私は魔王の妻になりました。中編
えー、後編のはずが書いていくうちに気がつけば長くなってたので切らせていただきました。
でも!面白くてきている、と、思うので是非楽しみながら読んでください!
では、本編へ
ユーリファが魔王を討つため城の中へ潜入してってからのこと。
魔王城<アスベエル>の門の上には四人の騎士の姿があった。
ユーリファの護衛を任せられた騎士、漆黒の鎧を装備した青年ローラン。肩当てに花畑の絵が掘られている鎧を着た少女エイル。鎧を装備していても分かる強靭な肉体を持つフィン。そして、1メートル20センチ位のバスターソードを床に刺し薄い桃色のの鎧を装備する女性アウロラ達がいた。
護衛をしたいた彼らだったが強力すぎる<七大罪将軍>全員と戦い、ユーリファ以外は動けなくなるほどの重症をおった。
彼らは早くユーリファに合流するために、ユーリファが使える最上位治癒魔法<女神の抱擁>で傷を癒していた。
「あーくそっ!情けねー、情けなさすぎる!俺達本当は<七大罪将軍>をぶっ飛ばして、ユーリファ様にあまり負担かけずに魔王のもとまで送り届けなきゃいけなかったのによ!いつっ!」
いきなり大声を出し、お腹を抑えて苦しみだすフィン。
彼がそう叫んでも仕方がないだろう、彼らはフィンが言っていた事をやってくれるとユーリファ直々に選抜されたのに、結果は自分達は倒れユーリファが一人で自分らを庇いながら<七大罪将軍>を相手にしていたのだから。
もしユーリファに何かがあったら、死んでも死にきれないだろう。
「大丈夫フィン?貴方の言っていること確かにその通りだけど、仕方ないよ<七大罪>は国を数時間で滅ぼすだけの力を持っているんだから、生かされただけまだましよ、でも・・・・私も凄く、悔し、い・・・・ひっく、せっかくユーリファ様に選ばれたのに、何も、何も、出来なかった、ひっく」
「・・・・エイルちゃん」
フィンにフォローを入れるつもりが、ついさっきまでの戦闘、いや蹂躙されるだけの自分を思い出してしまい、気がつけば自分の情けない思いと涙が溢れていた。
暗く重たくなっていく空気のなか一人の男だけは違った。
「エイル、フィン、アウロラ今は反省をしているときじゃない。まだユーリファ様や他の騎士達が傷つきながらも戦ってい戦場だ、俺も辛く情けなくは思うけど、今は傷を治しながら次何するべきかを話し合おうよ、泣くのは皆で帰って個人自分の家でしよう」
皆の沈んだ目とは違い、彼の目は強く力を感じさせた。
「泣いた次の日は皆で強くなるために一緒に頑張ろう!」
「お前の思いは凄く伝わった、伝わったけどよ今の俺達に<七大罪将軍>をどうやって抑えんだよ」
フィンはローランの言葉に一瞬笑みを浮かべるが、すぐに消え暗い表情になり今の思いを伝えた。
「そうだな、多分次に会ったら確実に殺されるだろうな・・・・でも、ユーリファ様を信じる為に俺達はあの方についてきたんじゃない!護らなくちゃ!俺達は護衛だ、止まっててじぁ護りたい人も護れないんだ、ユーリファ様が頑張っているというのに、他の騎士達が傷つきながらも戦っていのに、俺達は座って何もできない自分を責めているだけか!?・・・・俺はそっちの方が嫌だ、死んだほうがマシだ。・・・・そんな事をする暇があるなら俺は進みたい、ユーリファ様を護るために、ユーリファ様の背中に近づきたいから!だから、ぐっ!!うっ!」
ローランは自分の思いを叫んだ、傷がいたんでも。
だって、落ち込んだ皆に分かってもらいたかったし、今にでも折れそうな自分の心に力が欲しかったからだ。
最後は傷口が開き、あまりの激痛に喋れなくなった。
周りで聞いていた皆は心配で声をかけながら近づく。
そして、誰だったか最初に小さく笑った。
それにつられてか皆で笑った。
「あっははー!!そうだな俺達はユーリファ様直々に選ばれた護衛だ、あの方がまだ折れてないのに、俺達が折れててもしょうがないよな!」
