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霧のエンブリオ  作者: 氷室夕己
第19章 片翼
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報道規制

 浜辺の炎上が発生、その現場に保安局長のサニーが自ら指揮をとる。

 そんな異様な状況がなぜ起きたのか、タイムは身に染みるようになってきた。


 第一に封鎖範囲が広い。

 確かに火災ならば人は遠ざけるべきだが、現場は周囲に何もない浜辺である。

 炎もキャンプファイヤーより小さなものだ。

 火災を舐めては行けないとはいえ、周辺には緊急士が設備点検に訪れており迅速な行動が可能だった。


 全てが大袈裟なのだ。

 これが精霊術によるものであるという特殊性を考慮しても大袈裟すぎる。


「封鎖範囲はビーチどころじゃないな、周辺の住民の避難も行っている。恐らく住宅街にある公園や公民館だな」


 この程度の規模の火災にて周辺住民の避難まで行うものか?

 この火災が危険だからではなく、見られたくないからというのが本音ではなかろうか?

 その予感は当たった。


「コウヨウ新聞の記者さん、事情は聞いていますが周辺は危険なので避難をお願いします」


 サニー保安局長からの直々の避難指示だった。


「これでも俺は記者なんですよ、よくサボってるお言われますけどね。危険なのであればそれを伝えるためにも現場を記事にして公表するのが記者としての義務だと考えています」


「それは立派な考えだと思います。しかし貴方にもしもの事があった場合、責められるのは私達なのです」


「だがミストは俺より危険な場所に突っ込んでいったぜ?」


「彼女は協力者なので……」


「もしここが危険だと言うならそれには従うよ。南グラノール山の商業地帯ならここを見下ろせるかもしれないから、俺はそこに向かいます」


「それは許可できません」


 やはり、周辺の避難指示は建前だ。

 何かを隠そうとしている。


「サニー局長、質問を変えますよ。この現場で何が起きているのですか?」


「調査中です」


「何故、ここまで人を近づけさせないのですか?」


「火災現場ですから」


「ミストはこの火災ひ精霊術と見抜いていました。ただの火災ではないでしょう? ここで去れと言うならば俺は憶測で記事を書かなければならない。保安局……いや、そ保安官ですら現場に近づけさせてないところを見るとサニーか局長だけの指示ではありませんね?」


「…………」


 図星かな?

 恐らくサニーも何が起きているのか知らされていない。

 知らないのではなく、本当に調査中なだけかもしれないが……。

 サニーをここに向かわせたのは三賢者の誰かだろう。

 3人のうちクローブは国際機関への定期不定期報告のために島を出ているから、指示したのはフェネルかシクータのどちらか、もしくは両方だろう。

 どうやらこれは想像以上に大事のようだ。


「わかりましたよ。勝手に取材でもしてください。ただし、封鎖線の中にいる事だけは許可できません。我々もこの火災の異様性を把握できてないのです」


 把握できてないか……。

 確かに事実だろう。

 それが全てかどうかは別問題だが。


 サニーがここに来たのが理由に絡んでいるだろう。

 エンブリオ島で最も忙しい人、こんな人を把握できないまま一件の火事に早急に送り込むとは確かに異例。

 そしてあの炎は精霊術によるもの。


 なら術士はどこにいるのか?


 これが1番の謎だ。

 療養中のセピア、金精霊士のミスト、水精霊士のメティ……。

 小さいとはいえ、あの規模の炎を出す精霊士は島にはいない。

 起きるとしたら単なる自然現象だ。

 精霊は自然の化身とも物質の素ともいわれる。

 精霊士が常に精霊を目視しているように精霊は常に存在している。

稀だが精霊術のような現象が人や妖精に関係なく現れる事があるわけだ。


 その場合、普通の災害とは異なる。

 緊急士は設立したばかりなので、この手の災害に対処した実績はない。

 保安官ですらベテランのみだろう。

 それならば緊急士や保安官が迂闊に手を出せないのも理解できる。


 しかし、この火災は精霊士によるものだ。


 そうでなければ広いシルバービーチ全域を封鎖なんて大事を迅速に行うことはないだろう。

 それに保安官がこの火災を精霊士によるものと認識しているか怪しい。

 火災現場にたまたまいたミストが即座に精霊術によるものと断定した。

くす ミストは確かに周囲にいた緊急士グラソンと1人の保安官に伝えたが、いくらなんでも封鎖が早すぎる。

 だからこの火災による封鎖は精霊絡みでなく別問題だ。

 

 遠くで気の抜けた音がした。

 くだらない記念日を祝い酔っぱらいがシャンパンのコルクを抜いたような音だ。


 音がしたのは火災現場の方角だ。

 この火災、燃えているのはわかっていたが、何が燃えているのかは理解してなかった。

 そして今、何が燃えていたのか理解した。


 あれは金庫だ。


 金属とコンクリートで作られた耐火性の金庫、大きさは大人が入るには窮屈だが子供が入るなら狭いで済むような大きさだ。


 そんな金庫が爆発の衝撃で扉だけ吹き飛んでいた。

 金庫の扉の横にミストがいる。

 ミストは恐らく精霊術を使った。

 彼女の周囲に煌びやかな羽が散っているからわかる。

 あれはミストのものだ。


 そしてもう一つ、ミストのものとは違う羽が散っていた。


 一眼見た時は飛び散った火の粉やススかと感じだが、火の粉にしては長く残っているし、ススにしてはすぐに消えた。

 何よりあれは輝いていた。


「精霊士……!!」


 魔法文化保護島エンブリオ、精霊士不足に悩まされていたこの島だが、こんな精霊士は恐らく望んでいない。

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