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カースト・ゲーム  作者: 櫻木健
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反抗と開票

長峰彩は、優雅に本を読んでいた。1年生の夏頃に転校してきた彩は、普通の女子って感じだ。


「何?恭介くん。」


彩の方から、声を掛けてきた。余裕ぶった態度だ。


「いや、何でそんなに余裕があるのかな、と思って。」


緊張して、声が強張る。


「・・・始めて、人が死ぬのを見たから。」


彩はうつむいた。


「何で、こんなゲーム始まったんだろうって。もう、分かんないよ。私たち、なんか悪いことしたのかな。カーストに従って生きる事って、悪い事なのかな・・・」


そうかもしれない。でも、それは仕方が無い。彩のすすり泣く声が聞こえる。票を集めるためのものとは思えなかった。


「なんか、ごめん。」


「いや、私も・・・」


恭介は、そこを去るムードを瞬時に読み取り、逃げるように自分の定位置である、廊下際の後ろのドアの端に戻った。


どうすれば。一体どうすれば。自分がこのクラスにとって必要で、このゲームのために必要な人間だと証明できるのか。こんなことはいくら勉強しても分かる気がしない。学力も足りない、運動も苦手だ。そんな奴が、クラスで生き残って行くには、どうしたらいいんだ?


恭介は目を閉じた。夢ではないと分かっていた。


「おい、辻元。」


遠くから声が聞こえる。目を開けて、顔のすぐ前にいた女王に驚く。


「私に票、入れたよね?」


逆らえなかった。首を縦に振りそうになる。


「どうしたの?具合でも悪いか。まぁ、辻元みたいなもやしっ子には、しょうがないよね。あんた思いっきり目瞑ってたじゃん。一瞬、泣いてんのかと思ったよ。」


「じゃあ、もう一回。私に票、入れたよね?」


これが上手くいくか分からない。だけど、こうするしか無い。


「・・・入れたよ。島井友に。」


愛未は、意味のわからないような顔をした。


「お前にはどんなことがあっても票を入れない。」


「は?どうしたの?そんな事言ってて良いんだ。」


「どうせ、人から票を集められないと、自分は嫌われてるんじゃないかって不安でたまんなくなるんだろ。人は強い言葉によくなびくんだよ。可愛い子ぶった声より、誰かを責める怒号の方が人はついてきやすい。そうやって人を束ねた張本人が、案外弱くて助けを求めてたりする。お前はそこから逃れられない。知らないかもしれないけど、王様、いや女王は奴隷に負けるんだよ。」


慌ただしい言い方をした。あえて強めに。自分でも何を言っているか分からない。慌てて、愛未派閥が寄ってきた。


「何言っているのどう考えてみたってあなたみたいな2軍3軍風情が愛未様に勝てるわけ無いでしょほんと頭可笑しいんじゃないの。」


大声でまくし立てられると、途端に死にたくなってくる。改めて自分がクラスから嫌われているんだと再認識してしまった。


「次の投票で、死ねば良いのに。」


愛未は、終始無言だ。


「誰もこんな奴に投票しないだろ。」


男で唯一の愛未派閥、飯田康弘があきれた顔をした。それもそうだね、という声が上がる。こいつは多分、愛未以外の女子狙いだ。


「忙しい所申し訳ないが、そろそろ投票を始めたいな。」


スピーカーから声が上がり、女子が明らかな舌打ちをした。愛未を囲んでいた輪が崩れ、定位置に戻っていく。


「死んだ人も多いから、その人は飛ばして投票を行ってくれ。」


出席番号順で、進んでいく。投票用紙を取りに行く愛未派閥の人間は、必ず恭介を一瞥した。


愛未にケンカを売った理由は、単に腹が立ったからだけではない。頂点にいる人間は、何かしら下に不満を持たれているものだ。愛未にケンカを売る。そのことによって、愛未に不満を持つ派閥の人が、自分に票を入れてくれる可能性があるのではないか。そう思ったのだ。誰にも投票が出来ない恭介は、それを祈るしかなかった。