「そうね、何戦場で泣いてんだろ私、恥ずかしくなってきたよ」
「あははっ」
さっきまでの暗い雰囲気が嘘だったかのように今は明るくなっている。
「よっしゃ!まぁとりあえずこの後についてでも考えようぜ!」
「そうね、やっぱり<七大罪将軍>について、よね」
「そうだな」
「あのー」と、そーっと手を上げるアウロラ。
「ん?どうしたの?」
「さっきユーリファ様からついさっき頂いたんですけど・・・・」
と、ゆっくりとひし形の色とりどりな四つの宝石がアウロラの鎧から取り出される。
オドオドしながら、アウロラの前に集まった三人に1つずつ渡していく。
「わー、きれー」
「本当だね、でも何だろう?」
「アウロラ?ユーリファ様は何て言ってたんだ?」
「えっとですね・・・・ユーリファ様が言うには、その宝石は使用者が砕いたとき強大な力を得ることができるって言ってました」
皆が「へー」と頷いた。
「最初は数も限られてるから使いたくわなかったけど、皆のためにって、<七大罪将軍>を甘く見ていた私の失態だ、ごめんねって言っていました。」
「そんな、ユーリファ様が謝られることじゃないのに」
「うん、俺達が弱すぎたせいでもあるのにね」
「えっと他には・・・・」
「あ?まだあるのか?」
「はい、えっと確かその宝石はもしかしたら<七大罪将軍>をも倒す力が宿っているって言っていました」
三人はあまりの驚愕に口と目を大きく開き、固まって動かなくなった。
三人の手から宝石が落ちそうになり、アウロラが慌てて抑える。
最初に口を開いたのは、ローランだ。
「えっと、この宝石は<七大罪将軍>を倒すって本当かい?アウロラの聞き間違いとかじぁ・・・・」
そう質問するローランだが、彼はアウロラの聞き間違えることはないと分かっていた。
なぜなら彼女、アウロラは耳が物凄くよく、そして頭までもがかなりの早さで回るので、一度に最大で10人から話しかけられても、返事を返すことが出来る。
その事から町で陰で呼ばれるの二つ名は『ドジっ娘地獄耳』である。
「失礼ですよローランさん、私はこう見えて耳には自信があるんです」
アウロラは胸を突き出し、腰にてをあて「エッヘン」と言っている。
「そ、そうだったなすまん」
わかっていて聞いてしまった自分に少し罪悪感を感じながらも、ユーリファがくれた宝石を見る。
宝石の輝きに目が眩むが、あまりの綺麗さに目がひきつけられる。
周りを見てもアウロラ以外皆同じく、宝石を凝視している。
これは流石に早く渡して欲しかったと苦笑いする三人に、アウロラユーリファから聞いたことを続ける。
「それをですね、渡せなかった理由は3つあってですね、1つ目はさっきも言ってましたけど<七大罪将軍>の力を甘く見てしまったってところです。二つ目はですね、それを作るのには多くの魔力と沢山の時間、それを封じ込めるだけの魔石を集めなくてはダメで、二年で作れた数が四つだけらしいです。」
「「「二年間で四つしか作れないのコレッ!!」」」
「ひっ!ひゃい!」
三人のきれいに揃いながらの驚愕の大声は、アウロラにとってかなりの圧力があったのか、頭を手で隠し震えながら座り込む。
「ご、ごめんねアウロラちゃん、でもこれにはユーリファ様を近くで見てきた私にとってかなりの驚きだよ!」
「エイル何お前だけが『ユーリファ様の側に居ました~』、みたいな話し方してんだよ!でもこれは本当にビックらだわな」
「うんうん」
「そりゃあ渡せんわな」と、呟くフィン。
彼らが驚愕するのは、神の子と呼ばれるユーリファの魔力は天を貫き終わりが見えないくらいだと言われている。
これが神と1つ前の神の子の場合は天を貫くだけでなく、地をも覆い尽くすほどあると言われる。
そんなユーリファが二年間をかけても六つしか作れないの、この宝石は使えばほぼ強力な力を一時的にてにはいるというメリットはあるが、素材が集まらないのと作りづらさ、数の少なさからほとんどデメリットしかない代物だ。
