shot 004
「そんなことより、アキ。お宝は無事手に入れたんだろうな」
スピードが落ち着いた車内で、BGMに中島みゆきをリクエストしたあとで、座席にふんぞり返り、アフロ男は問いかけた。
「当たり前だ。だから追われた」
アキがコートの裾をひるがえす。
腰に巻かれたベルトのようなものにくくりつけられていた物体は、わたしみたいな世間知らずの小娘でもわかる。弾倉だ。
その不格好な四角形の影から、アキはUSBメモリーをひとつ、つまんで出してみせた。
満足げにうなずき受け取ろうと身を乗り出したアフロ男だったが、それをすんでのところでかわされたため、もう少しで足元に倒れ込みそうになる。
スピーカーから、中島みゆきが『ファイト!』と言った。
「その辺で寝くさって、依頼品を失くされても困るからな。オレが預かる」
背は小さいのに、まるで檀上から見下ろすみたいな目でアキは言って、再びメモリーを弾倉の裏に隠した。
歯を食いしばるアフロ男は、体勢を立て直し、運転席に向かって声を上げた。
「おい、どこか適当なバス停の前で停まれ。お嬢ちゃんを降ろしてやろう」
急な指名を受けて、わたしはハッと背筋を伸ばす。
夢の中の彼を追いかけた当初の目的を今さら思い出し、まだ降りるわけにはいかないと慌てた。
「さて、もうじゅうぶんわかったとは思うが、オレたちは一般社会に生きる人間とはちょっと違う。これ以上は関わらないほうがベストだ。成り行きとはいえ、ここまで無理やり付き合わせて悪かったね」
そう微笑むアフロ男は、とても道をそれた悪人には見えない。
「ちょ、ちょっと待ってください。わたしの話を」
「平気なんかぁ?その子、オレたちの顔も名前もバレとるやんか」
「そのくらいでは別にどうこうできないだろう」
トランシーバー男の杞憂を、アフロ男はスッパリと断ち切る。
「オレたちのことは忘れたほうがいい。アキのこともだ。おそらく以前にその辺の通りですれ違っただけのことなんだろう?人目を惹く容姿をしているからな」
わたしは隣の彼を見た。
肌は白く透き通るようで、目は大きく二重がクッキリとしている。
眉は細く濃く鋭敏な印象で、その眉間から伸びた鼻筋はピンと高かった。
改めてじっくりと見なくても、まさしく彼はハンサムの代表みたいな顔つきで、それは認めざるを得なかったけれど、わたしが彼とはじめて会ったのは街中なんかではないので、そこはハッキリとさせておきたいと思った。
一か八かゴクリと唾を飲み込み、おのれを信じよ!と念じ、わたしは言った。
「……『何でも欲しいものをさずけよう。我々の名はタバサ』」
それを聞いた3人の表情が、明らかに変わった。
アフロの大男は目を大きく見ひらき、クールなアキもじっとわたしの横顔を見つめ、トランシーバー男に至っては、動揺の表れか雨も降っていないのにワイパーを動かした。
「……ちょっと待て。本当に『客』なのか?こんなお子さまが?」
最初にそう口をひらいたのは、アフロ男だった。
「そんなわけないな」
はじめに勘違いしたのは自分のくせに、アキはその可能性を簡単に却下した。
「オレは子供をそそのかすようなことはしない」
「じゃあ、なぜオレたちのことを知っている」
「きっと親のパソコンでも盗み見したんだろ。しつけがなってないな」
見るからにアウトローな彼らにけなされたことに若干腹が立ち、わたしは唇をとがらせる。
「残念ですけど、ハズレです」
こうなったら、包み隠さずすべてを話して聞かせようと決めた。
というか、もとからそのつもりだった。
「わたしに両親はいません。死んだらしいです」
「らしい?」
「わたし、絶賛記憶喪失中なんです」