表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
枯れ専女子が中年王国にトリップ!?  作者: 権左衛門
枯れ専女子中年王国にとぶ
3/18

随分貧相な体をしてるな

「そうと決まれば、ゆみ子ちゃんはここの部屋を使っていいからね」


「え、こんな豪華な部屋を使わせてもらってもいいんですか?私、納戸でも構わないですよ」


私の発言に、サティさんはすごく驚いたようだ。


「納戸!?女の子にそんなところを使わせるわけにはいかないだろう!いいからここを使いなさい」


「じゃあ、またまたお言葉に甘えさせていただきます」

と笑った私に、サティさんは微笑んで、うんうんと頷いてくれた。



コンコンッ

ノックの音がする。

返事をしていいのか迷って、サティさんを見ると

ふんふん鼻唄を歌っている。


「はーい」

と返事をすると

ドアが開きユリアンさんが入ってきて軽く礼をした。

「ユリアンです、サイズ調整が終わった服を……」

そのあとの言葉は消えた。

「失礼しました、出直します」

とユリアンさんは冷静にそう言い部屋を出ようとする。

なんか誤解している!

「いやいやいや、今で大丈夫ですよ、どうしました? 」

と言うとユリアンさんはサティさんをチラッと見た。

視線につられてサティさんを見ると、口の前で人差し指を1本立てて、ユリアンさんに何かを訴えかけていた。

ユリアンさんはそれに答えて、頷くと私に向き直り

「サイズ調整が終わった服を、半分ですが持って参りました。残りは明日には終わるのそうなので、明日また持ってきます」

と言った。


「わぁ、ありがとうございます! 」


「おやおや、どうしたんだい?サイズが合わなかったのかい? 」


「あ、はい。そうなんです。少し大きくて」

と私はサティさんに、少し長い袖を引っ張って見せたり、スカートを翻して回って見せたりした。


「本当だねぇ、ぴったりに採寸したつもりなのに。ゆみ子ちゃんが細いからかな? 」


本当、いつ採寸したんだろう。

執事さんも同じことを言ってたけど……


私は笑いながら

「まぁ、ここが絶壁ですしね」

と刺繍が施された胸の辺りに手をやり、ストーンと落とす仕草を何回かする。


するとサティさんは、みるみるうちに顔が真っ赤になり「だ、誰かが私を呼んでる気がする…! そうだ、誰かが呼んでいる! 」

とさっきと同じ手口を使い、部屋を足早に出ていった。

だが、出る前にドアの付近で振り返り

「また夕食のときにね」

と言って今度こそ部屋を出た。



「まぁ、なんとヘタレな王子でしょう。あんなことぐらいで動揺しちゃって。エルティスさんを見習ってほしいくらいです」

とサティさんが出ていったあとに辛辣な言葉を吐いたのは、ユリアンさんだ。



私がその言葉に驚いた顔をしていると、何事もなかったかのように

「さぁ、今着ているのものを脱いでください。それも縫合室に持っていってサイズ調整してもらいます」

と言った。


「あ、はい。やっぱりここで脱ぐんですよね……? 」

と、わかりきったことを聞くと冷たい視線を返されたので急いで着替えた。


ユリアンさんが選んでくれた、明るい黄色のワンピースを手伝ってもらいながら着る。


「うん、黄色も似合いますね」

とユリアンさんが誉めてくれた。


「さて、私はこれを縫合室に持っていくので、失礼します」


「あ、あの、私も行っちゃダメですか? 」

暇のあまりにサティさんが言っていたことを忘れて、そんなことを言ってしまった。

ユリアンさんが断る言葉を言う前に畳み掛ける。

「いえ! その、私のためにサイズ調整してもらうのでお礼が言いたいんです」

と言い訳がましく付け加えると

「いいですよ」

あっさり許可をくれた。



ですが……と付け加えられた言葉があったが。





ユリアンさんがドアを開き、廊下の様子を伺う。

「今なら大丈夫です」

という言葉を信じてユリアンさんについて部屋を出る。

そんな私は、フードつきのポンチョのようなものをワンピースの上から羽織っている。

そして、フードを少し目深にかぶった。


私の部屋はどうやら廊下の一番奥にあるようだ。

目の前にある廊下は真っ直ぐに伸びて、そのあと左へと曲がっている。


廊下には、土足で歩いていいのか迷うぐらいの赤い絨毯がひかれている。

これは、日本で育ったせいなのかもしれない。


廊下の右手側には所々窓があり、遠くに綺麗な海が見えている。


左側には、絵画らしきものが額縁のなかで飾られている。


そして廊下の所々に、メイドの格好や執事の格好をした人がいた。

私はもう少し深くフードをかぶった。


私がコソコソ、ユリアンさんの後ろをついていくと

「逆に怪しまれるので堂々としてください」

と厳しい一言が飛んできた。

「はい」

と返事をし、背筋を心持ち伸ばして歩く。


廊下にいる人たちが、チラッとこちらに視線を送るのを感じる。

だが、フードを目深にかぶっているせいで本当のところはわからないし、どのような人がいるのかもわからない。


必死でフードの下から見える、ユリアンさんのメイド服の端と私が来ていた青いワンピースい色を追いかけて歩いた。


5分も歩いただろうか。

廊下の一番奥に、『縫合室ーカメルー』というプレートが貼られているドアが見えた。