「えっと、皆さんなんとなく気がついていると思われますが、これは数が少ないのと、素材が集まらないのと作る際の燃費の悪いなどのデメリットから、渡すに渡せずユーリファ様はご自身の能力使用を選んでしまったと・・・・本当にごめんなさいと言ってました」
アウロラは目を閉じて、胸元に宝石を持っていきながら静かに話した。
何となくだが仕方ないと頷くが、後ろから一人アウロラに質問する人物がいた。
『その理由で2つ目ですね。ではもう一つの理由はなんででしょうか?』
「え、えっとですね、最後の理由は使用時間が短く切れてしまった際数時間は動けなくなってしまうという理由です。」
『ほう、そういった理由は確かに使用させるのを躊躇わされますね。もし<七大罪将軍>を討ちそびれでもしたら、最後は抵抗できずに無惨に殺されますからね』
「そ、そうですね・・・・ん?」
後ろにいる人物の声は三人から聞き覚えのないことから、違和感を感じ閉じていた目を開けるアウロラ。
「あれ?皆前にいる・・・・?」
おかしいと、頭を傾げながら考える。三人じゃないとしたらだれ?と。
皆の視線は自分の後ろを見ながら目を大きく開いていて、凄い汗が流れていた。
後ろに一体何がいるのかと勇気をもって振り向くアウロラ。
「!!?」
振り向いたアウロラも、驚愕で顔を歪めた。
後ろにいた者、それは────、
『どうも、先ほどぶりですね皆さん』
<七大罪将軍>の一人<強欲>ヴィントゥルだ。
四人はヴィントルと反対に戦闘体勢をとりながら─アウロラだけよろけながら─下がる。
全員の額からは汗が流れ苦悶の顔になる。それもそのはず、彼らは傷が完全には癒えておらず全身を痛みが駆け巡っているのだから。
だが、そんな体でも<七大罪将軍>の一人を前に、四人は誰一人として逃げようと考える者はいない。
逃げようにも逃げさせてはもらえないだろうし、今はユーリファから貰った<七大罪将軍>をも倒せるかもしれないアイテムを四人に一個ずつ手にしているのだから。
それにこれ以上の醜態を敵に見せたくなかったからだ。
緊張感の走るなか先に口を開いたのは、エイルだった。
「弱った私達、を、殺しに、でもきたの?<強欲>さん」
いくらユーリファからあのアイテムを貰ったからといって、今はそれを使っているわけじゃないし、もしかしたら使用する前にヴィントゥルは間合いを詰めてくるかもしれないし、さっきまでの<七大罪将軍>からの蹂躙を思い出してしまい緊張のあまり声が震えてしまった。
『ええ、まぁそんな感じですね、貴方達の弱さわさっきまでの戦闘を見ていれば分かるんで、せめて私一人なら倒せるかもという甘い考えを持たせた後ゆっくり貴方達を殺して差し上げようかと思いまして、おっとつい私の遊び──ではなく作戦を言っちゃいました、あっはっはっはっ!』
「くっ!」
ヴィントゥルの挑発に誰もが腹立たしさに歯をくいしばる。
「どうするよローラン、<強欲>とはまだ手合わせしたことないんだが・・・・あれ使うか?」
「分かっていて聞かないでくれフィン、今使うべきなのはお前も分かるだろ」
「あぁ、そうだな」
男二人はヴィントゥルに警戒しながらも、微笑む。
「まったく男達ときたら、ふふっ」
男達の話を聞きながら敵を前に微笑んでいることに呆れながらもエイルもつられ、気がつけばアウロラも微笑んでいた。
でも微笑むのも僅か、すぐに彼らの目に鋭さが戻る。
さっきまでの和んでいた雰囲気が嘘みたいに。
『どうしました?お話は終わりました?』
四人がアイテムを手に戦闘体勢をとるなか、ヴィントゥルは全く緊張感を感じさせない、誰が見ても惚れそうなくらい綺麗な姿勢で立っている。
ローラン達は不思議でしかない、ヴィントゥルの佇まいに、余裕そうな魔人の態度に。
さっきヴィントゥルも聞いたはずだ、今自分達が持っているアイテムの能力を、力を。
なのに、なぜ?
