約束を守りました
最初目を開いたとき、デジャヴかと思った。
だって、初めてここに来たときと同じ光景を見ていたからだ。
つまり、私はベッドの上にいるということだ。
毛布の中にある右手をベッドに押しつけ、体を起こそうとしたが、その毛布がつっかかってなかなか体が上がらない。
毛布の上に視線を走らせると、誰かの頭があった。
ブロンド色だ。そして、オールバック風。
この髪の色、髪型は、私が知っている中では一人しかいない。
「ルミアスさん……? 」
きっとルミアスさんだろう。
だけど、私が呟いた声では、毛布の上の頭は動かない。
寝ているのだろうか。
なるべくルミアスさんを起こさないように、ゆっくりゆっくり慎重に毛布から体をうつ伏せに這い出させて、くるりと向きを変え、体を起こした。
窓が開いているのだろう、そよそよと風が吹いてきている。
外はまだ明るい。
その、風にルミアスさんの後頭部の髪がふわふわと踊っていた。
思わず触りたくなったが、明らかに私よりも年上のルミアスさんの頭を触ってもいいものだろうかと、うんうん悩んでいると、そのお目当ての頭が上がった。
「……ん」
「る、ルミアスさん……? 」
ハッと言う声と共に、徐々に上がっていた頭が一気に私の方を向いた。
「お嬢様!! 」
「は、はい……」
ルミアスさんの声の大きさに圧倒されて、返事の声が少し小さくなる。
「あ、、、すいません、大きい声を出してしまって。お嬢様が倒れたと、あの庭師に聞いて駆けつけてみればお嬢様が本当に目を覚まされないので、本当に心配で心配で。」
ルミアスさんは一息に喋った。
こんなに一気に話すルミアスさんは珍しい気がする。
「心配かけちゃってすいません」
「いいんですよ、今回一番最初に助けたのが私で本当によかった……」
ルミアスさんはにこりと私に微笑みかけてくれながら言った。
ルミアスさんとさっき約束したことを思いだし、頬が熱くなり、赤くなった気もしたので急いで毛布に潜り、頬までかぶった。
「約束、守れました」
ふふっと笑いながら言うと、そうですね、とルミアスさんは優しくまた微笑んでくれた。
バタバタと廊下が騒がしくなり、ドアがいきなりガチャリと開かれた。
起き上がった私もルミアスさんもそちらに目を向けると、サティさんやエルティスさん、カメルさん、そしてユリアンさんまでもがいる。
サティさんは急いだように、ルミアスさんがいるのとは反対側のベッドの横まで来ると、息を切らしながら
「ゆみ子ちゃん、大丈夫かい!? 倒れたって聞いたんだよ! 」
「大丈夫みたいです」
笑いながら答えると、サティさんは困った表情になり
「みたい、じゃ心配だから一応医者のエルティスに見てもらって。」
と言った。
「一応、ってなんですか、一応って~」
エルティスさんがぼやく。
「お前がヤブ医者だ、ってことだろ」
カメルさんがボソリと呟く。
隣にいるユリアンさんまで頷いている。
「お前みたいなサボりの針子にそんなこと言われたくないね」
へっとでも付け加えそうにエルティスさんが反論した。
この二人は仲が悪いのだろうか……?
でも、この二人の絡みを見るのは初めてだ。
「二人とも、こんなところで喧嘩しないでください。ゆみ子お嬢様は体調が悪いんですから」
さすがルミアスさんが二人を戒めた。
「いえ、私にはお構い無く」
こんな二人の絡みを見れるのはラッキーだ。
おじ様の少年のような絡み……。
ごちそうさまです!!
「何言ってるんです! サティ様もおっしゃっておりますが、エルティスさんに見てもらってください」
はい、と私が返事をするとエルティスさんが近づいてくる。
「今回は内診検査もしたいから、男衆は出ていった出ていった~」
「あ、ユリアンちゃんはここに残ってね、手伝ってほしいし」
「言われるまでもなく残りますよ、私が男に見えますか?」
ユリアンさんは、エルティスさんに強気だ。
「見えません」
エルティスさんは急に気を付けをし、敬礼までもつけて敬語で答える。
「ですよね」
ユリアンさんは綺麗ににこりと笑みを作る。
ここにも上下関係が……、と私が思っているとサティさん、ルミアスさん、カメルさんはそーっと部屋を出ていった。
ユリアンさんが一番ボスなのかもしれない、と私はベッドの上で思った。
「じゃあ、ゆみ子ちゃん、向こうを向いているからユリアンに手伝ってもらって上下別れてる服に着替えてもらってもいいかな?」
エルティスさんの言葉に、はい、と返事をし、下半身にかかっている毛布をどける。
するとなんともう、私はパジャマに着替えていた。
気づかなかったが、私はずっと下はズボンのパジャマに着替えていたようだ。
ユリアンさんの魔法……?
尊敬の眼差しでユリアンさんを見ると、なにも言わなくてもユリアンさんはわかったように首を横に振る。
「お嬢様、残念ながら私は魔法が使えません」
考えていることがわかられて、恥ずかしくて笑っていると
「お嬢様にみにおぼえがなければ、たぶんルミアスさんが着替えさせたのでしょう」
ルミアスさんが?
いつのまに!?
どこまで見られたのだろうか、恥ずかしい。
「ん?着替える必要がないってことでいいのかな?」
エルティスさんが聞いてきた。
「はい、診察をお願いします」
「じゃあ、あっちの椅子に移動しようか?」
エルティスさんが指したのは、いつも食事をとる窓際のテーブルの椅子だった。
その椅子が移動させられていて、今は部屋の真ん中に向い合わせで置かれている。
私はコクリとうなずき、その椅子に向かっていって座った。
そして、目の前にエルティスさんが座り、私とエルティスさんの間にユリアンさんが立った。
ユリアンさんはまるで看護婦みたいだ。
そういえば、こっちには看護婦がいるのだろうか…?
そんなことを考えていたらユリアンさんが
「失礼します」
と言ってパジャマの上の服の裾を掴んだ。
あ、めくられるのかと思うと少し恥ずかしくなった。
こっちに来る前の向こうの病院では、服をめくるのが当たり前だったのに、エルティスさんがあまり医者っぽくないせいか恥ずかしい。
そんな私が考えていることがわかったのか
「大丈夫、なるべく見ないようにするから」
とエルティスさんが言った。
「じゃあ、診るね。少し冷たいけど我慢してね」
聴診器が当てられ
「深呼吸してー、吐いてー、吸ってー」
語尾を伸ばしながらエルティスさんが言った。
隣にいるユリアンさんは、お腹の辺りまでしか服をめくらずにいてくれた。
「うん、うん、はい、いいよー」
エルティスさんの言葉と共にすっと服が下ろされる。
「まぁ、大事はないけど無理しないようにね?足のこともあるしね」
そう言って、一応お医者さんのエルティスさんは私の頭の上に手をおき、ぐしゃくしゃっと撫でてくれた。
すると、ユリアンさんがその手をバシッと弾いた。
「このエロ医者。ヤブ医者の次はエロ医者と呼ばれたいんですか?なれなれしくお嬢様に触れないでください」
私はその言葉にあははと笑うことしか出来ず、エルティスさんはシュンとしていた。