「投票が終わったようだから、開票をしようか。じゃあ次は、そうそう、辻元恭介君。君に開票して貰おうかな。」


一斉に、目が向けられた。自分が開票するとは思わなかった。やはり犯人は、この教室を監視している。


恭介は開票を始めた。名前、そして投票先が書いてある紙を、一枚ずつ確認していく。クラスの視線が自分に集まっているのを感じた。後ろの方から、熱狂的な愛未信者のひそひそ声が聞こえる。今、クラスで一番注目されているのは、自分だ。


「・・終わりました。」


「ご苦労さま。投票権の無い君は、開票させるのにぴったりだよ。馬鹿とカースト下位は、使いようによって、奴隷にでも地雷にでもなれるからね。」


果てしなく馬鹿にされて、恭介は腹が立った。しかし言い返すことは、怖くてできなかった。


「・・・・投票結果を、発表します。」


恭介は、順位を読み上げる。


1位 小泉愛未 四票

2位 長崎健  三票

3位 戸塚浩一 二票


4位 長谷正也 一票

4位 長峰彩  一票

4位 辻元恭介 一票

4位 島井友  一票

4位 飯田康弘 一票


それ以外    零票


「・・以上です。」


数秒が経ち、何人かの首が回って、飛んだ。背後で泣き叫ぶ声が聞こえる。


この光景は、さっきも見たような気がする。皆が一様に騒ぎ出し、悲鳴と潜め声が聞こえる。さっきよりも、票が少なかった愛未の笑い声は聞こえなかった。多分、こんな感じで、ずっとこのゲームは進んでいくのだろう。いつ、このゲームはおわるのか。


「残りは八人だね。さぁ、一桁になったから、ここからは一人ずつ殺していこう。カーストの頂点は誰なのかな。では、引き続き頑張って。」


放送が、プツッと切れた。教室の床は、全て鮮血に覆われ始めている。首もあちこちに転がっていた。


「・・・気を取り直して、もう一回誰に投票したかを話そう。」


健の明るい声で、皆も動き出した。彼は次の投票で、二票が与えられる。


「・・・そういえばさ。」


「ん?どしたん。」


「下から三人は票を与えられないんだよね。この場合はどうなるんだろう?」


彩はそう口にした。慌てたように放送がスピーカーから流れ始める。


「こういう場合は、出席番号順だな。」


「・・は?」


愛未がドスの効いた声を出した。


「ふざけんなよ!番号順で生きるか死ぬか決められてたまるか!」


飯田康弘はおでこにシワを寄せて、スピーカーに向けて怒っている。彼は気性は荒いが、野球部のエース候補だ。


「おいおい、そんなに怒るなって。君達の命がどうなるかは、こっちにかかってるんだから。」


そう言われて、康弘は少し大人しくなった。


「うん、たしかにそうだな。少し理不尽かもしれない。じゃあこうしよう。『じゃんけん』だ。」


拍子抜けした。浩一はポカーンとしている。


「知らない人はいないだろう?3つのグループに分けて、それぞれ負けた人は投票できない。」


『じゃんけん』の結果により、正也、友、康弘が投票できない事となった。


「改めて、話し合いの時間を取ろう。もう少し過激なことでもいいんだ。大声が上がるような楽しい話し合いの時間を期待してるよ。」


二回目の話し合いの時間。始めに話し出したのは、長崎健だった。


「さっきも言ったけど、投票した人を話そう。」


健の言葉で、また動き出した。


今回の開票は、恭介にとってメリットしか無かった。なぜなら、投票用紙には、自分の氏名と投票先を書かなければならなかったからだ。これによって、誰が誰に投票したのかを、はっきりと知ることが出来た。次は自分にも投票権がある。あとは、自分に投票をした人に、投票し返すだけだ。


恭介に投票をしていたのは、愛未派閥の一人、長峰彩だった。





































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