「ここです」とユリアンさんはいい、ドアをノックする。


コンコンッ


返事がない。

するとユリアンさんはそのままドアをがチャリと開き、室内に入っていく。


え、え、と焦っている私を、早く、というように中から手招きをする。


そして、部屋の中で服に埋もれた男の人の後頭部をスパーンとはたいた。

気持ちがいいくらいに良い音がした。


「なに、寝てるのよ。これもサイズ調整ね」


「いたたたたた。なにもぶたなくてもいいだろう」


「居眠りをするカメルが悪いんでしょ」


というやり取りのあと、ユリアンさんが振り向き

「ゆみ子お嬢様、これがカメルです。カメル、こちらがゆみ子お嬢様です」

と紹介してくれた。


「あ、乙田ゆみ子です。サイズ調整ありがとうございます。ぴったりです」


「ん、あー…あんたの服だったのか。随分貧相な体をしてるな、」


また、スパーンと良い音がした。

今度は心配や同情の念を送ることなく、ユリアンさんにグッジョブと思った。


「女の子相手になにをいってるの! まったく、いつもこうなんだから。デリカシーがないのよ、だから彼女の一人や二人できないのよ」


いやいや、二人もいたら大変ですよ、という言葉は呑み込んだ。

もしかしたらここは、一夫多妻性なのかもしれない。


「まぁ、いざとなったらお前がいるだろ、お前も売れ残りなんだし」

とカメルさんが言う。

もう一度、ユリアンさんがスパーンとはたいた。

でも、ユリアンさんの顔は心なしか真っ赤だった。


「でも、お前本当にほそっこいなぁ。もっと太った方がいいぞ? いや、でも……」

んー、とカメルさんは唸る。


「胴が本当に細いから、もう少し絞ってもいいかもなぁ」

と机の上に放り出しておいた紙をとり、

「ユリアン、そこにある鉛筆とってくれ」

と言う。


そして、サラサラと新しいデザインを描く。

「こんなのはどうだ? 」

と見せてくれたデザインは少し、胴まわりを絞った大人っぽいデザインだった。


「そういう少し少女っぽいのも似合うけど、旦那を落とすならこっちだろ」


「旦那? 」


「サティ様のことです」

ユリアンが教えてくれる。


「べ、別にサティさんとはそういう関係じゃないですから! 」


「でも、旦那が連れて帰ってきたんだろ?城中お前さんの噂話で持ちきりだぜ」


「!?!?!?!?!?」


「カメル!!余計なこと言わない!!さっさと残りのサイズ調整を仕上げてね。では、お嬢様戻りましょう」

ユリアンさんはそう言うと、私の手をひいて、縫合室

を出ていった。

出る直前に「旦那によろしくいっといてくれ。それと今度ちゃんとお前さんの採寸もさせてくれ」

と言われ扉は閉まった。




夕食時に、縫合室に行きカメルさんに会った話をサティさんにすると

「部屋を出たのかい!? あれほど出ないでほしいと言ったのに……」

と、少し怒ったように言った。


「すいません、でも暇だったので……」


「で、ど、どうだった、この中は……? 」

サティさんは落ち着きがなくなった。


「んー、とても豪華でした! あと海があるんですね!私の部屋からは角度的に見えないのが残念です! 」

と言うと、もどかしげに

「あー、そうじゃなくて、人はどうだった? 」

と聞かれた。


「あ、人はあまり見てないんです。フードを目深にかぶっていたので。でも、先程も言ったようにカメルさんには会いました! 」


カメルさんってデリカシーがあまりないですけど、顔が整ってますよね、と言いながらカメルさんの顔を思い出す。


灰色の髪を無造作にし、よれよれのシャツを着ている、サティさんと同じ年ぐらいの人だった。

寝起きのせいか、少しタレ目で幼く見えた気もする。


「ああ、カメルだけかい? 会ったのは」


「そうですね。あ、あの、一つお願いがあるんですけど……」


「なんだい? 」


「明日、出来上がる服をユリアンさんと取りに行ってもいいですか? もう一度、あの海を見てみたくて」

私の学校からも海が見えた

たった1日、離れだけなのにもう懐かしい。

そういえば、あちらは夕方だったのに、こっちは目覚めたときが昼前だった。

時差でもあるのだろうか?


「んー、それなら私も一緒に行くよ。ちょうど新しい服をカメルにお願いしたいからね」

もサティさんは、さっきの怒りはどこかへいったようにお許しをくれた。





執事さんが夕食を片付けたあとに、サティさんも、お休みなさい、を言って部屋へ戻った。

私は備え付けの風呂場へ行くと、お風呂に入った。

お風呂場は私の家より広い。

内装を見てから、やっぱりサティさんはお金持ちなんだろうと思っていたがお風呂で確信した。

部屋に、足が伸ばせるバスがあるのは、お金持ちしかいない……! やっぱり王子なのかな……? とお風呂の水をパシャパシャしながら考える。


そのまま、口までお風呂に浸かると眠くなってきたので溺れる前に風呂を出た。


ベッドに潜り込みながら、今日出会った人を思い返す。

サティさんに、エルティスさんに、執事さん、ユリアンさんにカメルさん。


そういえば、男性陣は中年の方が多かったなぁ。

駆け出し枯れ専の私にとっては嬉しいけど。

みんな結婚してるのかなぁ。

それともワケあり……?

と思いながら、ここに来る前の夢を見た。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