お嬢様のお好きなように
コンコンッ
「おーい、ゆみ子ちゃん、いるかい?」
「はい、いますよ」
がチャッと扉が開き、サティさんがいた。
「お、いたのか、ルミアス」
「おはようございます、サティ様」
ルミアス……?
この部屋にいるのは、私と執事さんとサティさんだけ。
もしかして……?
「執事さんの名前ってルミアスさんって言うんですか?」
聞いた私に笑顔で執事さんは答えてくれた。
「はい、そうですよ」
「ルミアスさんって呼んだほうがいいですか?」
「それはお嬢様のお好きなように」
んー、と頭を傾げて悩む。
このサティさんの家には、他にも執事がいたのを見た。
だから、名前のほうが良い気がする。
「じゃあ、ルミアスさんって呼びますねっ!」
「はい」
とニコリとまた笑ってくれた。
そんなやり取りをしていると、じーっと視線を感じた。
視線の方を見ると、サティさんがプイッと顔を背ける。
どうしたんだろう、と首をかしげる私にルミアスさんは
「サティ様は少し拗ねていらっしゃるのですよ」
「余計なことを言うな、ルミアス!」
ふふふっと私とルミアスさんは顔を見合わせた。
それでは失礼します、とルミアスさんは私が食べた朝食の食器を持って部屋を出ていった。
片手で持っている。
土鍋も入っているのに、なんて力持ちな。
50歳よりも少し手前だろうか?
それぐらいに見えるのに、きっとスーツの下は筋肉でしっかりしてるんだろう。
萌える。
私の思考はサティさんに話しかけられて、途切れた。
「さて、ゆみ子ちゃん。カメルのところへと行こうか?」
「え、まだ早くないですか?カメルさん
まだ寝てそうです」先ほど、朝食を食べ終わり、ゆっくりしていたところだ。
「そうかい?じゃあ、もう少ししてから行こう」
とサティさんは言い、椅子に座る。
私もサティさんの前の椅子に座る。
その席に座り、目の前に人がいるということを感じふと朝食のときのことを思い出した。
「あ、サティさん。お願いがあるんです」
「ん?なんだい?」
おねだりモードに入り、少し上目使いでサティさんを見てみる。
あまりそんなことをしたことがないから、睨んでいるようになってないといいけど。。。
「あのですね、朝食のときにルミアスさんと一緒に食べることを許可してほしいんです」
「それは、ルミアスがここの席に座る、ということかい?」
サティさんにしては珍しく冷めた声をだし、自分の側を人差し指で指差している。
「はい、ダメですか……?」
頑張って目をうるうるさせようと思ったのだが、そんなことしなくても、冷めたサティさんの声に目が少し濡れた。
「ダメじゃないよ、だけど、それは執事として……」
とサティさんは言いかけて辞めた。
首を振り
「いや、いいよ。ぜひともルミアスにここに座ってもらいなさい」
もなぜか敬語で言った。
私は嬉しくて自然に笑顔になるのを感じた。
「ありがとうございます!」
目をあわせて言ったつもりなのに、サティさんは少し顔を背け
「そろそろカメルのところへと行こうか」
と言った。
サティさんのあとに続き、部屋を出るとサティさんは特に私に隠れるように指示はしなかった。
だから、つい私の方から聞いてしまった。
「私、なにも被らなくていいんですか?」
「ああ、私と一緒のときは被らなくてもいいよ」
とサティさんはやっと笑って言ってくれた。
やっぱりサティさんの笑顔は安心する。
笑顔のほうがサティさんには似合う。
私はサティさんの笑顔が見れて嬉しくて笑顔で頷いた。
所々ですれ違った、メイドや執事はみんな頭を下げる。
サティさんに向かって下げているようだ。
サティさんは、やっぱり『王子』なのだろうか?
私は、そんなことを考えながら窓から見える綺麗な海をチラチラ見ながら歩いた。
カメルさんの縫合室についた。
サティさんは軽くノックしてから入る。
「カメル、サティだ」
「これはこれは旦那。どうかしました?」
「ああ、いや、ちょっとな」
私はサティさんの後ろからひょこりと顔をだし、昨日ぶりに会ったカメルさんに挨拶をする。
昨日もそうだったが、カメルさんの髪はボサボサ、服はよれよれ、眠そうな目をしている。
「おはようございます、カメルさん」
「ああ?昨日の嬢ちゃんじゃねえか。そういえば、昨日見せたデザインを作ってみたんだ。着てみないか?」
挨拶をした私にカメルさんはそう言った。
「え、いいんですか!?」
私は、わぁっと声をあげた。
「ああ、いいぞ。向こうで試着してこい」
私はカメルさんの指差したカーテンで区切られたところにワンピースを持って行った。
カーテンを閉め、スルスルと今着ているワンピースを脱ぐ。
ふんふんと少し鼻唄を歌いながら、新しいワンピースを着る。
着てからその場でクルンと一回転し、スカートをふわりとさせた。
シャーッとカーテンを開け、
「どうですか……?」
恐る恐るサティさんとカメルさんに聞く。
「おっ、今度はサイズはぴったしだな」
そう言うのはカメルさん。
「さっきのもいいけど、今回のも似合うね。可愛いよ」
こっちはサティさん。
二人のおじ様に誉められ、私は大満足で嬉しくて胸がドキドキして、頬が熱くなるのを感じながらお礼を言った。
「あ、ありがとうございます……」
すぐにカーテンをスススッと閉め、前のワンピースに着替えた。
それをカメルさんに返す。
「それはお前のために作ったんだ。やる 」
カメルさんは素っ気なく言う。
「いいんですか!?」
「おう」
「ありがとうございます!」
「……おう」
私はサティさんの方を向き、
「用事はいいんですか?」
と聞く。
サティさんは
「ああ、ああ、カメル、ちょっと」
とカメルさんを手招きする。
「なんです、旦那」
カメルさんはサティさんに近づく。
ボソボソとしか聞こえなかったが
「また例のやつを頼む。またあれがあるんだよ……」
と言ったような気がした。
例のやつ?あれ?と思ったが、知られたくないのだろうと思いそれ以上考えるのを止めた。
サティさんの用事も終わり、カメルさんのところを出た。
私は新しい可愛く少し大人っぽいワンピースを貰え、ふんふんと鼻唄を歌う。
そんなことをして、外を眺めると人がいた。
帽子をかぶっているが、男性のようだ。
庭の手入れをしている。庭師の人かな?
すごいなぁ、と思っているに何もないのにこけてしまった。
ベシッッ
びくりとサティさんが振り返る。
「大丈夫かい、ゆみ子ちゃん!!!」
焦ったような声。
私は恥ずかしさで少しえへへと笑いながら
「いたたたたたた、大丈夫です」
と言った。
「いや、でも、一応エルティスに来てもらおう!!」
とサティさんは言い背中を私に差し出す。
「へ……?」
「乗って!!」
「大丈夫です!歩けますよ?」
「いいから、乗って!」
という声に、乗せられ私はサティさんの背中におぶさった。
「すいません、重いですけど……」
おんぶのときの決まり文句を言う。
「いやいや、もっと食べたほうがいいよ」
サティさんは言う。
それはあははと笑ってごまかす。
そんなものは女子の永遠の悩みだと思いながら。
サティさんの服からは、太陽のような暖かい匂いがする。
いや、何か爽やかな良い匂いもする。
私はサティさんの肩に手をかけ、大人しく揺さぶられた。