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VR×JC  作者: 竜飛岬
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サブタイが思い付かん!

思い付いたら後々、編集してきます。

「――――ん」


 嫌な夢を見た。

 懐かしい、というほど昔ではない。ほんの一年前の出来事だ。

 姉・柑奈に連れられて初めてB.O.Oをプレイし、そして徹底的な挫折を味わった時の夢。


「ちっ……」


 不機嫌さを微塵も隠すことなく態度に表す。

 枕元の置時計を確認すると時刻は朝の五時半を過ぎていた。


「少し寝過ぎましたね」


 本来の予定なら四時には起床し、日課である早朝ランニングをしていたはずなのだが。

 我ながら小学生……もとい中学生らしからぬ日課だとは思うが、習慣とはそんなものだ。その習慣を潰してしまうほどに心に根付いてしまった出来事にはイラつかせられるが。


 五月に入ったばかりとはいえ、青森の朝方はまだ寒い。

 やるべき事の為に起きるのならばともかく、悪夢で目覚めたとなればベッドから起きるのも面倒だ。

 かといって二度寝をしたらしたで、また姉が夢に出てきそうで嫌だ。


「……起きますか」


 のそのそと毛布から這い出る。

 ふと姿見に映る自分の姿が目に入った。

 同年代の女子に比べてもなお小柄な身長、肩口で揃えられた黒髪、初対面の人間から大抵「怒ってる?」と指摘される鋭い目付き。

 13の少女に使うべき言葉ではないが、可愛いと言うより綺麗という評価を周囲からは貰えることだろう。

 もっとも犬と猫のプリントされた寝巻と、寝癖のついた髪、加えて不機嫌そうな顔が全て台無しにしているが。


「シャワーでも浴びましょう……」


 頭から熱湯でも被れば、もやもやした感情と、この惨状も洗い流せるだろうか。




 ざっくりと湯を浴び、制服に着替える頃には目もすっかり覚めていた。

 部屋を出て居間へ向かうと、既に母が朝食を用意していた。

 珍しい。とりあえず挨拶しておく。


「おはようございます、母さん」

「おはよう、みっちゃん」


 天野家は母子家庭だ。

 母、天野・林檎。

 長女、天野・柑奈。

 次女、天野・蜜樹。

 父は居ない。


 ……いや、別に不謹慎な話題などではなく、単純に海外への長期出張に出ているだけだが。

 まあ三年近くまともに会った記憶がないのでその表現でいいだろう。

 しかも姉は今年に入ってすぐ、県外の高校へ入学する折にむこうの学生寮へ越しているので、実質母との二人暮らしとなる。


「今日は(・・)早いんですね」

「……お母さんいつも寝坊してるわけじゃないのよ?」


 別にそんなつもりで言ったわけではないのだが。


「自覚があるなら直したらどうです?」

「むう、みっちゃんたら意地悪~」

「……」


 高校生と中学生の子を持ついい歳の母親にこんな反応をされても困る。

 無言で蜜樹はテレビの電源をつける。

 今日の天気はさてどうだろうか?


「無視したら駄目~!」

「はいはい」

「いつもの寝坊は言いわけ出来ないけど、今日はちゃんと早起きの理由もあるのよ?」

「どうせお気に入りのゆるキャラが朝番組に出演とか、そんなのでしょう」「違うの、今日は――――」


 チャンネルを変えつつ母の抗議を軽く受け流す。

 まったく朝から騒がしい事だ。

 ニュース、占い、どこに需要があるのか不明な早朝番組、と?


≪――――B.O.Oチャンネル~!!!!≫


 不意に甘ったるい女性の声が響く。

 B.O.O専門の情報番組……こんな朝からやってるのかと、蜜樹は呆れる。

 いくら世界的な人気を誇るゲームとはいえ、早朝からこれは如何なものか?


「やれやれ、世も末って奴ですかねえ」


 これならニュースでも聞いてた方がよほど面白いと、番組を変えようとして、


「待って待って! 早起きの理由はこれなの~」

「はあ?」


≪本日のB.O.Oチャンネルは早朝から特別ゲストとして、東北地区最年少チャンピオンにして全国ランキング第10位かつ世界ランキング28位の天野・柑奈さんをお呼びしておりま~す!≫


「はあ!?」

「そうなの! なっちゃんが今日番組出演のよ凄いでしょ~! これは絶対見逃せないなと思って頑張って早起きしたんだから!」


 その頑張りを普段から心掛けてほしいと心の片隅で思いつつ、先程洗い流したはずの感情が再び胸に込み上げてくるのを蜜樹は感じた。

 しかし画面の中のチャンネルキャスターにはそんな一視聴者の感情など届きはしない。なにが楽しいのか分からない無駄に明るい声で姉の経歴を拳を握って熱弁する。


≪B.O.O公式トーナメント東北地区優勝から始まり、強豪プレイヤー百人の入り乱れるサバイバルマッチ制覇! さらにさらにい!! 先日行われた超級規模の大防衛戦でソロにして数万体のオブリビオンを薙ぎ倒してMVP入りいっ!! まさに現代の戦乙女とは彼女のことだあっ!!!≫


 見ている側が引くレベルで熱の入った様子のキャスターとは真逆に、蜜樹は沈んだ目で「頭のおかしい戦歴どうもです」と一言呟き――――


「あの、みっちゃん?」

「学校……行ってきます」

「ええ、だってまだ六時半だよ?」

「行ってきます!」


 その場から逃げだすように、居間を後にする。

 全く、なんて朝だと悪役の捨て台詞のような言葉を口にしながら。

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