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憂鬱な日

翌朝、どんな人が護衛につくのだろうと考えながら寮をでると、ルージェンスがいた。


「な、何でここに?」


驚いて目を丸くすると、ルージェンスが笑った。


「護衛に決まっているだろう。」


「えっ、風紀委員が3人って……。」


「風紀は追い返した。ちゃんと風紀委員長には許可をもらっている。」


何事もないかのように告げるルージェンスが信じられない。

昨日風紀委員をやめろと言われたばかりなのに、なぜ平然とここにいる?

護衛という事はほとんど私と行動を共にするという事だ。

3人も風紀委員をつけては周りに何かあったと思われることは間違いない。

しかしルージェンスが護衛につくよりは断然ましだ。

何食わぬ顔で護衛につくと言うルージェンスが腹立たしい。


ルージェンスにそれ以上何も告げず、いつもよりも足早に教室へ向かう。

教室も同じため、ルージェンスは教室に入っても近くにいた。

おかげでクラスメイトからもどんな関係か聞かれる始末だ。

やってられない。

流石に授業ともなると別々になるため、授業の間だけが平穏だった。


悶々としながら授業をすべて終え、風紀室へ向かう。

しかし今日は犯人に動きがまだないようで、ブレザーの届いていない私にはやる事がなかった。

その為早々に寮に帰る。

寮は男子寮と女子寮が分かれており、異性は1階のホールと談話室にしか入れない。

ルージェンスと早く別れたくて寮の自室に逃げ込んだ。


「随分と荒れているな。何があった?」


扉を閉めると、部屋の中から1人の男性が出てきた。

男性は長い銀色の髪をゆるくひとつに結わえ、深い藍色の目をしている。


水貴みずきか、驚かさないでくれ。」


召喚獣の1人だと認識して胸をなでおろす。


「他人の気配に気づかぬとは珍しい。リュウカの気が乱れておったから気になって様子を見にきたのだ。どうやら正解だったようだな。」


「すまない。見苦しいところを見せた。」


全く乱れがなく澄み渡るような気を発する水貴の前だと、たかだか幼馴染と口喧嘩した程度で心が揺れ動いている自分が情けなく感じる。

水貴の好きな玉露を入れようと料理場へ向かう。

飲み物と茶菓子の用意を終えて水貴のところへ行くと、水貴は軽く目を閉じていた。

私が近づくと目を開け、玉露を飲んだ。


「あいかわらず茶を入れるのが上手いな。して、何があった?」


「何でもない。ただのくだらない事だ。」


水貴に言うほどの事ではない。

この程度の事を水貴に告げてあきれられたくなかった。

水貴は茶菓子をつまんで食べる。


「そうか。くだらぬ事ならばリュウカは幼馴染の男とも手を切れ。リュウカの心を無駄に乱すような者は近くにいなくていいだろう。婚約破棄を申し出た男もそうだ。元婚約者はリュウカにふさわしい器でなかったというだけだ。」


「そ、それは……。」


水貴に淡々と告げられて言いよどむ。

本当にくだらない人物に心を動かされているのならば、その人物に関わらないというのは正しい。

例え性格が合わなくてもその人物が利をもたらす人物ならばくだらない人などではないのだから。


ガリアスは昔、跡取りであるがために男児と同じように育てられた私を受け入れてくれた人だ。

他の同年代の子には距離を置かれていたというのに彼だけが私という性格を受け入れてくれた。

だから女らしくないと言われたのはとても衝撃的だった。

ルージェンスも幼馴染であったが、ルージェンスは私が男だと思っていたようだ。

私にもそれが伝わったから、距離を置かれないようにルージェンスの前では男の子のように振る舞っていた。

ガリアスと婚約したことにより女と知られたから距離を置かれたものだと思っていた。

それなのになぜ今になって再び近づいてくるのかが分からない。

危険だから事件に関わるなと言われても、心配だからと相手の行動に口出しするほど今の私とルージェンスは仲が良いわけでもないだろう。

微かに胸が痛んだが、その思いごと心に蓋をする。

一昨日失恋をしたばかりなのにすでにルージェンスに思いが向かい始めているなどあってはならないことだ。

惚れっぽい性格ではなかったはずなんだけどな……。


2人ともくだらない人などではない。

大切な人たちだ。

顔を上げて水貴を見ると水貴が笑った。


「決意を決めた良き目だな。リュウカの好きにするが良い。しかし喧嘩をしたのならば仲直りをせねばならぬ。幼馴染の件に関しては互いに頑なになりすぎているのが原因だろう。もう少し譲歩しあう事が大切だ。元婚約者の方はもう大丈夫そうだな。あの男は元から器が小さかった。どうしようもない事だ。」


「ガリアスの件に関してはもっと前に何かしらの対応ができたはずだ。それをしなかった時点で捨てられるのも仕方がないだろう。相手の器が小さいのならば私が器を大きくしてガリアスの様子を見守らなければならなかった。ガリアスの悩みに気づかなかった事は私の責任だ。信頼すら勝ち取れていなかったのかもしれない。」


「いや、元婚約者の件はそこまでリュウカが責任を感じる必要はないだろう。兄が庶民の娘と駆け落ちして突然跡取りにされたからといって、リュウカに女らしくしろと言うのは間違っている。ましてあの男はリュウカのそういう性格を含めて好きだと言っていたのだ。自分で自分の言葉を否定するなどあってはならぬ事だ。振る言葉すらも間違えおったのだよ、あの男は。」


もしあの時こうしていればなどの後悔は絶えない。

しかし水貴にそう言ったらその後悔は次に生かせばいいと言われるのだろうな。

私の心がすでにガリアスから離れている事すら気づかれていそうだ。

長い時を生きている水貴がそばにいてくれる安心感につい口元が緩む。


「そうだな。私ももっと大きな度量のある人間にならないといけないな。」


「今回の件で見えたのはそこか? 少し変わった着眼点かもしれぬが我は面白いと思う。リュウカらしくて良い。」


笑いながら水貴がテーブルの上の果物を食べた。

飾り用の果物だが、おいしいのだろうか……。

色々と励ましてもらって感謝をしているが、水貴が飾り用の果物を食べた事は一番の衝撃を与えてくれた。


「み、水貴? その果物あまり良い物ではないんだ、食べるのなら別の物を持ってくるよ。」


「そんな事をせずとも良い。食べられぬ程まずくはない。」


爪を伸ばし、綺麗に果物の皮をむいていく水貴は一流の画家を呼びたい程に美しい。

何とも言えない気分になったが何も言わないでいると、水貴がむき終った果物を差しだしてきた。

おいしくないだろうと思うものの好奇心がくすぐられて、果物をかじる。


「まずくはないな。」


「だろう?」


いつも食べている食用の果物とは比べ物にならないが、まずくはない。

水貴が良いならいいと結論を出して、渡された果物を食べきった。

微笑みを浮かべて果物を食べる水貴に魔獣の襲撃の事を聞く。

あまり良い話ではないため嫌な気持ちにさせてしまうかもしれないが、魔獣に関しては私よりも水貴の方が詳しい。

そう思って聞いたのだが、水貴は魔獣の話をしたとたん難しい顔になり、今までの事件すべてを聞いた後客室に入っていく。

どうやら、しばらく滞在する事にしたらしい。

普段は精霊界にいる水貴が地上にとどまるのは珍しいが、魔獣の事件が気になるようだ。

今の状態の水貴から情報を聞き出すのは無理だと判断してテーブルの上を片付ける。

考えてもどうしようもない魔獣の件はとりあえず置いておいて、どうやってルージェンスに謝るかを考えながら夕飯を作る事にした。

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