他にも、俺やミラさんが質問した時以外で話さないじゃないですか」
「レビウスは、私やカイトとの間に距離を感じているのではないかしら?」
「距離……」
「単に話しずらいだけかもしれないわ」
「そうかもしれないですね……」
確かにまだ彼女と仲良くなったという感じがない。
これからもパートナーとしてやっていくには、距離をつめておくことも大事になってくるだろう。
「仲良くなれば、彼女も表情の変化とか見せてくれますかね?」
「そうかもしれないわ」
「仲良くなれるよう頑張ってみますね!」
「そう言えば私、用事を思い出したわ。先に失礼するわ」
「じゃあ、失礼します」
ミラは俺より先に食堂を出た。
俺もビーフシチューを食べ終えてから、自室へと戻った。
2
先に戻ったはいいが特にすることもない。
ただ、ぼーっとしていた。
レビウスの様子を見に行こうかな……。
そう思った俺は、ここに来てから僅か15分で再びここを出た。
特訓室に向かう途中から矢が的に当たる音が聞こえてきた。
静かな廊下には、その射抜く音が良く響いていた。
きっと彼女は熱心に練習しているのだろう。
俺は特訓室の扉を開ける。
「危ない!」
「え?」
突然、俺が来たのに驚いたからか彼女の弓は的とは別方向に飛んでしまった。
それも運悪く俺の方に……。
スピードが早く、避けるのは難しいと考えた俺は咄嗟に、魔法を唱えた。
「『デイフェーザ!』」
俺の周りに絶対防御のシールドが張られ、矢の勢いを止めた。
……、ふぅ……。
危機一髪の所で矢を回避した。
「大丈夫ですか?」
レビウスは俺を心配して近寄って来てくれた。
彼女の額からは汗が滴っていた。
それに、的を見ると小さな的を何度も射抜いた跡があった。
一生懸命に練習をした証拠だろう。
「大丈夫。ごめん、驚かせてしまって……」
「いえいえ、こちらこそすいません。集中が足りなかった私が悪いです……」
レビウスは、申し訳なさそうな表情をしていた。
俺は初めて彼女の違う顔を見た。
そして確信した。
彼女にはきちんと感情があるのだと。
「それにしても凄いよな。本当、狙ったところを外さないもんな」
「いえいえ、まだまだですよ。もっと技術を高めないと他のアンドロイドには負けてしまう。そうなってしまえば、エモーションの方たちをお救いできません」
彼女は決して今の自分を認めようとしない。
上へ、上へと彼女は常に志している。
そんな精神がきっと強さの秘訣なのだろう。
「あのさ、特訓見ててもいいか?」
「分かりました」
彼女は、的から約50メートル離れた所へと向かう。
50メートルは、だいたい訓練所の端から端までの長さだ。
彼女の後ろに立つとその凄さがよくわかる。
50メートルと言えば相当な距離だ。
それを寸分の狂いもなく完璧に射抜いているのだ。
それもとんでもなく小さな的を。
「では、行きます」
レビウスは矢を一本手に持った。
そして撃つ構えをとり、矢を引く。
しばらくの間。
そして彼女は狙いすまして矢を放つ。
彼女の矢は、放物線を描くというよりはほぼ一直線に飛んでいく。
そして見事的の中心を射抜いた。
「凄い!」
俺が思わず心の声を漏らすと、こちらを見てニコッと笑った。
その表情は、とても可愛らしかった。
「ありがとうございます」
「そんな表情、初めて見たよ」
そう俺が言うと、顔をポッと赤くした。
「……」
「もっと見せてよ」
「……。分かりました」
彼女は1度気持ちを落ち着けて、再び弓に気持ちを集中させた。
そして再び矢を放つ。
……。
放たれた弓が光を放ったように見えた……。
気のせいなのか……。
そしてこの矢も完璧に的を射抜いた。
「今のは……」
「どうした?レビウス」
「光が……」
「確かにそんな気がしたような……」
「もう1度撃ってみます」
彼女は再び、矢を引く。
そしてさっきと変わらぬ合間をとって、矢を放つ。
すると今度は、眩い光を放ちながら的へと飛んでいった。
これはいったい……。
「レビウス、今のは?」
「私にも分かりません……。何か新しい技の予兆なのかも知れません……」
「本当か?」
「まだ分かりません。ですけどその可能性がありますね。しばらく続けます」
「あぁ」
彼女は何度も何度も矢を放った。
どの矢も適切に矢を射抜く。
しかし矢を撃てば撃つほど、眩い光は更に増していった。
そして矢が的に当たった時の音は次第に大きくなっていた。
威力が上がっているということなのだろうか。
「ふぅ……」
かなりの数を撃ったからか、彼女はかなり体力を消耗していた。
今日はもう止めておいた方がいいかもしれない。
明日も訓練はあることだし……。
「今日はここで止めておこう」
「はい……。私も疲れました」
彼女はフォルムチェンジをして、訓練を終えた。
そして、自室へと彼女と一緒に戻ることにした。
「レビウス、何か掴めたか?」
「いえ……。コツはまだ掴めていません。でも間違いなくこれは新技の予兆ですね。威力もスピードも、通常より上がってました。ただ、妙なのが火ではなく光を纏っていたことです……」
「そう言えばそうだな」
彼女の属性は火。
光ではないし、属性に光はない。
「とりあえずコツを掴むまでは、練習を続けてみます。感謝しないといけないですね」
「?」
別に感謝されるような事をした覚えはないが……。
「カイトさんが来てから、新技の予兆が現れました。カイトさんのおかげで、さらに強くなれるかもしれないです。ありがとうございます」
「いやいや。礼なら、要らないよ」
「?」
「俺は、レビウスのパートナーだからな!助け合ったり伸ばしあったりするのは当然だろ?」
「そうですね」
彼女は再びニコッと笑った。
俺たちは、静かな長い廊下をゆっくりと歩いて自室へと向かったのだった。
おまたせしました!
次回に続きます!
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