新しい友達
高校生活が始まってから一月以上経っても、亮は休み時間になると、居たたまれない気分で時が早く過ぎるのを待たねばならなかった。亮は早く友人を得なければと焦っていた。一度、太い黒縁の眼鏡をかけた大人しそうな男子生徒と親しくなろうと試みたが、反応は今ひとつだった。そのうち、彼も亮以外に仲間を見出し、亮には目もくれなくなった。
亮が飯田賢治という男子生徒と急接近したのは、五月半ばに行われた遠足の時だった。亮は予てから飯田のことが気になっていた。クラスで作った自己紹介用の名簿の中で、飯田がプロフィール欄の趣味の項目に書いた「E・ギター弾いてます」という文字に目を留めていた。話す機会を伺っていた。
亮と飯田は遠足の際に乗るバスの席決めで、偶々隣同士になることが決まった。行きのバスの中で、出発早々、亮は窓際に座る飯田に訊ねた。
「飯田君ってエレキギター弾くらしいね」
「……まあ、一応ね」
「弾きだしてどれくらい?」
「だいたい三年くらいかな」
「へえ、結構長いんだね。実はおれも弾いててさあ。でも、最近弾き出したから、まだ全然弾けないんだけどね」
それからは二人の会話は止まらなかった。二人はエレキギターを弾いているという共通点に加え、音楽の趣味もよく合い、すぐに意気投合した。亮は飯田と会話をする中で、飯田の謙虚な口ぶりとその内容から、ギターのテクニックはかなりのレベルにまで達しているとみた。
遠足以降、亮は休み時間にはほとんど飯田と話すようになっていた。飯田を離すまいと必死だった。飯田の席の前で椅子に後ろ向きに腰かけ、息をつく間もなく捲し立てるようにして、音楽雑誌から仕入れてきた情報や知識を語るのである。亮は某Bというへヴィメタル専門誌を愛読しており、好きな音楽の情報や知識はほとんどそこから得ていた。飯田はたいてい亮の話す内容を受け入れ、同調した。というより、飯田もそのB誌を愛読しており、亮の言う事は大抵知っていたのだ。むしろ、亮よりもずっと詳しいくらいだった。
飯田は色白で顔の堀が深く、目は少し垂れ気味ではあるが、不思議と眼差しには鋭い印象があった。身長は亮よりは低く、平均よりやや低いくらいだった。表面的にはかなり内気で控えめな印象だったが、亮は時折はっとなる程の秘めたる我の強さを飯田に感じた。亮は飯田のことを、傲岸不遜な態度と発言で知られる某スウェーデン人ロックギタリストのイメージに重ねた。
その後、亮と飯田の会話に、田村誠司という同じクラスの男子生徒が入ってくるようになった。田村は淡白な顔つきで、少し吊った細い目が特徴的だった。体毛が薄く男子にしてはやけに肌のきめが細かかった。身長は亮より僅かに低いくらいで平均的だった。田村も亮や飯田と音楽の趣味が近かったが、楽器は何もやっていなかった。
田村には少し困った口癖があった。毎日何かと「あーあ、つまんねえ学校だなあ」と口にするのである。田村には、ひょうきんな一面もあり、学校の教師達のものまねが上手く、よくA組の担任の尾崎の口真似をしては亮と飯田を笑わせた。決して悪い奴じゃなかったが、亮は度々田村のこの口癖に閉口した。