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蛍光ピンクのジャージ

 新入生に向けての部活動の説明会が行われた数日後のことだった。その日の放課後、亮が入部を決めた水泳部のミーティングが行われた。部長から一年生の新入部員に向けて、活動内容についての詳しい説明が改めて行われた。その後、個々の自己紹介も行われた。自己紹介の際には、得意な泳法やこれまで記録したベストタイムなども一人一人発表した。亮のクロール五十メートルのベストタイムは、中学時代に体育の授業の際に出した二十八秒だったが、上級生を含めて亮のタイムを上回る者は居なかった。きついトレーニングなどさせられ、中学時代同様に、また部活で嫌な思いをするかもしれないという不安を未だ拭えなかった亮は、皆の自己紹介を聞いて大いに安堵した。

 入部した一年生は、亮を入れて男子八名と女子三名の合計十一名だった。ミーティングの後、一年生の部員達だけで新しいスイミング用品を買いに行こうという話になった。亮はお金の持ち合わせが無かったこともあり、気が進まなかったが、付き合うことにした。空気を乱したくなかった。

 亮達一行は自転車をぞろぞろと走らせ、スポーツ用品店へ向かった。店はあるJRの駅近くにあり、その駅周辺は亮の住む近辺では最も賑やかな繁華街が拡がっている地域だった。学校からは亮の自宅の方角とは反対方向に自転車で三十分程の距離だった。

 店に入ると、亮は皆から少し距離を置くようにして、皆の様子や店内に陳列されているスポーツ用品を漫ろに眺めていた。皆が一通りスイミング用品を買い終えると、トレーニング時に使用するお揃いのジャージを一緒に注文しようという話になった。最初は、上級生の部員達が使用しているジャージと同じ、スカイブルーの地に白のストライプの入ったデザインのものにするつもりだったのだが、その時はそれが店には置いていなかったので、違うデザインのものを探すことになった。部内で使用するジャージのデザインは、全学年で統一する必要はなく、学年ごとに揃えれば良いことになっていた。

「なんかこれちょーかわいくない?」

 女子部員の一人が声を上げた。亮は彼女が手にしていたジャージを思わず二度見した。彼女が手にしていたジャージは、蛍光ピンクの地に黄色の細い二本のストライプが入った派手なデザインだった。亮は冗談に思えたが、他の男子部員達は思いの外好反応を示した。

「なんか林屋ペーみたいだな」

 男子部員の一人がそう言い、皆が笑った。亮もことさら声を立てて笑った。

「もう、それで良んじゃね?」

 傍らにいた別の男子部員がそう言った。

 亮には、彼らのやりとりが終始どこか上滑りしているように感じられた。まだお互い十分に打ち解けていない中で、必死で楽しんでいる感を出そうとわいわいはしゃぎ、悪ノリしているようにも思えた。結局、注文するジャージはそれと決まった。

 帰り道、亮は薄暗くなった遊歩道をのろのろと自転車を漕ぎ、沈痛な面持ちでため息をついていた。笠井遥のことを考えていた。もし大会の時などに遥と鉢合わせするようなことがあれば、と考えると絶望感さえ込み上げてきた。亮は何度も心の中で呟いた。

(ピンクはないだろ……)

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