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VR×JC  作者: 竜飛岬
3/4

一体いつになればバトルが見れるんだ…!

 本州最北端に位置する青森県。

 その西側地域一帯を一般的には津軽地方と呼ぶ。

 そして津軽の地の象徴であり、津軽富士とも呼ばれる岩木山を擁し、林檎の栽培が盛んな地域である津軽平野。

 そんな日本有数の広さを持つ平野のほぼ北端に美郷町は存在している。

 人口わずか一万人弱の小さな町だ。だが周囲を山々や田畑に囲まれ、春夏秋冬それぞれの恵みと美しさをそこに住む人々や訪れた観光者に与えてくれる。

 美しい故郷という名に恥じない、現代に残された数少ない自然の町だ。


「――――まあうちからじゃあ岩木山は見えませんし、言い方を悪くすればド田舎なわけですが」


 貶めるような物言いで軽く苦笑するも、蜜樹はこの町が嫌いではない。

 幼い頃から通いなれた道は、それでも時たま新しい発見や驚きを与えてくれるし、春先のまだ冷たい風を浴びていると嫌なことも忘れさせてくれる。


「まあ、頑固にこびり付いた油汚れみたいに記憶に焼き付いてるんですけどねえ」


 風で吹き飛ぶような悩みなら悪夢などみないだろう。

 ふとした拍子に思い出してしまうのだ。

 もう一年も経つのに、あの地獄を。あの戦場を。


 天地に群がる異形の怪物オブリビオンたち。

 叩いても潰してもなお減らない……むしろ増えるという惨状。

 擦り減っていく装甲。

 徐々に削られていく精神。

 無駄に的確にサポートしてくる姉のせ……おかげで、絶対にゲームオーバーにだけはならないという恐怖。


 なにも考えずふらふらと歩いているとその記憶が的確に思い出さ――――「ないようにしてたのに!


 これじゃ駄目だと蜜樹は自分の頬を叩く。

 普段通りの朝であれば、早朝ランニングによる心地よい疲労感によって脳が無駄な記憶を思い出さないでいられたのだが。


「やっぱあの夢が効いてますねえ……あとはあのチャンネルも」


 もとから人の通りの少ない道だが、早朝という事もあり、そこを行く人間も自分と同じ学生が数名くらいだ。

 第三者から見て今の自分の行動はどう思われただろうと、若干憂鬱な気分になる。

 姉の事は嫌いではないのだが……複雑な気持ちではある。


「はあ、本格的におかしいですね今日は」


 思考を真っ白に。

 余計な事を考えないように。

 蜜樹はまたふらふらと歩き始めた。




「……ん?」


 なにやら威勢のいい複数の声が聞こえてくる。

 ふと気が付けば既に学校の敷地――――学生グラウンド近くだ。どうにも思考を真っ白にし過ぎていたようだ。


「いやはや、元気ですねえ先輩諸兄らは」


 野球部の朝練だろうか。

 朝からカキンカキンと球を打ち上げてみたり、投げてたり走ってたり……朝から気合い入り過ぎではないかと思う。

 こっちはこんなにブルーな気分なのに。

 蜜樹自身、運動は好きな方だ。だが、あんな風に集団で行動をするのは苦手である。


 姉も同じく集団行動は苦手なタイプだった。

 もっともあちらは自由奔放過ぎて周囲が手に負えないという形であり、蜜樹の場合は集団に混ざるのが嫌いというものだが。


「って、なんでまーたお姉ちゃんの事考えてるんですかあ、私?」


 いっその事、好き嫌いを抜きにしてああいう風に熱中できるものがあれば、忘れられるのだろうか。

 野球かサッカーか。はたまたバスケか。女子の入部可な集団スポーツって他になにかあっただろうか?


「……っは」 


 蜜樹は自虐に近い笑みを浮かべ「出来るわけねえだろ」と呟く。

 自分があんな風に楽しそうに、あるいは喧しく誰かとつるんでいる光景が、まるで想像できず嘆息する。

 中学一年にして枯れてるなあ、と。


「はあ……さっさと行「危ない!!!」……ああ?」


 億劫そうに、目線を声のした方向へ向ける。

 視界に入ってきたのは白と茶の入り混じった何かで――――気付けば蜜樹はそれを反射的に掴んでいた。


「痛っ……!」


 一瞬遅れて熱とも取れる痛みと痺れが手の平に走る。

 何だと思い掴んだ物を見てみると、それは所々に土がついたボールだった。

 グラウンドの方を見れば、何人かの先輩たちが慌てふためきながら「大丈夫か!?」と声を掛け――――


「危ねえべこのだらずっ!!!」


 蜜樹は思わず、掴んだボールを投げ返していた。

 この対応には流石の先輩たちも驚いたのか、駆け寄ってくる寸前でぎょっとしていた。

 ボールは綺麗な弧を描いて飛んでいく。


「……ふん!」


 若干、朝一からの鬱憤晴らしも込めていたかもしれない。正直自分でも大人げないとは思ったが、彼らを尻目に早足ですたすたと校舎へ向かう。

 ……断じて投げたボールがまったく見当違いの方向に飛んだのが気恥ずかしかったからではない。と、僅かに顔を赤らめながら自分自身に言い訳しておく。


 そんなだったからこそ、蜜樹はこの一部始終を驚愕の目で見ていたある人物に気がつく事はなかった。


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