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VR×JC  作者: 竜飛岬
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友好度98引いたから仕方ないね(目逸らし

 ≪県立美郷第一中学校≫は美郷町唯一の中学校である。

 総人口一万人弱の美郷町は当然ながら子供の数もそう多くない。

 また小学校も町内に一校だけであり、高校に至っては町内に存在していない。

 だが逆に言えば小中一貫しているせいか、同学年のほとんどが顔見知りであり、横の繋がりは非常に強いとも呼べるだろう。


「おはよう蜜樹ちゃん」

「桃さんもおはよう」


 春原・桃香はそんな知己の一人だ。

 同じ制服のはずなのに、蜜樹より少し大人びた容姿の彼女はそれだけで年上に感じられる。蜜樹の外見が子供っぽいというだけかもしれないが。

 ちらりと時計を確認すると、まだ七時を僅かに過ぎたばかりだ。

 この時間の登校ですら蜜樹からすると大分早くないかと思うのだが、桃香はそれより更に早い。そんな彼女が手に持つのは乾拭き用の雑巾とはたきだ。


「別にクラス委員長だからって、毎朝教室を掃除する必要なんてないんじゃないですかあ?」

「委員長だから掃除してるんじゃないよ? これは私の趣味と言うか、日課みたいなものだから」


 桃香は照れた様子もなくごく自然にそう返した。謙遜ではないだろう。

 蜜樹にとって気心の知れた、それこそ親友だとはっきり言える彼女は小学校の時からクラスの代表となっている事が多かった。

 真面目な性格なのだろう。誰かに頼まれたわけでも、ちゃんとした義務ですらないのに毎日毎朝、誰よりも早く教室に来てはこうして掃除をしている。

 それも蜜樹の知る限りでは小学校の時から。

 なんとも難儀な日課である。


「日の出前から起き出して早朝ランニングするのが日課の蜜樹ちゃんよりは大分楽だと思うけど」

「そう?」


 まあ確かに他人から見たら同じ穴の狢と言えるのかもしれない。

 とは言え蜜樹からするとそれは自分の為にしているのであり、他人の為にしている桃香とは大分違うと思うのだが。


「や、まあ難儀という点では同じですかあ?」

「そうそう。同じ変な趣味を持つ者同士だよ」


 妙に楽しそうだが、そうすっぱりと変な趣味だと言われると若干虚しい気持ちになる。

 まあそれはいい。

 鞄を置いて、後はHRまでまったりとして過ごそう。そう思っていると、


「ねえ蜜樹ちゃん、手を出して」

「はい?」


 言われるがまま手を出すと、桃香は蜜樹の手の平に何かを塗りつける。

 それは乳白色のねっとりした何か。


「な、なんですこれ?」

「軟膏だよ」

「軟膏」


 桃香の指先が蜜樹の手の平を優しく刺激する。

 軟膏独特のひんやりとした冷たさが、桃香の体温と入り混じってくすぐったい。


「蜜樹ちゃんに限って怪我はしてないだろうけど、擦り傷だって放置してたら大事になるからね。だから、早いうちに直さないと」

「……なんで知ってんです?」


 桃香が軟膏を塗りつけているのは、つい先程ボールを鷲掴みにした右手だ。

 確かにひりひりと痛んでいたのは事実だが、目に見えるような怪我はないし、殊更に痛む仕草を表に出していたつもりはない。


「蜜樹ちゃんの事は何でも知ってるよ?」

「お、おう」

「えへへ」

「…………」


 桃香は、友達なんだから当然だよねと、にこにこと笑顔を浮かべている。

 この件については、あまり深く考えないようにしよう。

 そう蜜樹は泥沼に嵌る前に思考を放棄した。




「天野・蜜樹さんはいるかしら?」


 昼休み。そうそうに昼食を終えまったりした雰囲気の教室に彼女は現れた。

 それは蜜樹たちと同じ指定の制服を着た、長身の少女だった。

 スラリとした体型の、しかし女性らしい丸みを帯びたラインにクラスの男子が若干ざわめく。

 自重を知らない男子たちが我先にと案内を申し出ようとするが、それを差し置いて桃香が蜜樹の元へ彼女を連れてくる。


「蜜樹ちゃんお客さん、先輩だよ」

「初めまして……でいいかしらね。三年の久遠・茉美よ」

「ど、どうも。天野・蜜樹です」

「ええ」


 近くで見ると、久遠・茉美と名乗った彼女の顔立ちが更によく分かる。

 外見だけではなくその口調、雰囲気すらも大人びた、ある種の冷たさを感じる怜悧な表情。だがそれとは真逆にその声色は柔らかかった。

 だからではないが、若干対応が鈍かったかもしれない。


 若干の沈黙。

 何だこの雰囲気と思っていると、それを察したのか茉美はちらりと蜜樹の手に目線を向ける。


「……手、大丈夫?」

「え? ああ、もしかして見てらしたんですか?」

「たまたま、ね」


 わたしも朝は早い方だからと口元をかすかに緩める。

 時間が経ってから朝の遣り取りを見られていたのを第三者に言われると、なんとも気恥ずかしい。


「ま、まあ大丈夫ですよ。まだ若干ひりひりしてますが、友達に軟膏を塗ってもらいましたから」

「……なんで学校に軟膏を?」

「理由は知りませんが、常備している娘がいるんですよ」


 ……変わったお友達ねと若干引かれた。

 今しがた貴女を案内した娘ですよ、とは流石に口には出さなかったが。

 まあ手荒れ用ハンドクリームならともかく、薬用軟膏を持ち歩く中学女子はそうそういないとは私も思「蜜樹ちゃん専用だよ」。

 …………。


「こほん。えっと……それで久遠先輩、ですか? 私にどのようなご用事でしょう?」

「え、ええ」


 わざとらし過ぎたかもしれないが、小さく咳をして話題を戻す。

 茉美もまたそれを察したのか、改めて要件を切り出した。


「今日の放課後、時間はあるかしら?」

「放課後ですか? そりゃまあ私は問題ないですけど」

「是非、貴女に聞いてもらいたい話しがあるの。…………いえ、この際まどろっこしいのは止めた方がいいわね」

「?」


 一瞬、ほんの一瞬ためらう様に、茉美は息を深く吸い込み、蜜樹にこう言い放った。 


「単刀直入に言うわ。天野・蜜樹さん、わたしと――――付き合ってもらえないかしら?」

「――――――――はあ?」




「…………(にこにこ)」


 正直、茉美の話しに衝撃を受けた事より、桃香の笑顔が妙に怖かった事の方が印象に残っているのは内緒の話しだ。

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