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おきらく三題噺シリーズ

はだかの部長

   はだかの部長



 ここは王手おもちゃメーカー、「もちゃもっちゃん」の会議室。長方形のテーブルを田中、佐々木、金本、カップルの四氏が囲み、新作おもちゃの構想を練っていた。

 会議が始まってすでに二時間が経過しているが、会議参加者の興奮は増すばかりで、熱のこもった議論が続けられていた。

 議論の熱にのまれ、田中氏が机をばしん! と叩いて立ち上がる。

「私はこれが最高の案だと確信しているが、どうして君たちは理解しない! 君たちはおもちゃについて何もわかっていない!」

「まぁ落ち着きたまえよ田中氏。昨今、奇抜さをねらったおもちゃが続々と発売されているが、ベーゴマやメンコ、けん玉といった伝統的なおもちゃだって、今の時代、重要だ。君の言うことも一理ある」

 黒縁眼鏡を指であげながらつぶやくは佐々木氏。

「しかし、だ。田中氏の考えは古いというのもまた一意見。昔なじみのおもちゃは定番であり、重要であるが、それは他社も同じ。それでは当社ならではの差別化をはかることは不可能だ。やはり、今までにはない何か新しいスタイルのおもちゃの開発が重要だと思われるのだが、どうだろうか佐々木氏」

「……新しいスタイル、ねぇ……」

 一呼吸置いて、佐々木氏が発言する。

「そうだな……こういうのはどうだろう? 大人向けフィギュアだ」

「大人向けフィギュア?」

 首を傾げる田中氏の方を向いて、金本氏は説明を始める。

「我々は今までおもちゃはあくまで子供向けという観念にとらわれていた。今こそ、この観念から脱却する機会だろう。大人向けのおもちゃがあったっていいだろう」

「まぁ、君の言いたいこともわかる。それで、その大人向けフィギュアというのはなんなんだ?」

 金本氏はおほんと咳払いをする。

「ターゲットは……私たちより少し上、部長たちの年代だな」

「部長がおもちゃ? まったく想像できないんだが」

「まぁ聞けよ田中氏。たとえば、昔キン消しとか流行ったじゃないか。少年の頃に戻れるようなノスタルジーなおもちゃ。それが大人向けフィギュアの基本的な考え方だよ」

「ノスタルジーなおもちゃか……まぁ、やってみる価値はあるかもしれないな」

「そうだろう。毎日の部長を見ていればわかる。部長は肉体的にも精神的にも疲れている」

「確かな……最近の部長はストレスのせいか、無駄にガミガミと怒りっぽいし、体型もぷよんぷよんだしな」

「ぷよんぷよん! 佐々木氏、まさに言い得て妙だな!」

「そう褒められてもな……。ともかくノスタルジーなおもちゃによって部長に少年時代を思い出させるというのはいい案かもしれないな。名前はそう! 裸の上司!」

「うむ。スーツを取っ払ってしまえば、部長だって裸に、素直な自分になれるのだ。これは部長のストレスを和らげるだけではない。我々中間管理職者にとっても、怒られることが減っていい気分で仕事が出来る!」

「あの部長のどうでもいいような叱責が止むと思うと、胸が躍るよ! このおもちゃはぜひ製作するべきだ! みんなもそう思うだろう!」

 田中氏の言葉に、佐々木氏も金本氏も強く頷いた。

 そのときである。今までずっと沈黙し、会議の成り行きを見守っていたカップル氏が口を開いた。

「みんな……その……」

「なんだカップル氏。言いたいことははっきり言うべきだ」

「田中氏の言うとおりだぞカップル氏」

 田中氏、佐々木氏の二人にこう言われて、カップル氏はおずおずと人差し指をたてて、会議室の天井を指さした。

「ぜんぶ……聞こえてるよ。たぶん……」

 三人はカップル氏が指した方を見やる。

 途端、三人の背中に強烈な寒気が走る。

 会議室の天井にはカメラが設置されていて、会議の様子を見れるようになっている。

 議論があまりに白熱したため、三人はそのことをすっかり忘れていたのだ。


 彼等の脳裏に様々なフレーズが泡のように湧いては消え、湧いては消えを繰り返す。


 

 ――最近の部長の無駄にガミガミと怒りっぽいし。


 ――体型もぷよんぷよんだしな!


 ――ぷよんぷよん! 言い得て妙だな!


 ――部長のどうでもいい叱責が止むと思うと胸が躍るよ!


 会議室に向けて、ザッ、ザッ、床を踏み散らすような怒りの足音が近づいてくるのは、それから間もなくのことである。

お題を物語に取り入れるので手一杯になってしまいました。

ショートショートには未だ慣れず。難しいです……。

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