shot 003
隣に座る黒ずくめの彼が手に持つ細長い武器だとか、それとよく似た車の後部に配備された物騒な品々だとか、前を向いたら向いたで、昔アニメで見た戦隊ロボットのコックピットのようなコントロールパネルだとか、運転する男が付けているゴツいトランシーバーだとか、先程のバイクの無法者だとか。
ツッコミたいことは山ほどあるのだけれど、どうやらその思いは同乗する御一行のほうも一緒なようで。
彼らの視線はわたしに向かって一点にそそがれ、車内は言いようのない緊迫感に包まれていた。
「アキ、これは誰だ?」
真正面で腕を組む、アフロ頭の大男が訊いた。
座高が高くて、ワサワサと揺れる髪の上部が天井に触れている。
「『客』かと思ったから、とっさに連れてきたんだけど」
アキと呼ばれた彼は、黒い革製のグローブをはずしながら、いぶかしげにこちらをのぞき込む。
「『客』?こんな子供がか?そんなわけないだろう、ちゃんと確かめたのか?ファミレスのアルバイト生だって、『ご注文を繰り返します。ご確認ください』って言うぞ。何でも確認は必要だ」
「でも、オレに会ったことがあるって言うんだ」
「アキに?ナンパの一種じゃないのか」
二人して顔を寄せてきたので、わたしはブルブルと首を振る。
唐突に爆発音がして、景色がブレたと思ったら、体が斜めに揺られた。
車の後方で銃やら斧やらがガチャガチャと音を鳴らし、ようやく後ろから追突されたのだと気がついた。
「お~っと、敵さんのご登場やぁ。皆さん、つかまりや~」
運転席のトランシーバー男がなぜか楽しげに言って、ワゴンが急加速し、今度は上体がのけぞる。
「なんだ、ひとりじゃなかったか。まぁ、どんな場面においても、まさか過ぎる出来事はふいにやって来る。それは、人生のスパイスだ。そのくらいじゃなきゃ、長い人生、おもしろくも何ともないってものだ」
背もたれにすがりつきつつアフロ男が運転席に向かってとうとうと語るのを聞きながら、わたしはシートベルトってどこにあるんだと探す。
でも、見つからない。
安全じゃない物を積んだ車こそ装備は安全にしてくれ、と泣きたい気持ちになった。
トランシーバー男はサイドミラーをチラチラうかがいながら、
「安心しぃや。やっこさん、1台や。せやけど、しつこそうやなぁ」
「こう人が多いんじゃ、アレをぶっぱなすわけにもいかないからな」
「せやったら、シィラに頑張ってもらいまひょ。もしもし、シィラちゃ~ん?」
突如響き出したけたたましい轟音に何事かと窓の外をうかがうと、大型の二輪車がビルの合間からちょうど出てきたのが、スモーク越しに見えた。
前面にデカいゴーグルを付けたヘルメットからはみ出したブロンドが、腰に届きそうな位置でなびいている。
黒いスカジャンは男っぽかったけれど、同じく黒いレザーのパンツからうかがえる脚線は細くなまめかしく、だから女性だってすぐにわかった。
彼女は、わたしたちの乗っているワゴンを追尾する、黒塗りのベンツのバックを取ると、走りながらおもむろに拳銃をかまえた。
そして、発砲する。
後輪を撃ち抜かれたベンツは派手な音を立てて半回転し、道路の片側車線をふさぐ形で停車した。
あっけなかった。
スカジャンの女性はこちらに軽く手を振ると、またビルとビルの隙間へと消えた。
わたしたちは、その一部始終を車内のモニターで観察し、歓声を上げた。
「さすがシィラ。抜群の安定感だな。オレが信頼して心を預けてもいいと思える女性は、幼等学校の恩師・ミユキ先生とシィラだけだ」
アフロ男が顎を撫でながら感嘆のため息をつくと、
「ミユキ先生はたぶん、FN5.7なんてぶちかませないよ」
アキ青年が無表情ですかさず横やりを入れた。
明らかに堅気の人間の雰囲気じゃないし、発言も行動も普通とはかけ離れた彼らなのに、一緒に勝利の感激を分かち合ってしまうほど親近感を覚えるのは、いったいなぜなんだろう、とわたしは首をひねる。