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被害者の共通点

オリア先輩が戻ってきた後、シルバーウルフを調べて分かった事を伝える。

先輩も険しい表情になった。


「そう、魔力残滓がなかったの……。確かに私が今調べても見つからないわ。」


となると風紀委員や生徒会の関係者など学園に所縁の深い人物の犯行となるのだろうか。

しかし、そういった人たちの犯行とならなぜ空中から突然現れたんだ?

魔獣を監視しながら運ぶ場合は檻に入れて運ぶことになる。

当然犯人も近くにいるはずだ。

なのに近くには誰もいなかった。

空中から現れたのもおかしい。

悩んでいると、風紀委員長がこちらを向いた。


「リュウカ? どうかしたか?」


「今回の襲撃なのですが、魔獣が先ほどの女子生徒の背後から突然現れるのを目撃しました。」


「背後から突然? そんな馬鹿な! 結界に歪みはなかった。突然現れる訳が……。」


そこまで言って風紀委員長が何かを思い出したように考え始める。

オリア先輩も分からないようで不思議そうに風紀委員長を見た。

全員が風紀委員長を見ている中で風紀委員長が眉間にしわを寄せながら口を開く。


「生徒会長は空間魔法が使えるか?」


「いえ、使えません。」


なぜ、そんな質問をするのか分からずにルージェンスの眉間にもしわができた。

確かに空間魔法を使えば空中から物が出てくるように見える。

本来は作り出した亜空間から物を取り出しているのだが、はたから見ると空中から出てきたように見える。

しかし離れた場所から正確に魔獣を出現させる事は出来るのだろうか……。

それ以前に亜空間には生命体を入れることが不可能なはずだ。

生きた魔獣など入るはずがない。

風紀委員長の考えが分からずに首をひねる。


「空間魔法の使える人間が街に魔獣を放ったという事件が過去にあったはずだ。その時も結界に歪みはなかったと記録されていたと思う。ちょっと記憶があやふやだから調べなおしてみる。」


「あ、その事件なら知っています。どこの国だったかは忘れてしまいましたが、仮死状態にした魔獣を亜空間に入れて結界をくぐるというやり方だったと思います。ただ、その事件だと犯人が自分の近くに魔獣を出現させたはずですが……。」


旅をしていた頃に聞いたことのある話だ。

真似をする人が出ては大変という事で緘口令が出ていたほどの事件だと聞いている。

記録が残っているとは驚きだ。

私が知っているのも師匠が街を治める貴族に事件の要因を調べるよう依頼されたからだ。

だが、そういえば砂漠の国での事件だったかもしれない。


「とりあえず調べてみる。今回のように離れた位置から物を取り出せるのかもしれない。」


風紀委員長が面倒そうに頭を軽く振った。


「やる事が多いな。しかも立て続けに被害者が3人だ。ただ、3人も襲われたおかげで被害者の共通点が分かったな。」


「被害者の共通点?」


考えてもいなかった内容に思わず聞き返す。

被害者って1人目が私か?

2人目が4年Iクラスの先輩で、3人目が1年Cクラスの後輩。

性別くらいしか同じところが見つからないのだが……。

首をひねる私の隣でルージェンスが頷いた。


「そうですね。」


え、ルージェンスも分かるのか?

魔法属性は特に共通していないし、名前からして恐らく出身国も別々だろう。

一体何が共通しているんだ?

疑問符をとばしまくっている私の様子にルージェンスだけではなく全員が驚いた表情になる。


「嘘でしょう? だって3人とも有名じゃない。」


オリア先輩が目をまん丸にしてこちらを向いた。


「有名……。」


私が有名ってなんだろう。

変なことだと嫌だな。

ちょっとずれた事を考えていると、オリア先輩が軽く頭を振った。


「3人とも転入生に婚約者を取られた女子生徒よ。いくらなんでも噂にうとすぎないかしら?」


「す、すみません。」


色恋の噂は得意ではなく、知らなかった。

あの2人も婚約者が転入生に惚れたのか。

ガリアスに縋り付いた時の事を思い出して切なくなる。

2人ともいい人に見えたんだがな……。

何とも言えない気分になって視線を彷徨わせる。


「でも、こうなると犯人の狙いがまったく分からないわ。婚約者を取られた3人が結託して転入生をつぶすっていうのなら考えられるけど、なぜ取られた人の方が狙われるのかしら? あ、リュウカの前で言うような事ではなかったわね。ごめんなさい。」


