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霧のエンブリオ  作者: 氷室夕己
第19章 片翼
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ローリエ・グランツェル・アロマ

 私の父親がアリマ・アロマだというのは隠すようなことではない。

 日々谷ミストが信じるかの方が問題だがそれも興味ない。


「正直信じられないのだけど、もし本当だとすれば霧の結界を超えることには説明がつくね」


 ミストの周囲に少し羽が散ると右手には片手剣が握られていた。

 脅しのつもりかな?

 剣を握ったミストが走り込んできた。

 その突撃は様になってない。

 動きは素人のそれだった……金精霊士が飛ぶまでは


「精霊術での飛翔……魔法だとここまで飛ぶのはなかなか出来ないでしょうね」


 恐らく磁力を使っているのか?

 それとも見えない金属でも作り出したか?

 タネはどうでもいい、真実なのは聞いていた通りにミストの精霊術は高度で緻密だということだ。

 これがゼロからの独学か……とてもじゃないけど信じられない。


 でもね、飛べるのはキミだけではないんだよ。


「わ〜お、キミも優雅に飛ぶね」


「朝飯前なのよ、この程度はね」


 高度2メートルから剣先が喉元に届く前に私は飛んだ。

 その剣先は空振りに終わった。

 私は2階ほどの高さで浮いている。


「でも精霊術で飛んでいるわけではないよね? キミには翼が光っていないし、周囲の精霊も活発ではない。つまりキミは魔法で飛んでいるわけだけど……もう一分くらい飛んでいる? そのくらい飛んでいたら普通の人なら魔欠症で倒れると思うな」


「精霊術はともかく魔法は素人と聞いたけど魔法もわかるのね」


「ボクだってこの島で暮らしているんだよ? 日常生活程度の魔法はできるし、それ以外でもある程度はわかるよ。そしてキミが大きな魔力を持った魔法使いではないこともわかる。キミは間違い無く火の精霊士で普通の人とは違う精霊の流れになっているし取り憑いている火精霊も焦がすような色をしている。でも、魔力による精霊の流れは感じないのよね」


 大魔法使いの娘だからって大きな魔力を持っているとは限らない。

 もしそうなら長命な人間など多くいる。


「私の魔力は量は普通よ。ちょっと質はいいかもしれないけど、貴方みたいにもっと素質のある魔法使いは多くいるでしょうね」


「つまりキミは常人の魔力で賢者や大魔法使いが行うような魔法ができるってことなのね。こういうのを何で言うのだっけ……職人芸?」


 自分の魔法を評価されるのは初めてだった。

 今までは島の外にいたし魔法は密かに黙々と勉強していた。

 嬉しいと素直に感じた。


「あら、照れてる?」


「て、照れてる訳ないじゃない! 魔法を知ったようなフリしてさ!」


 確かにミストは少しくらい魔法を理解しただろう。

 この星に住んでいる殆どの人は魔力の使い方を忘れてしまった。

 残る数少ない魔法使いも魔法の研究は停滞している。

 だから私が使うような魔法は気づかれていない。

 齧った程度の魔法しか知らないミストはもちろん、周囲で警備している保安官も気がついていない。


 あら、1人だけ気がついた人がいたようだ。


 この魔力はウールに似て非なる魔力だ。

 つまり三賢者の魔力だ。


 先ほどミストが飛んだ時に魔法を仕掛けていたのだ。

 呪いってやつをミストに仕掛けた。

 ミストが振るった剣に魔力を流し、それは電線となってミストの体内まで流れた。

 この呪いは純粋に人を殺める物である。

 ただし遅効性なのですぐには効果が出ない。

 ミストの体内魔力が全て犯されると乾電池を引っこ抜いたかのように生命活動が停止する。

 あえて遅効性にする事で呪術に気が付きにくいこと、そして誰がいつ仕掛けたか悟られにくくする意味合いがある。


 この魔法の性質から大昔では暗殺に使われた古典的な魔法である。

 先ほど私は魔法技術は停滞していると言ったが正確には違う。

 正確にはエンブリオ島が文化保護島になった時を境に魔法の当たり前が変わった。

 昔の魔法は信仰や宗教に密接に関わっていた。

 アリマ・アロマはそんな時代でも神を信じない理論的な魔法しか使わなかったので多くの地で異端とされた。


 ところが魔法狩りは魔法を邪悪な物と扱った。

 科学の進歩で寿命を減らす魔法は時代遅れとなったのだが、魔法使いにとっても信仰魔法は時代遅れとなった。

 魔法が科学て信仰共に否定された。魔法使いは宗教関係なく一カ所に集められたので魔法使い同時の連携にも支障をきたした。

 エンブリオ島の囚人反乱が成功したのは宗教関係なく対等に扱える現代魔法の存在が大きい。

 信仰ではなく現実で容易に観測できる魔法がエンブリオ島での魔法となった。


「ミスト……貴方は神様をしんじるかしら?」


「え、急になに?」


「人には出来ないことでも神様にはできるの。つまり神様の力を借りれば人には出来ない魔法もできる」


「それが君が魔力の量に対して強力な魔法が使える理由?」


「いや、私の魔法は父親と同じよ。違うのは父親とは違って効率を重視しているってだけ」


 今ミストにかけているのは信仰魔法に近い。

 ただし信仰を現代的に、そして自分なりに解釈している。

 このような古典的魔法は今のエンブリオ島民には殆ど理解できない。

 そこから私独自に発展させた魔法なら尚更だ。どこにも資料がないので対策できない。


 事実、三賢者は外呪に手こずっている。

 すぐに解除できてないからすぐにわかる。

 外呪しているのはシクータかフェネルのどちらかだろう、1人は島外にいるクローブと連絡を取る為に島から出たはずだ。

 流石に賢者2人を同時に相手することはできない。

 なんなら1人でも無理だ。

 だから釘付けにした。ミストの外呪しなければならない。

 一時も目を離せない……


「さて、力試ししようかしら? 貴方には言いがかりがあるの」

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