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目が開いた状態で夢を見る人間は、おそらくいない。
将来や未来の目標や展望のことじゃない、意識を失っている間に脳内で繰り広げられる幻覚や心象のことだ。
ということは、今わたしが目にしている情景は夢ではないのだ。
現実なのだ。
「どうしたの、アン。ロッキーロードが垂れてるよ」
まるでそっちのほうが夢の中みたいな友達の声を無視して、わたしは彼の背中を目で追った。
黒いロングコートを羽織り、ツバの大きな黒いハットをかぶって、肩には黒いギターケースを背負っている。
厚めのソールのブーツを履いているのは、背が低いことへのコンプレックスなのだろうか。
けれど、そんな粗などたちまちかすんでしまうくらい、その少年は超絶に美しい横顔をしていた。
間違いなく、彼は数日前、夢の中で見た少年だ。
彼を建物の影に見失ってしまいそうになるところで、わたしはハッと肩をはずませ、「これあげる」と友達にワッフルコーンごとアイスクリームを押しつけ、駆け出した。
「ちょっとアン!」
彼女の当惑した声を後頭部で聞きながら、チョコレート味の指を舐める。