「いえ、むしろ私は犯人が気になります。ですから気にしないでください。犯人につながりそうな事があったら隠さずに教えてくださった方が嬉しいです。」


「報復とかは考えては駄目よ。いくらリュウカが被害者の内の1人だとしても下手な事をすれば犯罪になるわ。」


「分かっています。私は犯人がなぜ私たちを狙ったのかが知りたい。愉快犯だったら頭に来るかもしれませんが、魔獣を使うほどという事はもっと何かあるはずです。」


「そうね。理由もわからないまま怯えて暮らすというのは嫌よね。」


オリア先輩がそこで一度話をくぎり、風紀委員長を見た。

風紀委員長は頷いた後ニッと笑う。


「別にリュウカがこの事件に関わってもいいんじゃないか? 被害者は知る権利もある訳だからなあ。この国では。」


「ありがとうございます。」


頭を下げると風紀委員長が頭を軽く2回ほど叩いた。


「ほら、今リュウカが抜けるとそこで怖い顔をしている生徒会長ときゃんきゃん吠えるオリアと一緒に事件を追うことになる。それは流石にオレが耐えきれる気がしねぇ。」


「きゃんきゃん吠えるって何よ! いつもダラダラしてるくせに!」


「今はちゃんと仕事るぞ。」


自信満々に風紀委員長が答える。

表情も誇らしげだ。

確かに今の風紀委員長はしっかり仕事をしているのではないかと思う。

出会った時の何とも言えないだらしなさが感じられない。

むしろ気力に満ちている。


「そうね、普段からこのくらい仕事してくれれば私も楽ができるわ。」


「うっ。」


オリア先輩の冷たい視線に風紀委員長がつまった。


「そんな事よりも、今後どうするかを考えないといけないわ。魔獣に襲われたという事すら今はまだ噂になってない。犯人は殺害に失敗したと気づくでしょうね。犯人の狙いが殺害なのかは分からないけど。」


「殺害でないとなると脅しか? だが、何に対する脅しだ? 今回の事件は犯人の狙いがまったく分からない。次に狙われるのは誰だ? それとも転入生に婚約者を奪われた生徒は皆襲ったから襲撃はなくなるのか?」


次に狙われる可能性がある生徒……。

転入生に婚約者を奪われた人の殺害が目的ならば、次に狙われるのは3人のうちの誰かだ。

今回の事件は無差別な魔獣襲撃事件じゃない。

被害者に共通点がある。

ということは犯人に何かしらの狙いがあるはずだ。

犯人は一体何を考えている?


今ある手がかりは少なすぎて犯人の目的が分からない。

他の3人も難しい顔をしているだけで意見がでない。


「まだ、分からないわ。次に誰が襲われるかで分かる事になりそうね。」


完璧に後手にまわっている。

犯行を食い止めようにも動きようがない。

悔しそうな表情でオリア先輩の告げた事に頷く。


「そうですね。次に被害者の3人が襲われれば狙われるのが3人に絞られます。もし3人以外でも何らかの共通点があれば、被害にあう人が絞られると思います。」


「事件が事件だから、生徒全員にこういう事件が起こってると言うのも今の段階ではできない。伝えれば不要なパニックが起きるだろう。とりあえず、今回の被害者3人には風紀から護衛をつけるか。」


「風紀委員の護衛ですか? 犯人が風紀委員の可能性もあるのに護衛を任せるのはやめておいた方が良いのではないでしょうか? 護衛が犯人だったら目も当てられません。」


今まで黙っていたルージェンスが風紀委員長を見る。

風紀委員長は辛そうな表情を浮かべながら口を開いた。


「だが、風紀以外で護衛をするような生徒に心当たりがない。それぞれの被害者の友人に頼んでもいいが、1年生の友人では魔獣に対抗するすべがない。4年生の生徒は戦えるかもしれないが、Iクラスだとシルバーウルフ相手でも辛いだろう。むしろあの先輩はIクラスの中ではトップの戦闘能力だろう。」


「4年のSクラスの先輩に頼んではどうでしょうか? 4年生なら魔獣と戦うことができ、Sクラスならばシルバーウルフ程度たおせるでしょう。」


「そこから噂になって騒動が起こる危険性がある。噂が広がれば犯人が喜ぶだけかもしれない。」


現時点では犯人の狙いが分からないため、噂が広がるのを避けたいのだろう。

生徒に詰め寄られても安心させられるだけの情報がないのだから。

ただ、犯人の可能性のある風紀委員が護衛をするのを問題だと言うルージェンスの考えも分かる。

重い空気の中、ルージェンスが黙った事により風紀委員が護衛をすることが決まった。

護衛をする風紀委員は信用のおけそうな生徒を選び、なおかつ被害者一人につき3人の風紀委員がつくようだ。

護衛をする風紀委員が1人にならないようにする事で、もし護衛の風紀委員が犯人だとしても行動しにくくする。

今のところこれ以上の案が出なかったため、明日から被害者には護衛がつく事になった。

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