「いや、こんなこと考えていても仕方がない、か・・・・」
言いながら頭を横にふる。
考えていても仕方がない、考えたところでヴィントゥルとは戦わなければいけないのだから、マイナスにもっていくのはやめようと。
そして、
「いいか皆!油断さ禁物だ、ユーリファ様が俺達にくれる期待を無駄にするな!」
「ああ!」 「はい!」 「うん!」
「皆!ユーリファ様からのアイテムを使え!」
その言葉と同時に皆が宝石を砕く。
石の中から色とりどりに輝く光が、四人を包む。
『おお!これはこれは、流石と、言うべきですかね・・・・ふふっ』
四人を包んでいた光が徐々に止み、姿が見えてくる。
ローラン達に見ているだけでは変化は見られないが、魔力の量や力などがさっきまでとは段違いである。
「うわっ!スゲー」
「おお」
「ユーリファ様ありがとうございます」
ヴィントゥルを前にしているのにフィン達はユーリファがくれたアイテムの効果につい驚愕と、興奮が抑えられないようだ。
『そろそろいいですか?こちらも暇ではないのでね』
力が向上したローラン達を前にしても何処までも冷静なヴィントゥル。
彼の言葉に少しムカつくところはあるが、早く終わらせたいのはローラン達も同じで、すぐに臨戦態勢に入る。
「あんた余裕そうですね」
『ええ、でも安心してください余裕ですけども、力は半分くらいは出してあげますから』
「本当にムカつきます」
『その様に話しておりますから』
話しかけなければよかったと思うローラン。
ローランは深く呼吸をして、周りの仲間達の顔を見て意を決める。
そして────、
「いくぞっ!!」
「「「おおっ!」」」
戦闘が始まる。
『ふふっ私は強いですよ、では小手調べに高位魔法
<煉獄の炎:level3>』
*
*
*
あれから一時間が過ぎて、
魔王城『アスベエル』玉座の間にて────。
「くっ!げほっごほっ!!」
今ユーリファは、勢いよく壁に激突し咳き込んでいた。
何故彼女がそんな事になっているのかと言えば、魔王との戦闘で吹き飛ばされたからだ。
『ふむ、少し力を入れすぎたかな?』
そう言いながら玉座に足を組ながら深く座るのは、『魔界』の王にして神の子ユーリファ壁へと飛ばした張本人、魔王である。
燕尾服を着て黒のネクタイ、左胸元汚れ一つない清潔な純白のハンカチが少し顔を出している。手は黒の革手袋、靴は磨きに磨かれたダークブラウンの革靴。
顔は気味の悪い捻れ方をした角が生えて、人の頭位の山羊の頭蓋骨をかぶっている。左半分は布で隠していて、そこからは角が生えてはいない。
身長は座っていて何となくだが、190以上だろう。
ちなみにユーリファの身長は150以上で平均台だ。
今ユーリファから目を反らし、天井を見上げ息を深く吐く。
『もしこれが本気ならばヴィントゥルと互角だろうな』
そして軽く『ははっ』と笑う。
それから少し遅れて魔王の前方から巨大な玉座の間いっぱいに魔力が現れる。それはもちろんユーリファのである。
「なめるなーっ!!」
彼女は額からは血を流れるせいで、左目は半目状態である。
そして玉座にいっぱいに現れる魔力はユーリファの右手に持つ剣<神剣:ソード・トゥ・リード《導く剣》>に吸い込まれていき、剣は光る。
「神剣能力解放!<輝く力>!!」
剣の能力を発動したユーリファは魔王へと一直線に突っ込む。
『またか、回避魔法<流し>』
呆れたように首を横にふり人差し指だけを出して、そこへ魔法をかける。
そしてユーリファが魔王めがけて剣を振るが、魔王の人差し指に剣の軌道は流されかすめることなく地につこうとしたとき、
「<下段斬り上げ>!」
下に流れた剣より早くユーリファの足は地につき、<下段斬り上げ>の効果で降りた剣は能力を継続したまま勢いよく魔王めがけて振り上げられる。
『ほお』
魔王もそれには反応できなかったと、背もたれをついていた体を前へと出し、魔法を付与せず右手を犠牲に剣を止める。
これが<七大罪将軍>クラスの者であればユーリファの剣の能力と効果により、手は切り裂かれて凄い量の出血をしたであろうが、相手は『魔界』の王である魔王だ。
少しの間まるで金属がぶつかり合ったかのような甲高い音が玉座の間で響く。
流石に無傷ではないが少し手袋は裂け、小さな傷口から血が垂れている。
止められたことによりユーリファは後ろへと下がり、「少しだけと手ごたえはあったかな」と呟く。
魔王は右手を顔を寄せて見ている、つけた傷口を見てやろうと目を細めるユーリファだがすぐに目が大きく開かれ、一筋の汗が額からは頬へと流れ落ちる。
そこにあったのは驚愕と恐怖だ。
