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告白

 亮は十五歳になった。その日、亮の通っていた中学校では卒業式があった。卒業式の後、亮はクラスの友達二人に同行してもらい、彼がずっと想いを寄せていた笠井遥という女子生徒の住いへ向かっていた。

 亮は遥とは二年生の時に同じクラスだった。亮が日に日に大人びてくる遥の物憂げな表情を意識し出したのは、二年生の秋頃だった。それから一年程かけて、遥への想いは少しずつ育っていった。

 遥は色白で、身体つきはほっそりと華奢で、髪は肩までのセミロングで微かに栗色がかっていた。目はぱっちりと大きく、僅かに目じりが下がっていた。控えめな大人しい無口な少女だった。水泳が少し得意で、水泳部に所属していた。遥とその一家は中学校の近くに連なっていた団地に住んでいた。

 亮は友達二人を遥の住む棟の階段の出入り口付近で待たせ、遥の住んでいる一階の部屋のドアフォンを鳴らした。すると、遥の母親が出てきた。母親は娘とは余り似ていないぽっちゃりとした明るい快活な人で、亮を好意的に笑顔で迎えた。亮は少し安堵した。亮は要件を母親に伝え。母親はそれを感じ良く承諾した。

 しかし、当の娘はすぐには出てこなかった。十分くらいしてからだろうか。いかにも控えめな調子でそろそろとドアが開き、遥が姿を現した。ブラウスの襟が僅かに乱れていた。遥は着替えの途中で急いで制服を着なおしてきたのだと亮は思った。

 亮は初めて至近距離で見る遥の透き通るような白い素肌と透明に清んだ瞳を前にして、思わず視線を横に逸らした。

 遥は明らかに困惑の表情だった。亮はそれで全てを悟ったが、ここまで来たからには、言うべきことを言わなければならなかった。

「あのー、一年前くらいから気になってました。……好きです。これからも会いたいと思ってます。もし良ければ付き合ってください……」

 亮自身、案外自然に伝えることが出来と思った。遥はしばし躊躇うような表情を見せた後に言った。

「……気持ちは嬉しいです。でも、私には他に好きな人がいて、その人に気持ちを伝えて付き合うことになっています。……ごめんなさい」

 亮はそう断られても、さらにやらなければならない義務を果たすように、制服の第二ボタンと、前の晩にほとんど一晩中かけて何度も書き直した手紙を遥に渡そうとした。遥は、ボタンは受け取らなかったが、手紙は受け取った。

「じゃあ、お元気で」

 亮は小声でそう言い、くるりと向きを変え、その場を後にしようとした。

「ごめんなさい」

 亮の背後から遥の小さな声がした。

「いいよ」

 亮は振り返って素っ気なくそう言い、そそくさと逃げるようにしてその場を後にした。そして、棟の階段の出入り口付近で待たせていた二人の友人に駆け寄り「だめだったよー」と言い、泣き真似をした。

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