さっきつけた傷口は勝手に塞がったいる。ここまでは分かる、流石にあんな小さな傷では下位の魔人だって再生し塞がる。
だが、傷口だけではなく魔王の再生されていっているのは、黒の革手袋である。
糸が生きているかのように一本一本が小さく結ばれ自然とくっつき一本の糸となる。その上から革がくっついていっている。
ユーリファは思う私は魔王に傷をつけるどころか、魔王の着る物にさえ傷つけられないのではと。
「こんな化け物どうすればいいの?」
苦情に顔を小さく歪める。
多分──絶対殺される、だけど死ぬわけにはいかないユーリファ、もし彼女が死んでしまえば『魔界』は自分達が住む世界へと手を伸ばし『天界』の者以外は沢山殺されることになるだろう。
そんなことはさせてはいけない、でも攻撃の通らない相手にどうしろというのだろうか。
自分の力の無さに戦闘中というのに目に涙を溜める。
悔しい。悔しいよ。
ユーリファの心の叫びである。
でもどうにかしてでも生きて帰らねば、もし私が生きていればもしかしたら魔王を討つだけの力が手にはいるかもしれない。
それが出来るのはきっと自分だけであろう。
そんな考えが頭に浮かぶが頭を横に振る。
「そんなことはできないよ、皆は私を信じてついてきてくれたんだから、皆の思いに私は勝たなくちゃダメだよね」
皆の、私を信じてくれる皆の顔を思い浮かべると少しだがユーリファは力がわいてきた。
勝たなくてはと、一歩一歩踏みしめる。
『まだやるのか?』
魔王の声無視しながらまた一歩進んでいく。
「私には、私が使える一番の超強力魔法があるの」
そう言いながら刀身を横に持ち顔のそばまで持っていき、腰を落とし構える。
『それは楽しみだな!さぁこい!』
椅子から立ち上がり、右手を前に持ち上げる。
ユーリファは静かに深く息を吐く、それと同時に刀身に蒼い雷が小さく走る。
目は鋭く魔王を睨み付ける。
「超高位魔法」
一言を静か言い──。
「<裁きの雷>!」
勝利と、皆の思いを乗せて魔法詠唱と叫ぶ。
刀身で走っていた蒼い雷は魔王めがけて一直線に伸びていく。
『おお!!この力溢れる魔法、おもしろいならば<フルパワー・シールド《全力な盾》>』
前へつきだした手を上へと上げることで下から現れる透明な壁。
<フルパワー・シールド>それは、使用者が使用した魔力に応じて防御力を上げることでことのできる魔法である。
それは力の差があればあるほどどんな攻撃をも無効にすることができる。
さっきまでの攻防を見ていれば、誰もがユーリファの超高位魔法<裁きの雷>を止めると思うが、どんなときにも『あり得ない』という事は起こりうる。
何故こんなことを言ったのかといえば、それが今ユーリファに起こったからである。
『な!私はこの壁を作るのにそれなりの魔力を使ったのだぞ!どういうことだ!』
今ユーリファの放った超高位魔法<裁きの雷>は魔王の<フルパワー・シールド>を勢い衰えずに破ろうと、少しずつだがヒビを入れていく。
『おおっ!それならば<障壁>』
効果魔法<障壁>を今にも割れそうな<フルパワー・シールド>にかける。
効果魔法<障壁>はほとんど<フルパワー・シールド>みたいな物だが、違う点がひとつあり使用してからも魔力を送り強固にしていくことが出来るというはっきり言って<フルパワー・シールド>より使い勝手はよい。
<裁きの雷>はどれだけの威力なのか<障壁>からビリビリと魔王に伝わってくるため何となくでわかるこれを受ければ自分は瀕死なのはまぬがれないだろうと、こんな隠し手を残していたユーリファに今魔王の心の中では拍手喝采が起こっている。
ユーリファは威力を上げるため剣に全力の魔力を送る。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!」
『ぐっ!!はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!』
これはこれは殆ど魔力勝負である。
最初に魔力がつきればそこで勝敗は決まる。
そして玉座の間に蒼白い光が爆発した。
光が止み、さっきまでの魔法ぶつかり合う音が消えている。
どうやら勝負は終わったらしい。
ユーリファはロングソードを杖にし片膝をついてしゃがみ、目を大きく開いて前を見ている。
対する魔王は両腕をダラッとおろし、胸の辺りで白い煙を上げて、動くことなくたたずんでいる。
そして、胸の白い煙から凄い量の赤い血が吹き出し、体はヨタヨタと後ろへ下がり椅子へドカッと腰をおろし、それ以上の反応はなかった。
「か・・・・勝った・・・・」
彼女、ユーリファは勝ったのだ。
彼女はその事を確認した後糸が切れたかのように仰向けに倒れこむ。
「勝った!勝ったんだ!ぃやったー!」
大声を出すだけの声がでずほとんどかすれてはいるが、ユーリファの喜びがすごく伝わってくる。
喜びのあまり涙まで流している。
「ローラン、フィン、エイル、アウロラそれに私についてきてくれた英雄の皆勝ったよ、私勝てたよ」
拭っても拭っても溢れてくる涙、まだ戦争は終わってないのだからと止めるために目を強くつむる。
涙が止まったのを確認した後剣を使って立ち上がる。
少しずつ少しずつ歩みを進める、回復させるためにおいてきた仲間のところへ。
「早くもどら────」
『フッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』
一つの笑い声が玉座の間でこだまする。
その声聞いたことがある、忘れるはずがない。
だってさっきまで聞いたのだから、ついさっきユーリファが殺したのだから。
あまりの信じられさにユーリファは痛む体を無視して驚愕に顔を歪め振りかえる。
信じられない、いや信じたくないのだ。
さっきあたえたはずの胸元の大きな風穴は塞がれそれどころか、服が再生していっているのだ。
「うそ、何で?魔王は今」
『死んだはずだって?確かに死にはしてないがあのままだったら死んでいただろうな』
「・・・・じゃあどうやって?」
『なぁ~に簡単な話さ』
魔王は懐をあさり何かを取り出した。
魔王が手に持っていたのは、徐々に輝きを無くしていく丸い宝石だった物。
『制限無しの回復アイテムだよ』
手に持っていた宝石だった物は粉々に砕けちり床に落ちていく。
「制限無、しの回復・・・・アイテム?」
わけが分からない、制限無しの回復アイテムなんて『天界』でもせいぜいが回復アイテムまでで、自分も回復アイテムを作ったことはあるが一番いいので大位級回復アイテムまでだった。
回復アイテムはアウロラ達に渡したアイテムとは違い、作成の場合は一度の使用した魔力量によってレベルが変わってくる。
魔法職の人が作れるのは下位級から中位級、天使やドラゴンが作れるのは下位級から特大級、過去に初代神の子が遊びで作くった一番いいので極大級である。
と、言うことは相手の力量を知りたかったら回復アイテムを作らせればいいと言うことなのだが、もしそれを作ったというのならば、それは────、
いやそんなはずがないと、あってはいけないと・・・・
ユーリファは分かっているが、分かっていのだがそれを信じてしまったら彼女の中に残るのは、絶望である。
「そんなの無いわよ!存在しないし、作れない!」
『誰が決めた、誰が作れるはずがないと決めつけた?』
「だって、だってそれじゃあ・・・・」
『お前の考えている通り、これは私の自作だ・・・・そういえばエ、神の子とやら貴様はどこまで作れる?さっきまでの会話を聞いていれば制限無しは無いとして、せめて超までは作れるのだろう?』
制限無しを作った魔王は『白銀の神騎士』と呼ばれた初代神の子をも越える力を持つ相手にどう立ち向かえというのか。
『いや~貴様の反応を見る限りわざと<裁きの雷>をくらって、これを出すのは不味かったか、だが私にこれを使わせるとはなかなかやるではないか、』
恐怖と、絶望感のせいで全く魔王の言葉が耳に入らない。
こんなに神様に願ったことはないだろうくらいに『助けて』と頭の中では何度も何度も何度も再生される。
「た、たす、けて」
もう自分が無意識にそうこぼすくらい何も考えられない。
『助けて、か』
魔王がそう言い初めてユーリファは意識を取り戻す。
そして、自分が無意識でも魔王相手にそんなことを口にしたのかと知り、悔しさに情けなさに目からポロポロと涙が溢れる。
「くっ」
そして、魔王を睨み付け心の中で、
(私は!立ち向かうどんなに相手が強者でも食らい付いて1%でも勝ち目が出てくるかもしれない!だから、だから魔王を倒す!!)
そう強く決心する。
まるでユーリファを眼中に無いかのように骨の顎に手を当てて何かを考えている魔王に近づくために剣を握りしめ腰を落とす。
(やってやる!そのために私は頑張ってきたのだから!)
そして、突っ込む前に魔王の一言────。
『なら、神の子やめて私と結婚しないか?』
「は?」
あまりの場違いの言葉にユーリファは目を丸くして、情けない声が漏れるのだった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
えー、はいまさしくRPG最終回風ですが、皆さん思い出してくださいこれは『女勇者は魔王の妻』です。
まだまだ終わりません。これからです。